第520話 坑道見学
坑道内に入ると大坑道は大規模に作業ができるように、入り口に負けず劣らずの大きさで拡張されていた。そしてその大きさを維持するために巨大な金属製の支保があちこちに張り巡らされていた。そして意外なことに――
「また、随分と明るいな」
坑道内はあちこちに輝石で作られたランプが掛けられており、明るかった。
(岩盤がむき出しなのを想像していたが、案外整えられている)
支保は全て金属で作られており、地面にはレンガらしきものが敷き詰められていて歩き易く、地面には大型のトロッコを使うためのレールが引かれていた。
「それじゃあ、別れるぞ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
程よく大坑道内を進むとドイトリの声で救助部隊が分かれて、大きな坑道の横にある細い坑道に入っていく。
「全員で目的の場所に行くわけじゃないのか」
事前の話では鉱夫達がいた場所に直行すると聞いていた。
「何、魔物が現れたのじゃ。当然ここにも溢れる可能性がある。もし儂らが助けたのはいいものの、帰り道が塞がれては二の舞じゃろう?」
どうやら、彼らは新たに行動に魔物が現れないかの確認といた場合の駆除を行うらしい。
「もし人が足りなかったら?」
「その時はその道を塞ぐだけじゃな」
ドイトリ達はそのための準備をしているという。
「それじゃあ、儂らも進むぞ!!!」
「「「「「おお!!!」」」」」
それからドイトリ達は進み続ける。大坑道はその道のほどんどがきちんと整備されており、採掘というよりも運送目的なのが理解できた。
だが、さすがに大坑道の先端ともなると、まだ設備が追い付いていないのか、荒が目立つようになってきた。
「だいぶ減ったな」
最初からそれなりに歩くと、細道が現れるためにドワーフたちが数人散っていき、安全を確保していく。そしてそのおかげで現在は最初の半分ほどの数しかいなかった。
「仕方ない。元々坑道内は大勢での戦闘がしにくい場所じゃからな……それよりもバアル様はここらへんで待ってもらうことになるが?」
ドワーフたちが行動を進む中、俺たちは一度足を止める。
「ん?もう、そこまで来たのか?」
「そうじゃ…………それでオーギュストの力を借りたいんじゃが」
ドイトリの視線がオーギュストに向く。そしてオーギュストも俺に確認を取るためにこちらに視線を向ける。
「問題ないな?」
「ええ、この環境下ならワガハイの得意分野である」
こちらの言葉にオーギュストは問題が何もないと告げる。
「それじゃあ、儂たちは先に行く。一応護衛を二人ばかり置いていくが、何かあれば真っ先に逃げてくれよ」
ドイトリは念を押すと、俺はそれに頷く。
「では、オーギュスト、力を貸してもらうぞ」
「バアル様の御眼鏡に叶う動きはするのである」
そうして、二人は先に進んだドワーフたちを追って行った。
「さて、君たちの名前は?」
救助隊が先に進み、俺がこの場所に留まることになると、二人に名を訊ねる。
「えっと、ズクスです」
「俺は、ヴェギルっていう」
一人は普通のドワーフよりも細くやや気弱そうなドワーフ、そしてもう一人は背が少しだけ低いがその分横幅があるやや気の強そうなドワーフだった。
「そうか、二人はなぜ、ここに残された?」
「??あんたを守るためだが」
「ヴェギル、口調を」
「それはすまんな、俺は綺麗な言葉遣いなんてものは知らなくてな、気に障る、なら話しかけないようにするが?」
ヴェギルと言ったドワーフは悪びれもなくそういう。
「悪意がないのなら構わない。もちろん度が過ぎれば注意するが?」
「……ああ、問題ねぇぜ」
ヴェギルは当てが外れたような表情になると、こちらから視線を逸らす。
そしてヴェギルのその態度に額に手を当ててズクスは呆れた。
「それで、ここに残されたと言うのはどういう意味ですか?」
次の瞬間にはズクスは笑顔になってこちらの真意を聞いてくる。
「いや、その理由が知りたくてな、志願したのか、命令されたのか、どれだ?」
「後者でしょうね。俺たちは40という若輩ですから」
「……十分のように感じるが?」
思わずそう漏らしてしまうが、ドワーフたちの表情からそれが違うことが伺えた。
「まぁ、人族は早熟じゃから、十分大人だろうな。だが俺たちはドワーフだ寿命は大体倍ほど違う。お前さんらでいう20ほどだ」
