第530話 彼らの経緯
怪しい4人組からフィアナとクロネをもらい受けると、一度宿泊所に戻り、使用していない一室、それも地下室を使って尋問を行う。
「それで、あいつらは正真正銘アジニア皇国の関係者なんだな?」
「そのと~り」
こちらの言葉にフィアナとクロネは頷く。
「それとさ、いい加減に縄を解いてくれないかな?」
そしてフィアナは自身の手首を縛っている黒い触手を差し出してくる。
「どうするであるか?」
「まだ駄目だ」
触手は当然のようにオーギュストのものでフィアナとクロネの腕の自由を封じていた。
「ちょっと窮屈すぎるのだけど?」
「仕方がない、お前たちの素性を考えれば拘束は必然だ」
「だから抵抗なんてしないってば」
こちらの対応に不満なのかフィアナが頬を膨らます。
「バアルと、そっちの二人もいれば私たちが部屋すら出れないのもわかるでしょ?」
フィアナとクロネの視線がオーギュストとダンテに向く。
「まぁ、そうだろうな。だがお前たちの素性を考えれば、とにかく拘束はしておく必要がある」
「なんでさ、敵でもないのに!」
「この宿泊所には
ピタッ
こちらの言葉でフィアナの動きが止まる。
「俺は正直、お前たちをどうこうしようとは思っていない。もちろん、何か騒ぎがあって、それにお前たちが起因しているなら話はべつだが。そしてこの宿泊所にはノストニアの姫がいる、そいつらに見つかって過去が明るみに出れば俺はお前たちを処分せざるを得なくなる」
「じゃあ、逃がしてよ、それが一番手っ取り早いじゃん」
「すると思うか?」
フィアナの言葉に笑顔で答えてやると、あちらは項垂れる。
「一時的には窮屈だが、
「つまり、この薄暗い地下室に居れば、出会うことはまずない。そして手錠をされていればとりあえず戦闘にはならないと?」
「ああ、それにだ――」
フィアナの耳元に近づくと、小声でささやく。
「もし、本当にアジニア皇国の関係者なら、お前が必要不可欠になる。そしてそいつらがお前たちを
言葉の裏に、手引きしてやると伝える。
「はいはい、なら大人しくしてますよ。そうすればひとまずは安全なんでしょ?」
「それは保証しよう。もちろん食事なども用意する」
この言葉でフィアナとクロネはひとまず安心して、そして諦めた表情になる。
「さて、それで、話を続けよう。あいつらがアジニア皇国の関係者ということはわかった。それでここまでに来る経緯を話せ」
「はいはい、あと、簡易でもいいんでベッドをお願いします。そうすれば口が軽くなりますよ」
「あとで手配してやろう」
「ではでは、お耳を拝借、―――」
そこからフィアナ達はあちら側の行動を説明し始める。
まず、フィアナ達は五年前のノストニアの件以来、東方諸国を中心に活動していた。ちなみにその時、アジニア皇国の皇帝についての調査を依頼していて、それなりの情報を貰っていた。その後の消息は不明だったため、それ以降の行動はわからない。だがノストニアやネロの時の様に裏家業をしていることは予想がついていた。そしてその家業は誘拐と移送をしていたとのこと。
「――で、戦争が始まって、まぁそれなりに稼いでいるとあの子から声を掛けられてね、それでアジニア皇国からここドミニアへの移送を請け負ったという話」
「……途中でドワーフたちを助けたとと聞いたが?」
6人と会っている時ドワーフがそんなことを漏らしていた。
「ああ、それは―――」
どうやらあの4人、正確にはフィアナ達を合わせて6人はここドミニアに来る途中の、例のドワーフの子供とそれを守っているドワーフの戦士団を見かけたらしい。それも最悪というか好機というか、どうやら何かしらの組織からの襲撃を受けている最中だったという。
「確認だが」
「多分ネンラールの手勢。予想だけど、どこの家の私兵だね」
「詳細は聞きだしていないのか?」
「無理だった、で、その後だけど―――」
そこからは物語によくある流れのように、自らの素性を話し、ドワーフたちに受け入れられ、護衛を頼まれる。そして数日掛けてドワーフたちと仲を深めて、何度も来る襲撃を跳ね返してから、ドミニアに入り込んだというわけらしい。
「―――ということなのだよ」
「……なるほど」
フィアナの話を聞いて興味はあの四人組ではなく、襲撃者たち向く。
