第529話 どちら側なのか
「「「!?」」」
集団の前に降りたつと、感じたことのある気配の主の名前を呼ぶのだが、それ以上に相手は急に現れた俺に動揺していた。
(先頭の二人はドワーフか?)
そして相手が動揺している中でも観察を続ける。人数は8人、そのうちの二人は背丈からドワーフだと推察できる。そして6人のフードの中で、気配は間違いなくアルカナ、それも『吊るし人』となれば二人は容易に推察が出来る。
「なんですか、貴方は、急に現れて」
不明なフード四人のうちの一人が声を上げる。
(遠目からではわからなかったが、ほとんど女性か)
フィアナとクロネはもちろんのこと、あとの二人は女性らしい体つきがフードの下から主張しており、残り二人が性別不明だった。
「おい、にぃちゃん、こいつらはドゴエスの旦那の客人なんだ」
「今、急いでいるから退いてくれるか?」
観察していると、ドワーフの二人は何か焦りながら言葉を紡ぐ。
「へぇ、お前たちはその二人がどんな奴か理解しているのか?」
「さぁな、だが一昨日から助けてもらったからお前よりは信頼できるぜ」
そういうと、ドワーフがフードを下ろして、腰についているトマホークに手を伸ばし始める。
(……そろそろか)
トッ
「お待たせしたのである」
「「「「!?」」」」
オーギュストは退路を塞ぐように降り立つ。
「遅かったな」
「それは申し訳ないのである。バアル様が早すぎるがゆえに」
俺たちはフードの集団を挟んで軽口を言い合う。
「フィアナ、でてこないつもりか?」
「……はぁ~~」
こちらの言葉にフードの一人は長いため息を吐いて、傍に居るもう一人と共に前に進み出る。
「久しぶり、バアル様、カッコよくなりましたね」
フィアナがフードを下ろしたことで、傍にいるクロネもフードを下ろす。
「そっちも綺麗になったじゃないか」
フィアナは五年前よりは多少伸びたが、それでも背は平均より少し低い。そして以前は肩までしかなかった薄緑の髪を、しっかりと背中ほどまで伸ばしており、少女ではなく落ち着いた女性と言った雰囲気を見せる。
もう一人のクロネだが五年前も背は高かったが、それからさらに伸びたのか、女性の中でもかなりの高身長を誇っている。そして特徴的な白髪を切り揃えており、日焼けしたのか健康的な褐色肌がコントラストを強めていた。
正確な年齢は不明だが、二人とも、以前あった時よりも、大人びており、その分の美しさを兼ねそろえていた。
「それはありがと、で何の用?こっちは仕事中なんですけど?」
世辞は聞きなれているのか、フィアナがおどけるような仕草をしながら真剣な眼差しを向けてくる。
「用件は、簡単だ。
「仕事の内容を漏らせと?」
こちらの言葉に視線を強めたクロエがそう答える。
「お前たちの稼業を考えれば、放置しておくことはできない、わかるな?」
フィアナとクロネはエルフの誘拐やらネロの誘拐未遂を行った。それ以外にも裏の世界で仕事をしているため、ここで放置する選択肢はまずありえなかった。
(状況次第ではこの場で殺すことも視野に入れる)
バチッ
「「「「っ!?」」」」
こちらの剣呑さに気付いたのか、残りのフードたちが一人を庇う様に構える。
「どうしても言わないとダメ?」
「ああ」
「……クロネ」
「逃げきれても無事では済まない」
フィアナは相棒のクロネに相談するが帰ってきた答えがこれだった。
「はいはい、言いますよ。見ての通り人を運んでいます」
「誰だ?」
「それは――」
シャキッ
フィアナが口を開こうとすると、フィアナの後ろから柳葉刀が首筋に当てられる。
「名を告げれば殺す」
「ということで、どうにかなんない?バアル様?」
フィアナは仕方ないとばかりに両手を見せるように上げるながら訪ねてくる。
「なるほど、名が出されれば困る人物か」
「そうそう、だから私たちのことは放っておいて――」
