第543話 ドワーフへの外注

 フィアナとクロネの解放の話が終わると、それからは細々とした話が続く。俺たちが動いていい範囲やドイトリ達と話をするにはどうすればいいか、また飛空艇がやってくる際はどこに着陸すればいいか、などなどをだ。


 それぞれの細かい部分が終わると早速とばかりにドゴエスやその周囲のものは動き出し始める。


 それに伴い俺たちも解散しようとするのだが――


「バアルさん、少しいいかな」


 こちらもようは終わったとばかりに退室しようとすると、部屋の中からユートに呼び止められる。


「なんだ?」

「色々と感謝したくてさ。今回君が画期的な発明をしてくれなければこの反乱はあまり現実的ではなかったから」


 そう言ってユートは握手を求めてくる。


「済まないが、この場での握手は控えさせてもらおう」


 やんわりと断ると、あちらの護衛三人がムッとした表情をする。


「握手も?」

「ああ、今の俺は虜囚の様なもの、それなのに敵の友好組織の長と握手はまずい」


 笑顔でそう告げると、あちらも仕方ないと笑って手を引っ込める。


「一つだけ、質問をいいかな?」

「答えられるものならば」


 完全に作り上げた笑顔でユートに対応する。


「君も転生者?」

「……あのセレナも言っている与太話のことか?」

「違うのかい?そうじゃなければあの魔道具はどうやって、作り出した?」


 ユートは笑顔だが、目だけが笑っていない状態になる。


「魔道具をどうやって、か。一言で言えば本で知恵を付けて、工夫した。それだけだな」


 この言葉に嘘はない。なにせ前世で教科書などを見ながら様々なものを学んだのだから。


「……その本の著者は?」

「すまんが、そこまでは覚えていないな。何とも不思議な名前、ヒノクニに似たような名前の響きだったが」


 実際日本人の名前はヒノクニの響きに似ている。そのため、この言葉にも嘘はない。


「……そうか」


 こちらの言葉にユートは少し考えこむ。


(さて、どう考えている事やら)


 おそらくユートは三つの可能性を考えているはずだ。俺が転生者である場合、セレナに教えてもらった、そして本当に本で知識を得た場合を。


「失礼、質問がそれだけなら行ってもいいか?こちらはまだドワーフたちと話があるからな」

「どうぞ、引き留めて申し訳ない」


 その後、最低限の挨拶をしてから、この部屋を出ていくのだった。













 その後、領主館にいるドワーフに案内されて、別室に移動する。そこで待っていたのは――


「すまん、ユートに少しばかり捕まった」

「いや、そこまで待っていないから気にするな」


 軽く遅れたことを謝罪すると、ジアルドが問題ないと言う。


「待っといたぞ、それで飛空艇のことじゃろう?」

「その通りだ」


 ドイトリの言葉に肯定しながら、二人の対面に座る。


「それで先ほどの続きだが、ジアルド達からしたら少々少ないと感じている、という事だろう?」

「ああ、兵士達だけならまだわかるが、こっちは老人、女性、子供もいる。バアルは先ほど最低でも3日と言っていたが、それは何の問題・・・・もなく動いた場合だろう」

「その通りだ」


 現在、飛空艇を使用しているのは主に海の上。そのため、空飛ぶ魔物の数は陸地よりも圧倒的に少なく、飛行しやすい。だが今回は陸地の上を飛ぶため、魔物の襲撃があればそれに対処する必要がある。


(それに国内から邪魔されないわけではないからな)


 東部貴族からしたら、せっかく懇意にしていたネンラールの国力が低下するのはあまり歓迎する事態ではない。もちろんグロウス王国だけで考えれば利となるが、当然、国内には様々な者がおり、そのつながりも多種多様だ。中にはドワーフと直接取引があった貴族もいることだろう。