(襲撃を計画したということは、それなりに動きが読まれていることになる。もちろん後出しで、急遽襲撃部隊を動かした可能性もあるが……)
ドワーフたちが子供たちを救出するために動き、うまくいけば使える札になると判断して急遽動かしたのなら、まだわかる。だが、そうではなく―――
(子供達の退避の遅れすら策の内だったら、すでにかなりの速度で動き出していることになるか)
それが意味するのはあちらの動きが数巡速いということ。もしそうならばこのドミニアの中ですでに動き出していてもおかしくないことを意味していた。
「で、最後に、ドミニアに入って仲良くなったドワーフたちから頭目の場所に案内されようとしているとバアル様が現れたということさね」
「事情は理解した、それで、あいつの素性だが――」
コンコンコン
最後の確認をしようとすると、扉がノックされる。
「どうした?」
「皆さんが帰ってきました。それとそろそろユルグ=ミセ・アファーエズ様との会食の時間だと、ユリア様が探していました」
「……少々長々と話過ぎたか」
現在は地下室にいるため、時間の感覚が少しぼやけていたらしい。
「話は終わりだ、とりあえずここで大人しくしていろ」
「はいはい、柔らかいベッドをお願いしますよ」
時間が来たことで話を終えると、俺たちは二人と部屋に置いたまま地上に戻る。
「オーギュスト、あの手錠は」
「安心してほしいである。アレはワガハイの一部、千切られたら即座にわかるのである」
「ダンテ、あの二人が暴れた際に逃がさないように」
「してあります。仮にバアル様が暴れ出しても、無事に押さえつけられるようにしていますよ」
ということであの二人に対して備えは万全だと言う。
「ダンテは引き続きこの場所の守護、騎士たちはあの地下室の入り口は必ず数名で見張るようにしておけ」
「「はい」」
最後に、騎士たちにそう指示してから俺は自室に戻るのだった。
「よくぞ来てくださった」
「ユルグ様、招待いただきありがとうございます」
時間になると、俺たちはユルグの正体に応じて領主館に訪れていた。今回は俺と護衛のティタとオーギュストと騎士たちのみで他は連れてきていない。ちなみにユリアも同じような状況だった。
「バアル様もよくぞいらっしゃった」
「招待していただき感謝します」
握手を求められるのでそれに応じる。そして同時に相手を観察する。
(これまた、服に着せられている状態だな)
ユルグという男は、よく言っても見目が良い部類ではない。もちろん髪や服を整えていることから綺麗にしていないわけではないが、それでも異様に贅肉がついている分、ほんの少しの動きで脂汗が溢れていた。
そして金糸や豪華なブレスレットやブローチ、宝石で作られたボタンや指輪、ドワーフの力作と言える装飾品が多数身に付けられていた。おそらく、本人も意図して、そちらに目が行きやすいように着ているのだろう。
(それにこの宴会場も力作だな)
領主館の一角には異常なほど大きな宴会場が用意されており、俺たちはそこに足を踏み入れていた。
そしてモノづくりの権化と言えるドワーフの技術を見せびらかすように宴会場は豪華に飾られていた。天井には時間に寄りうっすらと色を変えるシャンデリア、壁には様々彫像に異常なほど大きな宝石で作られた壁飾り、そして壁自体も宝石を埋め込まれた大理石で作られている。ほかにも床は天上すらはっきりと写す石材を使って作られており、さらにはテーブルすら、調度品と言えるほどしっかり彫刻されており、芸術品とも呼べそうなほどだった。
(それにしても食料が少ないはずのドミニアで立食パーティーとはな)
テーブルには食糧難に苦しんでいるとは思えないほど豪華な料理が山の様に用意されていた。
(しかし、ほとんど人族とはな)
軽く見渡してみると、ほとんどが人族で、ドワーフの姿は全くという程に見えなかった。
「では、バアル様、こちらをどうぞ」
「ああ、ありがたくいただこう」
給仕をする人族の侍女からグラスとそこにアルコールが注がれる。
「では、バアル様とユリア様との長い友好を願いまして、乾杯」
その声で、それぞれがグラスを鳴らして音頭に倣い、酒に口を付けるのだった。
(さて、どうなる事か)
少しばかり面白みを感じながら俺もグラスに口を付けるのだった。
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