第528話 魔具の改造

「魔具を改造できるのか?」


 魔具、それはダンジョンから産出される、魔法の武具。その大半は原理が不明で、分解自体ができない物も少なからず存在している。


 そのため普通に考えれば原理がわからない物の改造など、出来るわけがないはずだった。


「まぁ難しいがな」


 ドイトリはできないことはないと肩を竦めながら答える。


「どうやる?」

「さすがにそこまでは話せんわい」


 流れで手法を聞くが、そこまで口は軽くないらしい。


「……なら、その剣はどう改造された?」


 ならと思い次に聞くのはどう改造されたがだが、こちらすんなりと教えてくれた。


「簡単じゃわい。元はこの魔剣は切っ先から火を放つというものだったが、これを盾の魔具、魔力を流すことで魔力の盾を生み出す物と組み合わせたんじゃ。その結果は―――」


 ドイトリが剣を構えて魔力を流して発動すると、剣に火が灯り、剣に纏わりつくと、より大きく長い赤色の刃となった。


「このように火を剣の形にすることが出来るようになった」

「へぇ、使えるのか?」

「おうよ、無暗に火を吹かないどころか、刀身に触れれば相手を焼き切ることも可能じゃ」


 ドイトリはそういうと剣に魔力を込めるのをやめて、改造魔剣を鞘に戻す。


「ほかにもあるぞ、決勝戦で使った籠手もそうじゃな」

「あれらもそうなのか?」

「ああ、元は雷で反撃するという籠手じゃったんだが、それを物を引き寄せる魔具を組み合わせることでああなった。ほかにもな―――」


 それからドイトリは得意げに話す。土人形を作り出す魔具と幻影の魔具で瞬時に身代わりを作る魔具や、魔石を使用することでその属性になる剣の魔具と、魔力で矢を作り出す弓の魔具で、魔石を使用して多種多様な属性を持つ矢を作り出す弓の魔具、他にも爆発する魔具と防具の魔具を組み合わせて、爆発装甲の様な魔具などなどが揃っているという。


「まぁ、全てが成功するわけじゃないがな、以前は炎系の籠手型魔具なのに、なぜか外ではなく中で炎が噴き出す魔具とかも出来ていたわい」

「それはまた……」


 防具なのに、使用すれば敵に反撃するでもなく、むしろ自分が傷つく代物だった。ほかにも魔力を使用して切ると、なぜだか刀身が幻になり、敵が無傷になる魔剣や魔力を流せばむしろ柔らかくなる鎧など、使い道がほぼ皆無な魔具が出来上がってしまうと言う。


「どうじゃ、何なら不要な魔具を改造してみんか?」

「いや、今は手持ちがない」


 いくつか使用していない魔具はあるが、それらを改造してほしいとは思っていない。


「なら、これを使うである」


 俺がドイトリの提案を断っていると後ろにいるオーギュストが『亜空庫』を開きそこから一つの剣を取り出す。


「おい、それは」

「ワガハイの褒賞である」


 オーギュストが取り出した魔具は、大会の褒賞の時に見た万斬剣“イズラ”だった。


「ほぉ、良さそうなものを持っておるのぅ」

「これを使ってバアル様に何かしらの魔具を仕立ててほしいのである」


 オーギュストは笑顔でドイトリに剣を渡そうとするが、俺はそれを止める。


「オーギュスト、お前の心意気はありがたいが、そういったことは無用だ」


 何のつもりでオーギュストが魔剣を出したのかわからないが、それを俺に渡すつもりなら、少々真意を確かめなければならない。


「別に変な意味ではないのである。ワガハイは魔具を使用しないのである。なのに魔具を褒賞として与えられてしまって処分に困っているのである」

「なら、売るなり何かと交換すればいい」

「そうなのであるが、残念ながらワガハイは金には困っていないのである。そして今欲しい物もないのであるがゆえ、バアルの好感を得られるならここで使う価値はあるのである」