つまり彼らは人族で言う同年代という事らしい。
「命令の原因が経験不足なのか、若者を危険にさらしたくないのか、はたまた実力不足なのかはわからないが」
最後の実力不足という言葉でヴェギルが片眉を上げる。
「悪く取らないでくれ」
「それで、何が言いたい?」
「いや、俺もオーギュストを貸し出しただけでは暇なんだ。だから周囲を少しばかり見てみたい。もしわかるならついでに案内と解説も頼みたい」
そういうとズクスとヴェギルは顔を見合わせる。
「ふむ、先に行きたいというわけじゃないんだな?」
「ああ、俺も好き好んで危険な地に踏み入りたいわけじゃない」
そう、目的は最初からこの坑道の見学だった。
(俺も飛翔石の発掘を行わなければいけないからな)
無論やろうと思えば国内の鉱山から手法を知ることが出来る。だが飛空艇を作り出したタイミングでそんなことをしてしまえば、飛空艇の秘密について感づかれてしまうかもしれない。
(国内の貴族ならともかく他国が注目している中で下手に動くのはヒントを与えるようなものだったからな)
いくら影の騎士団が優れていると言っても、完全に俺の痕跡を消せるわけじゃない。それこそ大まかな行き先でも十分に目的を把握することが出来る。
正直に言えば、国内と言えどもほかの貴族にも知られたくはないが、そこまでは高望みしすぎている。そして今回はドワーフの要請に応えたという理由で自然に視察が出来ていた。
(それに俺の知らない手法があれば是非知っておきたい)
「それぐらいなら、な」
「ええ、問題ないですよ」
こうして、こちらの思惑に気付くことなく、貴族の道楽と思われ見学が行われるのだった。
それから、大坑道のあちこちを移動して、様々な物の役割や作り方など聞ける部分を聞く。そして粗方見学し終えると次の矛先と言えば――
「一つ聞きたい、あの細い坑道はどうなっている?」
「あの、この先は困ります」
「だが、すでに先達が入って警戒しているだろう?なら案内ついでにほんの少しばかり説明してくれても問題ないだろう?」
やや無茶を言っていることも理解できる、だが、ここまで見学したのだから、その先も確認しておきたい。
「どう思う、ヴェギル」
「いいじゃねぇか、確かに戦士が先に入っているなら、下手ことなど起こりようがないだろう?」
「……ほんの少しですよ?」
ヴェギルが賛成に回ったことでズクスが折れてくれた。
「俺たちが先導しますので絶対に前に出ないでくださいね」
「ああ、無理を言ってすまないな」
こちらが笑顔で答えたのに対してあちらはため息を吐くばかりだった。
クヴィム坑道のメインは実を言うと実は細い方の坑道だった。その理由だが―――
「なるほど、大坑道は安全な場所に作り出して、本格的に鉱脈を掘り進めるのはこの細道なのか?」
大坑道は大まかに鉱脈に当たりを付けて、安全な通路を確保するために掘り進めたモノ。そして細道は当たりの鉱脈目指して掘り進めた道だと言う。
「どうですか?説明するものはそう多くないですが」
「ああ、こっちの方がイメージ通りだ」
細い坑道は大坑道とは違い、完全にむき出しの地面で、光源である輝石は支保にいくつか吊るされているだけで光源が乏しい。そしてドワーフの体格に合わず、通路は人が二、三人並んで通れる広さがあった。
「それで質問は?できるだけ早めに頼む」
「……バアル様申し訳ないのですが」
ズクスはヴェギルの言葉に同意しているのか、言葉を濁したが肯定した。
「なら、早めに終わらせるとしよう。まず―――」
それから採掘に必要そうな部分を問いかけて答えを貰う。
それこそ設備が少ないからか、質問自体はそう長いこと掛からずに済んだ。
「―――、以上です。ほかには?」
「いや、勉強になった礼を言う」
「では、戻りましょうか」
「ああ―――ん?」
ズクスの言うことに従い大坑道に戻ろうとすると、ある気配が移動していることに気付く。
「……エナ、不穏なことはありそうか?」
「??いや、そんな匂いはしないが」
「……そうか」
足の下に、少しばかり気がかりを覚えるが、とりあえずもと来た道に戻ろうとする。
だが――
ズン!!
ビギッ!!!
大きく地面が揺れるとその拍子に地面に亀裂が入るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます