第521話 怨みの最後っ屁

「今すぐ、避難―――」

『飛雷身』


 ズクスが声を上げる前に俺は大坑道の方に視線を向けて『飛雷身』を発動する。



 バチッ



 一瞬のうちに雷となり、視線の先にまで移り、四人よりも一足先に大坑道に避難した。


(……しかし、今の揺れはなんだ?)


 何が起こるか、よくわからないため、警戒しながら大坑道内を見渡す。


 ガ、ゴゴゴゴ!!


 そして何か知らの崩れるような音が聞こえてくるので、視線を巡らせて、音のする方角を見る。崩落音が聞こえたのは先ほど、俺達がいた・・・・・坑道だった。


(ちっ、ここでエナとティタを失うのはだいぶ痛いな)


 ただ救いと思えるのは崩落が起きた場所は坑道に入ってすぐだったため、四人が岩盤には押しつぶされてはいない事だった。


「ちっ、ズクスとヴェギルはどうでもいいが……あいつらがいるなら掘って出てくるなり、坑道内を掘り進めて、別の坑道に出ることもできなくはないだろう」

『えぇ、儂ドン引きなんじゃが』


 一人で納得していると、イピリアが自発的に出てくる。


「仕方がない。俺は逃げれて、あいつらは逃げられなかっただけの話だ」

『あのドワーフはともかく、エナと、ティタは部下じゃろう?そんなあっさりと切り捨てていいのか?』

「物事には優先順位がある。部下の命と俺の命だったら言うまでもないだろう?……まぁ、できるだけの救助はするがな」


 さすがに自分一人だけ逃げて、その後助けなかったら、獣人達から非難を浴びることになる。


「さすがに異常を感じて戻ってきてくれればいいが……」


 救助しようにも採掘についての知識は無い。そのため誰かしら戻ってきてくれることに期待するのだが。


 ゾクッ


 タッ


 悪寒が背中を撫でると、即座にその場から飛び退く。そして後ろに飛ぶ際に見えたのが――


 ニュ


幽霊レイスってのはこんな風なのか」


 先ほどいた場所の足元から赤黒い腕が這い出ていた。


『ほぉ、属性をもった怨霊か』

「同類だろう?何とかしろ」

『儂をこんなと一緒にするな!!お主だってゴブリンと一緒にされれば嫌な気分じゃろうが!!』


 同じ霊という点で茶化していると、イピリアは苛立ちを覚えていた。


 そして何とかなだめているうちにレイスは腕だけではなく、全身を現した。


「悪霊や怨霊の類は初めて見たが、こんな形か」


 目の前に現れた怨霊はよくあるイメージ通りで、下半身は存在せず、逆三角の様な揺らめく何かになっていた。そして上半身は通常通り存在しており、二本の腕と頭部が存在していた。ただ、怨霊というだけあって異形な形をしている。手首から先は何本もの揺らめく触手になっており、頭部は髪はなく、いたるところに鼻、耳、目、口と言ったのが多数ある。それもまるで福笑いのようになっていて、何とも気持ち悪い。そして霊であるためか、体は半透明になっており、魔力の色がオーラの様に漂い全体に赤黒い。


「のんびりと観察する趣味はないからな」


 即座に『亜空庫』を開き、モノクルを取り出す。


 ――――――――――

 Name:

 Race:暗紅の怨霊

 Lv:77

 状態:恨み

 HP:――/――

 MP:7166/――


 STR:――

 VIT:――

 DEX:――

 AGI:――

 INT:――


《スキル》

【魔力吸:43】【憑依:38】【焼触:43】【魔力感:29】【火葬:46】【同調:75】【精神汚染:33】【分裂:9】【融合:43】【暴魔:1】

《種族スキル》

【亡霊】【怨み】【焼死のオーラ】

《ユニークスキル》

 ――――――――――



「ほぉ」


 確認すると何とも面白いステータスだった。


「イピリア、この怨霊はどれだけ危険に感じる?」

『バアル、お主の能力で、こやつが危険に感じているなら、鍛え直した方がいいぞ』

「そうだよな……『雷霆槍ケラノウス』」


 試しばかりに手に『雷霆槍ケラノウス』を生み出すと怨霊に向けて投擲する。


『――――――――――――』


 槍は怨霊の体を通過して大坑道の壁に激突する。一見すると攻撃がすり抜けたように感じるが、『雷霆槍ケラノウス』が通った周辺部分は吹き飛んでいた。そして霊体だからか声を出すことはできないらしいが、その仕草は存在しており、口を何度も開閉して、目を見開かせて、片腕で吹き飛んだ場所を覆っていた。そしてすぐに腕を退かすと、体が元に戻っている。


「さて、どうな、おっと」


 攻撃したことで完全にやる気となり、触手を鞭の振るいこちらに攻撃しようとしてくる。だが、半透明とはいえ、見えているならいくらでも避けることが可能だった。


 そして――


 シュル、ボゥ!!


