第519話 ドワーフに降り注ぐ不運

 合金の説明を受けた後、地下から出て、外に出ると、そこにはすでに星空が映っていた。


「「…………」」


 だが、それを見ても疲れ果てていたため、俺とユリアは無気力で見上げるだけとなった。


(長々とよくあれだけ口が動く)


 あれだけの合金の前で、ドゴエスだけではなくドイトリやジアルド、ほかの従業員も加わり、説明が行われたことにより、その分時間を食うことになった。


「まだ、明日もあるとはな……」


 残念ながらすべての合金についての説明が終わったわけではない。とはいえ長時間かけただけあり、7割ほどは終わらせ、翌日の朝から昼にかけてようやく終わる予定になっていた。


「ですが、今日で、ほとんど終わらせられたのは幸いでした……が、疲れました」

「そうだな、早めに帰るとしよう」


 こうして、俺たちの意見は一致して、宿泊所へと直帰することとなった。











 そして翌日――


「―――というわけじゃ、これで合金の説明を終えるが、質問は?」

「最後に関しては無いな」

「こちらもです」


 朝食を済ますと、朝早くから昨日と同じように溶鉱炉施設で合金についての説明を受けていた。


 そして昼をやや過ぎる頃、ようやく、最後の合金の説明が終わった。


「資料は?」

「できています、はい」


 全ての合金についての説明を聞いて、一通り頭に入れたが、同時に背後にいる騎士の一人に合金の資料の作成も頼んでいた。


「よし、よくやった」


 資料を一通り確認すると、十分な記載がされてあった。


「では、これをどうぞ」


 その様子を見て、ジアルドは一つの冊子を渡してくる。


「……これは?」

「合金の特徴を記した資料です」

「なっ!?」


 必死に合金の特徴を記載した騎士がジアルドの言葉に驚愕する。


「意地が悪い。最初に渡してもらいたかったが?」

「そうですよ……それがあるのでしたら」

「口頭のみだと覚える意気込みが違うでしょう?」


 ジアルドは食えない顔で悪びれる風もなくそういう。


「くっ、この!」

「待て待て待て」


 資料作りに尽力した騎士が思わずジアルドに突っかかろうとすると傍に居る騎士がそれを止めた。


「ジアルド、最初に渡してやればいいじゃろう」

「まぁ、そうなんだけどね。正直資料も取らずにおざなりに覚えるつもりなら渡すつもりはなかったです。でも、そっちでしっかりと資料を取ったのなら、渡しても何の問題もない」


 こちらで資料が作られれば必然的に情報は広まる。それならば渡そうが渡さないが結局は同じだと言う事らしい。


「それで、どれが欲しいか決まったか?」


 傍に来たドイトリの言葉に肩を竦めて答える。


「候補は挙げられる、だが、そこからの絞り込みは時間が掛かりそうだ」


 既に十数種まで候補を上げたが、そこからさらに絞り込む必要があった。


「おぅ、それなら手伝おうか?」


 ドイトリはそう提案してくる。実際彼なら合金についての特徴もよく知っているだろうから適任と言える。


「ありがたい申し出だ。それなら是非頼む」

「それ、私もいいかしら?」

「おし、任せておけ」


 俺たちはドイトリの申し出を受けることとなった。













 その後、ドゴエスとジアルドにどれが欲しいか考える時間が欲しいことを伝える。もちろんその言葉は快諾されて、俺たちは地下にいる必要がないため一度地表に戻ってくることになった。


「さて、どんな合金がよいかのぅ、グロウス王国にはどのぐらいの炉が存在している?さすがに此処の炉の下層でしか溶かせない金属なら、それなりに条件が厳しそうじゃし――、ん?」


