第524話 救出と血縁
トッ
「ほっ」
最後の飛び上がりを行うと、輝石に照らされている大坑道に出る。
「「「「っ!?」」」」
「戻ったであるか」
急に穴から出てきたことに周囲にいたドワーフたちは驚く。
「お前はわかっていたのか」
「気配があるゆえに」
オーギュストは『悪魔』のアルカナを持っている。それも“代行者”ならばこちらよりも広い範囲での感知ができる。
「それよりも、その子が
「っっ~~!!」
オーギュストの視線を受けたイオシスは腕の中でその小さい体を隠そうと動く。
「ふっ、安心するのである」
「し~~!!」
オーギュストが優しそうにイオシスに頬笑むが、イオシスはそんなオーギュストに対して腕の中で威嚇する。
「嫌われたであるな」
その様子に処置なしと理解したため、オーギュストは肩を竦めて、イオシスの視界から外れる。
「おぅ、無事で何よりだわい」
オーギュストが後ろに回ると、今度はドイトリが近づいてくる。
「若いモンから色々聞いたぞ、周囲を見て回った後、細い坑道に見学しに行ったこと。そしてその後の地響きで、一人だけ戻り、その場で亀裂に飲み込まれていったとは……くっくっ」
「おい」
「すまん、自分一人で逃げたつもりが、そこで災難に見舞われるとは、これまた因果だと思ってのぅ」
ドイトリは逃げた先で危険にあったことに、不謹慎だが噴き出している。
「死んだら、どうするつもりだった?」
「……最初は儂らも焦っていたんだが、オーギュストとエナが問題ないと言うのでな」
ドイトリの言葉で二人に視線を送るが、オーギュストは頷き、エナは
「それでも危険なら助けに来るべきだろう?」
「まぁの、若いモンを締め上げてから、下に降りようとしていたのだが、どうやら上ってきているようだったのでやめただけじゃ」
ドイトリの視線は何やら正座させられているズクスとヴェギルに向いてから、次になにやら丈夫なロープが束になっておかれている場所に向く。
「それよりも、その子はどうした?まさか生んできたのではあるまい?」
「うまい冗談だが、下手をすると侮辱になるからやめておけ」
ジョークとわかってはいるが、不快になる部分も存在しているため、釘を刺す。
「それは失礼した。それよりもその子じゃが」
「ああ、俺が落ちた場所で生活していた。おそらくはドワーフの縁者だ」
「……っ!?」
こちらの会話が気になったのか、一瞬だけドイトリに視線を向けるが、すぐに胸元に顔を埋めてくる。
「だいぶ、あやし方が上手だの」
「これでも、下手な方だがな。それと下で遺体を発見したおそらくだが――」
「本当か!?」
ドイトリに説明しようとすると通路の先から驚きの声が聞こえてくる。
「本当に下に誰かいたのか!!」
詰め寄ってきたのは、ドワーフの中でも年老いている人物だった。
「彼は?」
「今回救助された鉱夫たちのリーダーだ」
「教えてくれ、誰がいた!どんな物を持っていた!!」
詰め寄ってきたドワーフは仲間に抑えられながら、必死の表情でこちらを見る。
「訳アリか?」
「そうだ。彼は―――」
それからドイトリに説明される。目の前にいるドワーフは見た目通りでありドワーフの中でも老人と言える年齢らしい。そしてそんな年齢となれば普通は、こんな場所にいないはずだった。だが彼は一つの目的でこの鉱山に来ていたという。
それが――
「この鉱山で
「ああ、彼の息子夫婦は魔物に殺されてな。残った孫娘がこの鉱山に働きに出ていたのだが、ふと落盤に巻き込まれてな……それから二年間、彼はずっと、探し続けているというわけじゃ」
ドイトリから説明を受けるのだが、その分眉を顰めることになる。
「……何かあるのか?」
「ひとまず、遺体と遺品をまとめて持ってきてある。だが、この坑道内では出す気はない」
「……よかろう。全員救助できて、救助隊も全員揃っている。ならばここに長居する意味はないわい」
どうやらドイトリ達の方も用事が済んであとは変えるだけらしい。
「おし!!それじゃあ負傷者を連れて帰還するぞ!!!」
「「「「「おう!」」」」」
それから、魔物との戦闘を行った証拠と言えるけが人と共に、一緒に坑道を出ることになった。
坑道を出ると、イオシスを抱き上げているわけにはいかないため、エナとティタに預けようとするのだが。
「「…………」」
「ふっ~~し、しっ!!」
イオシスは二人に預けようとすると、二人を威嚇する。
「どうすればいいと思う?」
「さぁ、バアルが拾ってきたんだろう?ならオレじゃなく、バアルが見るべきだ」
「わかった……少しだけ、見張っていてくれ」
俺は坑道の入口周辺にある、箱の上にイオシスを下ろす。
「!?」
だが箱の上に置くが、次の瞬間に腕にしがみついてくる。
「安心しろ、この二人は敵じゃない」
フルフル!!