「なら、余計に知る必要が出てきたな」
フィアナの言葉に笑いながら答えると、フィアナは大きくため息を吐く。
「あのさぁ、喋れば殺されるんだけど?」
「だから?」
フィアナがため息交じりにそう言うが、こちらは関係ない。
「時間がないんだろう?俺かそっちか、どちらと敵対したいか選べ」
「えぇ~~」
こちらが引かない姿勢を見せると、フィアナが本当に困った表情をしだす。
「待て待て待てぇーー!!」
フィアナが困っていると二人のドワーフがこちらにやってくる。
「おい、兄ちゃんよぉ!!こいつは俺たちの頭目、ドゴエスのおやじの客人だ。そいつに
「へぇ」
ドワーフが前に出てきたことよりも、その言葉に聞き逃せない部分があった。
「お前たちはフードの中身が誰か理解している、そうだな?」
「……ちっ、兄ちゃん退くのか、退かないのかどっちだ」
こちらの言葉に取り合うことなく、ドワーフは威圧してくる。
「さて、フィアナ、答えを聞こう」
「おい、てめ――」
バチッ
掴みかかろうとしてくるドワーフの腕を掴み、感電させる。
「はぁ、仕方な――――」
「少し待ってほしい」
フィアナが何かを告げようとすると、その前にフードの一人、それも庇われた一人が前に出てくる。
「一つ、聞きたい、そちらが懸念しているのは、僕たちがネンラール側だと思っているからですよね?」
「どうだろうな」
「なら、そう仮定したうえで話を進めます。僕たちはアジニア皇国の関係者です。今回の行動はネンラールとはむしろ逆、ドワーフたちを助けようとしているのです」
「それが本当なら全員フードを取れ、そうすればひとまずは矛を収めよう」
「わかりました」
そういうと目の前の人物がフードを外す。
(黒髪に黒目、そして童顔か、前世の日本人を見てるようだな)
目の前の人物は日本人の特徴とよく一致していた。
「僕の名前は―――」
「いい、どうせ偽名を名乗るつもりだろう?」
「はい、そのつもりです。ほら、皆も」
目の前の男の言葉で、ほかの全員もフードを外す。
「紹介します、ファラにミスズにミィンです」
ファラと呼ばれた人物は先ほどフィアナに剣を向けていた女性、黒髪をポニーテールにしており、顔はアジア系で冷やかな美しさを持っていた。また服装はどこかの部族装束を着ており、その服の上からでもわかるほど女性的な部位は発達していた。
そしてミスズと言った少女は中国服に似た服装をしており、髪はファラ同様に黒髪、そして髪はハーフアップにしてあり一部が編み込んでいた。顔立ちは同じアジア系だがファラとは違い優し気、そしてその手には何枚もの札の様な物が握られていた。
最後にミィンと言った女性だが、彼女も黒髪だが、ほかの二人と違い、やや小柄であり、女性らしい特徴が少ない。そして中性的な顔立ちであり、服装もどちらかと言えば男よりの服装をしており、動きやすいようにされている。
「それらも偽名か?」
「どうでしょう」
こちらの言葉にあちらは笑みを浮かべるだけで終える。
「まぁいい、それでここに来た理由は?」
「それはお話しできません。僕たちも国に関わる事なので」
こちらの言葉にあちらは答えようとしない。
「なら、本当にアジニア皇国の者か判断できないな」
確証が取れないため信用できなかった。
「……仕方ありません。僕はアジニア皇国王室の関係者です。今回は言伝とドワーフたちと連携を取るためにやってきました。そしてフィアナとクロネですが、彼女たちは国境を越えるために雇った者達です」
俺が視線を向けると、フィアナとクロネは頷く。
「その二人が証人とでもいいたいのか?」
「足りませんか?」
「足りないと言ったらどうする?」
こちらの言葉にあちらは苦笑する。
「バアル様の立ち位置は理解しているつもりです。そして貴方は
目の前の人物に話を続けろと促す。