 溶鉱炉へと続く道を戻り、坂を上ると、何やら地表の方の工房内が騒がしかった。


「おぅい!どうした!!」

「あ!!ドイトリさん!!」


 ドイトリが声を上げると、中心にいる若いドワーフは希望を見つけたかのように笑顔になる。


「どうした?」

「それが!!坑道の一つに魔物が溢れて、そこにいる鉱夫たちが中に閉じ込められた!!」


 その言葉に工房内にいた事情を知らないドワーフたちが驚愕の表情を浮かべる。


「どこじゃ!!」

「クヴィム坑道だ!!今動いていない戦士たちが集まって助ける準備をしている」

「よっしゃ、いますぐ、ぬ!?」


 ドイトリが走り出そうとして後ろにいる俺たちに気付く。


「あ、あ~~~~~」

「どうした、早く行きましょう!!」


 ドイトリが何かに気付いて告げようとすると、後ろにいるドワーフがドイトリを何とか押そうと踏ん張る。


「少し待たんかい!!」

「んぎぃ!?」


 押そうとしているのがうざったかったのか、ドイトリは拳骨で若者のドワーフを黙らせる。


「すまん、仲間のためとなれば儂は助けに行かねばならん……」

「なら、私たちは宿泊所に戻っているとしましょう」

「いや、ユリア、俺はそうじゃない」


 俺は前に出てドイトリを見下ろす。


「協力してほしいなら、要請にこたえるが?」

「っ!?頼むわい!!」


 こちらの言葉にドイトリはにべもなく返事を返す。


「条件は聞かないのか?」

「今はバアルを信頼するわい、儂にできもしないお願いをするわけがないと」


 ドイトリはそういうと、頭を下げる。


「ちょっ!?まずいですって!!この人は――」

「安心せい、バアルも要請と言ったじゃろう?そこにいるオーギュストは大会で三位にまで上り詰めた実力者じゃ、そいつを派遣してくれるだけでも大助かりじゃわい」

「まぁ、ドイトリさんがもう一人いるとあればすごく心強いですけど」

「というわけでどうじゃ?」


 ドイトリはこちらに振り向き、問いかけてくる。


「まずは条件を聞け。それで問題がないのなら頷こう」

「なら、聞こう。そっちの条件は?」

「簡単だ。ドワーフの悪意・・で俺たちが貶められようとしている時、お前は同胞を裏切ってでも俺たちを助けろ」


 笑顔で告げると、ドイトリは軽くため息を吐く。


「なんじゃ、そんなこと・・・・・か」


 ドイトリは何も問題ないとばかりに顔を上げる。


「儂、ドイトリ・グルマーヌの名に掛け誓おう。我が同胞が汚い手段でお主たちを貶める時、儂はお主ら側に付く」

「なら、決まりだ。そう言うことだからユリア嬢は戻っていてくれ」

「……いろいろ言いたいことがありますがわかりました」


 ユリアは一度帰る様な発言をしたためか、そのまま帰る姿勢を見せ続ける。


「ですが、覚えておいてください。これは貴方から首を突っ込んだ問題です」


 ユリアはもう用は無いとばかりに横を通り過ぎる時、誰にも聞こえないように告げてくる。


「わかっている」

「では、皆様、お気をつけて」


 ユリアは一礼してからそのまま工房を後にした。


(ユリアは安全を取ったらしいが、ここは欲張りに行かせてもらう)

「では、行くぞバアル!!」


 そしてユリアが出て間もなく、俺たちも問題が起こった坑道に向かうのだった。













「ここが、クヴィム坑道か?」


 俺たちがドイトリに連れられてやってきたのはドミニアの周囲を覆っている鉱山の内の一つだった。


「にしても、広く作ったな」


 入り口はかなり巨大に作られており、高さが4、5メートルほどあり横幅はその二回りほど大きかった。


「にしても、案外集まったな」


 そして坑道の入り口には100名ほどのドワーフたちが集まっており、それぞれが物々しい装備をしていた。


「…………こうなって・・・・・いるのか」


 ドワーフの救助隊が様々準備している間に、周囲を観察する。


「バアル様、気付いている・・・・・・であるか?」

「ああ、これは予想外だったがな」


 オーギュストの視線と俺の視線は地面のある一点に向く。


「おぅい、準備はいいか~~」


 やや離れた場所からドイトリが呼び掛けてくる。


「それで?」

「おう、まずはこれじゃな」


 ドイトリは適当な箱を持ってきてその上に地図を広げる。


「見せていいのか?」

「救助に手を貸してくれるんじゃ、ここで出し惜しみしてどうする?」


 そういいながら、ドイトリは説明する。


「まず、この坑道じゃが、大まかに言えば大坑道とそこから周囲にそれている細い坑道の二種類がある」

「??けど地図を見れば、三つ目四つ目の色が使われているが?それになぜか道が途切れて書かれている場所もある」

「ああ、それは魔物が存在している行動と、魔物が自然と造りだした穴、まぁ通り道じゃな」


 山には穴を掘る魔物も存在している。当然鉱山にもだ。そのため、見覚えのない道が出来上がっていることがままあると言う。


「なるほど」

「それで、問題なのが、取り残された鉱夫たちが移動している可能性じゃ」

「というと」


 ドイトリは地図の一点を指し示す。


「まず鉱夫がいる場所はかなり先の方、そこから先は魔物が作り出した穴道が存在しておる。そして問題の魔物が現れたのが、その場所の丁度帰り道の中間じゃ」

「前には溢れていた魔物、後ろには未知の穴であるな」


 オーギュストの言葉にドイトリは頷く。


「そうじゃ、魔物が鉱夫たちの方に行かないのなら、何も問題はない。それこそ何とか魔物を排除して、助けに行くだけじゃ。じゃ、すでに鉱夫の方に向かっていたとすれば」

「交戦か、逃げるか、か……少し不謹慎なことを聞くが、交戦してすでに全員が魔物の腹の中にいた場合は?」


 もし、魔物の腹に道具も全て収まっているのだとしたら、生きている確認の使用がない。


「安心せい。鉱夫たちにはあらかじめこういった事態に対して色々対策している。今回で言えば予定の場所のどこかに何かしらの目印が記されているはずだ」


 それだドイトリ達は逃げているか、戦ったかがわかると言う。


「壊されていた場合は?」

「その場合は戦ったらしき場所を確認して、何日ほど捜索するかを決める。まぁなんにせよ、鉱夫がいた場所に着くのが先決じゃな」


 ドイトリはそこからが本番だという。


「さて、バアル様には悪いが、少々鉄臭いこの場所で待ってもら――」

「それだが、安全な坑道内までは一緒に行くぞ」

「はぁ!?」


 こちらの言葉にドイトリが驚く。


「安心しろ、大坑道の安全が保たれている場所にしか行かないつもりだ」

「……まぁ、実力者と聞いているし、安全な場所になら………………う~む、なら、この場所までにしてくれんか」


 ドイトリは大坑道の魔物が出てきた場所からやや離れた場所を指差す。


「なら、決まりだな」

「……いいじゃろう。だが頼むから迂闊に動かんでくれよ」

「わかっている」


 その後、やや不安そうにしているドイトリが仲間に呼ばれて、この場を離れていく。


「なぁ、なんで、今回助ける気になった?」


 周囲に誰もいなくなるとエナが問いかけてくる。


「そんなの、俺が得るものがあるからに他ならないだろう?」

「……そうか、安心しろ危険があれば察知してやるから」

「期待している」


 その後、ドワーフたちで話が付き、こちらにも情報がリークされてから坑道内に足を入れるのだった。

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