行かないでと、イオシスは何度も首を振る。
「……エナ」
「なんだ?」
「暴れるが、我慢しろよ」
次の瞬間、イオシスを無理やりエナの胸の中に移動させる。
「っ~~!?」
「大丈夫だ」
イオシスが暴れる前にイオシスの頭を撫でて落ち着かせる。
「ふ~~ふ~~……あ~~」
「すぐに戻るからな」
落ち着いてエナが敵ではないことを認識するまで落ち着かせると、ようやくこの場を離れる。
「すまんな」
「知り合いの奴に子守りの大変さは聞いているから気にせんでいい」
それぞれが撤収している中、ドイトリと例の年老いたドワーフが集まっている場所に訪れる。
「本当に、誰か、いたのか?」
ここまで引っ張ってきたことで半信半疑になっているのか老ドワーフは、聞きたいのか聞きたくないのか、途切れ途切れに聞いてくる。
「それは、実物を見て、判断してくれ」
『亜空庫』から遺骨と遺品を包んだ布を取り出す。
「確認してくれ」
「おぉ、ぉぉぉおおおおおお!!!!!」
布を老ドワーフは恐る恐る開くと、この場に
「当たりだったか」
「あぁ、ああ、今でも覚えている。あの子がどんな物を持って出かけたか……儂の息子の遺品もある、っ―――」
老ドワーフは遺品のそれらを抱いて、
そしてその様子にこの場にいる全員がヘルメットを外し、
「ドイトリ」
「なんじゃ?」
「先に言っておくが、彼にイオシスを近づけないほうがいい」
慟哭が響いている中、俺は誰にも聞こえないようにドイトリに話す。
「?なぜじゃ、あの子が本当に娘なら、ひ孫とも言えるじゃろう?」
「死んだ原因が、
「!?……出産か?」
「それも、あるが……まぁ、これを見てみろ」
俺はこっそりと別に持っておいたあの手記をドイトリに渡す。
「……少しばかり、この場を任せる」
ドイトリは手記を受け取ると、そのまま距離を離れていく。
(さすがに今すぐ会わせるのはまずいだろう)
死別した原因が多かれ少なかれあの子が関わっているのなら、なおさらにだ。
「ぅっっ、ありがとう、本当に連れて帰ってくれてありがとう」
「いや、こちらも偶然でしかない。だが力に成れたようで何よりだ」
目の前で涙や鼻水で水たまりを作った老ドワーフがこちらを見上げて、地面に擦り付けるような勢いで頭を下げてくる。
「それで……あの子が儂のひ孫になるのか?」
老ドワーフの視線が、イオシスに向く。
こちらもそちらを見てみればイオシスはエナに抱かれながら、エナに鼻を摘ままれそうになると、それに噛みつこうとしている姿があった。また、最初の様に暴れるという雰囲気ではなく、丁度良くじゃれ合っているようにも見える。
「あの子か、今、会いに――」
「ダラン爺、少し待ったほうが良さそうじゃ」
ダランと呼ばれた老ドワーフがイオシスに向かおうとするのを止めようとする前に、ドイトリが間に入ってくれる。
「ドイトリ、あそこにウェリシスの忘れ形見がいるじゃ。会いたい、触れたいのじゃ」
「……気持ちはわかるが、今は辛抱せい」
「なぜじゃ!!!」
老人から出たとは思えないほどの大声が周辺に響き渡る。
「……見てみい」
「なに、を……」
ドイトリがイオシスに視線を向けるとダラン爺もそれを辿る。その先には―――
「ふっーーー!!」
エナの腕の中にいながら、声を出したダランを威嚇しているイオシスの姿があった。
「……」
「あの子は、今、始めての世界に放り込まれて混乱しておる。そんなときに急に近づこうとすれば当然警戒されるじゃろう」
ダランは威嚇されたことにショックを受けて固まる。
「あの様子じゃ、今すぐに会うのはよしておいた方がいい」
「……じゃが」
「もちろん会うなというわけではない、少しばかり時間を置いて、お互いに落ち着いたら、改めて曾祖父として名乗り出ればいい。バアル様もそれを許してくれるじゃろう?」
ドイトリの言葉に肩を竦める。
「……どれぐらいじゃ?」
「少なくとも、人の世に慣れて、会話を始められるぐらいになればじゃ、何、おそらくは数年もすれば会えるようになる、それまで待てるか?」
「ああ……バアル様、必ずあの子に会わせてくれるか?」
「少なくとも、こちらから断る理由はない」
こちらの言い回しに気付いたドイトリが少しだけ眉を
「わかった、今はウェリシスの墓を作る事だけを考えよう…………」
ダラン爺はそういうと優しい手つきで遺骨と遺品を集めて、布に包む。そしてそれらを抱えて、撤収の準備に加わりにいった。
「助かった」
「……確かに、今は時間が置いた方がいいじゃろう。それと」
ドイトリがこちらに手記を渡そうとしてくるが、それを断る。
「それは、機を見てドイトリからダランに渡してやってくれ」
「心得た」
ドイトリは手記を傷つけないように自身のポーチにしまう。
「それで、あの子の扱いじゃが―――」
「おい」
ドイトリがイオシスについて話そうとすると、後ろから、エナがやってきた。
「疲れた、変われ」
「ん~~~!!」
エナがイオシスをこちらに差し出してくると、イオシスは自ら引っ付いてくる。
「警戒されなくなったんだ、エナが抱えてよかっただろうに」
「そいつはオレじゃなく、お前のところに居たい様子だからな」
「……エナは子供を抱えているととことん構いたくなる。そうなる前に手放したかった」
ドン!!
ティタが余計なことを言うと、エナから、聞いているだけで痛くなりそうな肘打ちを横腹に受ける。
「ティタ、黙れ」
エナは照れ隠しなのか、今にも人を殺しそうな怖い顔でティタを睨む。
「ふむ、それなら育ての親としてはお主らは十分合格じゃろう」
こちらのやり取りを見て、ドイトリは勝手に納得するのだった。
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