「ここでもし僕たちがアジニア側だと偽装していた場合、主要な面々を排除するなりしてしまえば、確かにドワーフたちの芽を摘むことが出来ます。ですが、それはドワーフたちが失敗するだけで貴方達は偶然囚われそうになったと何食わぬ顔で帰ればいいだけの話になります。では、逆に僕たちの話が本当だった場合、物事は予定通りに行われることになるでしょう。そしてそうなれば当然貴方にも利が生まれるはず」
「見逃しても損はなく、見逃せば利が生まれるか」
目の前の人物の言い分はわかった。
「それでも、危険人物だと判断し、通さなかったら?」
「考えてください。僕たちたった四人によって主要な人たちが排除されるなら、貴方の協力を得たとしても結局は力不足だと思いません?僕たちより強い者などいくらでもいます。貴方の様に」
たった四人が会いに行くだけで護衛は役目を果たせずにそのまま暗殺されるぐらいなら、初めから勝敗は決しているという。
(あながち間違いでもないんだよな)
目の前の人物が本当のことを言っていても、嘘を言っていても、こちらには損はない。むしろ試金石として役に立つという。実際、この四人がドゴエスに会うとしても何の警戒もしていないとなればそれはそれでドワーフ側の詰めが甘いことにも繋がる。
「これでも道を譲ってもらえませんか?」
「なら、フィアナとクロネをこちらに渡せ」
俺の言葉に二人は驚く。
「私達!?人質!?」
「なるほど……いいでしょう」
話が本当なら彼女たちは行き来のための足、それを抑えておくことで信用が増す。もし嘘だった場合、離れたところで二人から聞き出せばいい話だ。それも二人に、ドワーフたちに死人が出れば、お前たちを殺すとでもいえば、黙っている必要性はない。なにせ当の二人はばらした後、逃げればいいだけの話なのだから。
「決まりか?」
「はい、お二人を預けます。ですが、帰りにも力を貸してもらうので、どこかに放りださないでくださいね」
「あのぉ~なんか私達のあずかり知らぬところで話が進んでるんですけど~~」
「……諦めろ」
話がまとまると、フィアナとクロネがフードたちから離れる。
「聞いていたな?本当に万全を尽くしたいなら、一人は先回りしてドゴエスのところに行って、こいつらが暗殺者の場合に備えさせろ」
「「……」」
最後に、感電も収まったドワーフ二人にそう声を掛けてから俺は道を譲る。
「後日、またお会いになると思うので、その時まで」
「話が本当ならな」
その言葉を最後に、
〔~???視点~〕
「ふぅ~~~」
あの二人の横を通り予定通りドワーフの頭目に会いに行くのだが、その際に安堵の息が漏れる。
「お疲れ様です」
「ありがとうミスズ」
「それにしても、失礼しちゃいますね」
ミスズが水を渡して着ながら、ドワーフが
「仕方ない。彼の話も間違いじゃない」
「ですが」
「僕は大丈夫だから、ね?」
僕はミスズの頭を撫でて落ち着かせる。
「それにしてもいいのか?二人ぐらいならあたしらとお前で――」
「ファラ、ダメだよ」
恐ろしいことを言いかけたファラを口で制す。
「なんで?強いの?」
「その通りだよミィン。本当に殺そうと思っていれば、僕たちは次の瞬間には死んでいる」
「あのおじさんがそこまで強いの?」
ミィンは背後にいるあの老人を見ていたため、警戒がそちらの方に向いている。
「いや、彼も強いけど、それよりもバアル、あの人の方が恐ろしいよ」
「そうなのか?身のこなしはそこまでだった気がするが?」
ファラが技量を感じ取る限りでは強いとは思えなかったらしい。
「ファラ、これまで僕が強さを見間違えたことは?」
「愚門だったな、すまん」
その後、僕たちはやや遠回りしながらドワーフの頭目の居場所にたどり着く。
(まさか
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