「では、どうするつもりだ?私たちに少しだけしか分け与えず、徐々に衰弱するのを待てと?」

「いや、そのつもりはない」


 そんなことをしてしまえば結局は再びネンラールに飲み込まれてしまい、今までの苦労が水の泡、そして取れる利益はほぼゼロになってしまう。


「ちなみにここドミニアの人口はどれくらいだ?」

「ドワーフだけというのなら……少なくとも10万はいるだろう」

「正確にはわからんがな。なにせ周囲の村々からも人を集めているからのぅ」


 ジアルドとドイトリの言葉から、大体それくらいだという。


「なるほど、ちなみに聞くがどれくらいほしい」

「当然、私たちが飢えることがないほど」

「なら取れる方法は一つ、飛空艇による輸送量を増やすしかない」


 そう告げると、ジアルドとドイトリの視線が剣呑さを持ち合わせる。


「まさかとは思うが、飛空艇を儂らに作らせるつもりか?」

「はは、本当にそう思うか?」


 そう言いながらテーブルに用意されている水を飲む。


「違うのか?」

「まぁ、補助という面では間違いではないな」


 そういうと、俺は一つの書類を『亜空庫』から取り出し、二人の前に移す。


「そちらにはこれを造ってほしい」

「???それと?」

「正確にはコンテナと装甲だな」


 これがここ数日で考えた飛空艇案だった。


 さすがに飛空艇自体をドワーフに作らせる気はないが、付属品や魔物の襲撃や魔法に対する装甲だけは作ってもらうつもりでいた。


「これを造ればどうなる?」

「それはもちろん、飛空艇の数を増やしやすくなる。なにせ用途を完全に輸送用に限定すれば、より簡易に作れるからな」


 ケートスは万能に活躍できるように、様々な機能を積んでいる。それを言い換えると、その機能を制御するためのシステムを俺が積み込まなければいけなくなる。


 それを、飛行、そして魔物の追い払いだけに限定すれば、それなりに簡易に作れるようになる。


「ふむ、装甲は理解できるが、このコンテナは必要なのか?」

「ああ、それだが――」


 わかりやすく例えるなら貨物列車である。従来の列車はしっかりと乗客を考えてそれなりの車両を造らなければいけないが、コンテナを運ぶだけとなると、レールに乗る部分とコンテナを積む部分だけを造ればいいだけとなる。


 もしドワーフがコンテナを自作するのなら、飛空艇の貨物室の部分を俺が作らなくてもよくなる。


(そうすれば必要なのはコックピットと最低限の生活スペース、飛翔システム関係だけを取り付ければ問題ないだろう)


 要は問題ない部分を外注して、確実に守りたい秘密がある場所だけをこちらで作ると言うことだ。


「どうだ?できそうか」

「まぁ、できんことは無いが……」

「そうだな、工房は動かせる。武器も売り物を作る過程で豊富、現在の工房では鉄製の矢や破損した武具防具の修復ぐらいだからな」


 ということで、二人とも、これらの製作には問題ないと告げる。


「それよりも、問題はバアル、お主の方じゃ」

「俺か?」

「ああ、これらを造るためにはバアル、お主が一度帰らなければならんじゃろう」


 ドイトリとジアルドは俺が飛空艇生産のために帰してしまえば、飛空艇を飛ばす大義名分が無くなると判断していると言う事らしい。


「???そんなもの、俺が帰る前に陛下と話を付ければいいだけじゃないか」


 最終的には俺はいつかは帰る。だが、その際に飛空艇が飛ばなくなることを危惧しているのなら、俺は何時までも帰れないことになってしまう。そのために、陛下と話を付けて、本格的にグロウス王国とグウェルドで条約を結べばいいだけだ。


「なるほど、そのための話も考えておかねばならないか……」

「だろうな、関税、物資の輸送、俺以外の人質の話と、色々と話が出てくることだろうな」

「他人事みたいに」


 ドイトリはなんでそう暢気なのかと呆れる。


「ということで、正確にはその条件が決まり、俺がゼウラストに帰える。その後、規格のあったコンテナを簡易に輸送できる飛空艇を作り出して、それを運用していくという話だな」


 ここまで説明するとドイトリもジアルドもしっかりと考え込む。


「……いくつ造ればいい?」

「最初はそう数は要らない。だがそれは最初だけで、飛空艇の数が増えればその分必要になっていくだろうな」

「価格はどうする?」


 次に出たジアルドの言葉でやや苦笑する。


「そこのところも相談だな、それで――」


 それから、話し合う。最低限の条件として魔法が付与できる鋼材で造ることや、飛空艇で運ぶためにいくらかのとっかかりが必要な事、そして値段や個数、そして受け渡しをどのようにするかなどなどをだ。


「――、ひとまずはこれくらいだな。本格的な値段交渉などは陛下と話が着いてからにしよう。ただ、コンテナと装甲はあらかじめ造っておいてほしい。最悪、話がご破算になっても俺が買い取る」


 軽いすり合わせだけを行う。なにせ本格的に話をするとなると、国家間で条約を見ながら考えなければいけないためだ。


「……バアル、ここまでしてくれて感謝する」

「儂もじゃ」


 ここで出来る話を終えると、解散しようとすると、二人が改めて頭を下げる。


「感謝を受け入れる。だが、こちらも利益を生むと理解しているために行っている」

「それでもじゃ、儂らにできることならなんでも言ってくれ。もちろん安くしておこう」

「期待している」


 こうして、二人への依頼を終えると俺は領主館を後にするのだった。

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