(なるほど、触れた部分は燃えるわけか)


 霊体であるためか当然物理的な威力はない。その代わりに触れた箇所が燃えると言う能力を持っていた。


 振るわれた触手が大坑道に置かれている備品に接触すると、その部分から煙を出して火が現れる。


「延焼が気がかりだが、これぐらいなら」


 初級の水魔法『水球ウォーターボール』を発動させて、簡単に消化できてしまう。


「ふん!!」


 そして避けた先で『雷霆槍ケラノウス』を使い、再び、怨霊の体に体に穴を開ける。


「はぁ、典型的な幽霊レイスと同じとはな」


 幽霊レイスや怨霊と言った霊体の相手は物理ではまず倒せない相手となっている。だが、それは魔力のこもっていない攻撃を無効化すると言うことなので、逆を言えば魔力のこもっている攻撃でなら、十分にダメージを与えることが出来た。


「『天雷』」


 今度は手を出して、『天雷』を浴びせる。


「ん?、っと」


『天雷』を浴びたというのに、怨霊はひるむことなく腕を薙ぎ払ってくる。


「効いていないのか……ふむ」


 今度は『雷霆槍ケラノウス』を使い、攻撃を行うと、怨霊は避けるような仕草をする。


「『天雷』はほぼ無警戒で『雷霆槍ケラノウス』は警戒するか……」


 やや不思議に思うが、効果的な手段があるのなら、それに専念する。


 そして―――













『な、言った通りじゃろ』


 イピリアは目の前に現れると、エリマキを広げる。


 そして、イピリアの先には、体中に穴を開けられている怨霊がいた。弱っている証拠に修復しようとしているが明らかに速度が遅くなっていた。


 ――――――――――

 Name:

 Race:暗紅の怨霊

 Lv:77

 状態:恨み

 HP:――/――

 MP:362/――


 STR:――

 VIT:――

 DEX:――

 AGI:――

 INT:――


《スキル》

【魔力吸:43】【憑依:38】【焼触:43】【魔力感:29】【火葬:46】【同調:75】【精神汚染:33】【分裂:9】【融合:43】【暴魔:1】

《種族スキル》

【亡霊】【怨み】【焼死のオーラ】

《ユニークスキル》

 ――――――――――


 もう一度モノクルで鑑定すると、唯一存在する魔力の数値が減っていた。


「回数から言ってあと二回ほどか、ふん」


 今まで『雷霆槍ケラノウス』を当てた回数から考えて、それぐらいだった。


『―――――――』


 全力で投げられた『雷霆槍ケラノウス』は怨霊の体に当たり、穴を開ける。


「さて、最後、ん?」


 最後の『雷霆槍ケラノウス』を作り出して投擲の準備をするとなんと怨霊が逃げ出した。


(??逃げるのなら最初の様に、壁を通り抜ければいいのにな……まぁいい)


 律儀に大坑道の道を通る様に逃げる怨霊に向けて『雷霆槍ケラノウス』を投げる。


 『雷霆槍ケラノウス』はぐんぐんと進み、あと少しで衝突すると言うところで怨霊は振り向き、『雷霆槍ケラノウス』の穂先を確認する。


 すると―――


 ヒギャァァアアアアアアアアアア!!


 甲高い男の様な女性の様な悲鳴が響き渡る。


 そして次の瞬間、最後の抵抗のように赤黒い魔力が暴れて周囲を襲い出す。


「ちっ」


 赤黒い魔力が迫ってくるので、腕で顔を守る様に構え、生暖かい風の様に奇妙な魔力の感触を味わう。


 フッ――――


 そして次の瞬間、すべての輝石が光らなくなり、周囲が真っ暗となった。


「はぁ!?」


 頭の中になぜという疑問が浮かびながら、体が動く。


「イピリア、怨霊は!!」

『安心せい、さっきので完全に消滅した。最後の最後で一矢報いたと言ったところじゃろう』


 イピリアから消滅したと聞いて、ひとまずは安堵する。なにせ暗闇に乗じての戦闘ではさすがに分が悪すぎたからだ。


「なら、光源を」


『亜空庫』を開き、光源用の魔具を取り出そうとするのだが――





 ズン!!

 ビギッ!!!





 再び、大きく揺れると、何かが割れるような、音が聞こえてくる。


 ガゴッ

「っ!?」


 そして次の瞬間、足元が崩れる感覚がして、浮遊感が体を襲うのだった。

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