 オーギュストはそういうと、今度は俺に剣を差し出してくる。


「だがな―――」

「あ~~白熱しているところ悪いんじゃが、魔具の改造は複数の魔具を使用して行う。一つの魔具では意味がないのじゃ」


 ドイトリが申し訳なさそうに告げる。


「そうなのであるか……では、魔具だけを渡しておくのである」

「……はぁ、ならあとで適切な金額を渡す。これで納得しろ」

「ふむ、それもいらないのであるが、それではいつまでも平行線になりそうであるな」


 こちらが譲らないと理解すると、オーギュストは適正金額を後で受け取ると言うことで話が着いた。


「他にどんな改造魔具が有るか、見せてくれ」

「了解じゃ、暇はさせんぞ。つぎに――」

「ん?」


 ドイトリが説明しようとすると、オーギュストが何かに気付いてどこかの方角に視線を向ける。


「どうし―――」


 オーギュストに声を掛けようとする前に、理由がわかってしまった。


 ドタバタドド


「ドイトリ様!」

「ん?どうした!!」

「救助された子供たちが戻ってきました!!」


 その言葉でドイトリは動きを止める。


「行っていいぞ」

「だが」

「こちらも少し気がかり・・・・な奴らがいる」

「……わかった。少し早いが儂は別行動させてもらう。だが、その前に――」


 ドイトリが横を通り過ぎようとすると


晩餐時・・・は注意しろ」

「ドイトリさん!」

「今行くわい!!」


 その一言だけを伝えて、ドイトリと彼を呼びに来たドワーフは短い脚で店を出ていった。
















「それで、捨て置くであるか?」


 ドイトリが店を出ていくと、オーギュストが確認のために聞いてくる。


「いや、少し不穏な人物だからな。こちらから接触しよう」

「奥方様たちはどうするであるか?」

「そうだな……ノエル、ティタそれと――」


 考えた結果、ノエルとティタ、それと護衛の長を務めている騎士を呼び出す。


「なんでしょうか?」

「観光はこの店で最後にさせろ。それが終わり次第、宿泊所に即座に帰れ」


 こちらの言葉に全員が頷く。


「それと全員に糸を付けて絶対に居場所を見失うな」

「わかりました。ですが、バアル様は?」

「少しばかり会うべき奴が来たからな、挨拶に行ってくる」

「護衛の者はどうしますか?」

「オーギュストと騎士の数名を連れていく」

「……かしこまりました」


 ノエルが何か言いたそうな表情をするが、すぐさまこちらの言葉を受け入れる。


(しかし、なんであいつら・・・・がここに来ている?)


 出口に向かいながら、脳裏に浮かぶ人物立ちに問いかけるのだった。















 店を出ると、すぐ横にある大通りでは何やら、大勢のドワーフが壁門に向かって移動している。


(退避が遅れた子供が帰ってきたのだろう)


 先ほどのドイトリ達の会話と日にちを考えればそれほどおかしいことではない。だが、それ以上にある気配を感じていた。


「こっちか」

「?バアル様、どちらに??」


 騎士は門に向かうと思っていたらしいが、俺の進む方角からそうではないと気づく。


「さぁな、だが、騒ぎの場所から遠ざかったのは確かだ」


 気配は門ではなく、むしろそこから離れるように移動していた。


「バアル様、速度を上げたのである」

「……先に行く、付いてこれる者だけ付いて来い。見失ったらそのまま帰れ」

「了解である」

「「「???」」」


 何が起きているのかわかっているのはオーギュストのみで、それ以外は疑問を浮かべていた。


「さすがにお前だけは付いてこれると思いたいが」

「善処するのである」

「そうしろ、『飛雷身』」


 一度上を見て、程よい高さまで飛び上がる。


(……あっちか)


『飛雷身』


 空中で方角を確認すると、再び『飛雷身』で距離を詰め始める。


アレ・・だな)


 そして気配まであと少しという場所にまで近づくと、こちらから遠ざかろうとしているフードを被った集団がいた。


『飛雷身』


 そしてそのフードの集団が足を止めた少し先に降り立つと、そのまま口を開く。


「久しぶりだな、フィアナ・・・・クロネ・・・

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