第518話 自然特殊溶鉱炉
ドイトリの案内で坂道を下り続けると、ようやく下り坂が終わる。そして次はまっすぐな道が伸びており、その先には赤い光が溢れていた。
「……まさかだよな」
「お、気付いたか?」
今いる場所と光の色からどのような場所か理解が出来た。
そしてまっすぐに道を進んでいくと、通路が終わる。
そこで見た物は―――
「まさか、マグマを利用した
俺たちが出た空間は、一言で言えば縦長の楕円の頂点部分。そして下の方には赤や黄の色が交じり合うマグマがあり、そして真下から真上に届くような巨大な溶鉱炉があった。だが、人が通れるような通路や作業場が見えることからどちらかというと施設に近い。そして巨大な溶鉱炉は落ちないように途中から何本もの太い柱が横壁に突き立てられており、まるで宙に浮いているようにも見える。
「こんなものがあるとはな……」
先ほどの通路から、溶鉱炉施設に繋がる渡り廊下を歩きながら、端に立ち、手すりに触れながら下を見下ろす。
「なぜ、こんなことが出来る?それ以上に不安じゃないのか?」
一番下で波打っているマグマを見ながらドイトリに問いかける。
「不安か、無いこともないが、まぁ大丈夫だろう」
「……」
こちらの視線が鋭いことに気付いたドイトリは肩を竦めながら説明する。
「と言っても納得はせんか。ひとまずは安心せい、ここは地表近くの火山口を加工して繰り上げた施設じゃ、それゆえに―――」
それからドイトリは詳しく説明する。ドミニアには元からこの火山口が存在していたのだが、この場所はマグマだまりから離れた位置に存在していて、噴火の可能性が少なかったという。だがそれでも、噴火の可能性が無いわけではないのでドワーフたちはそれなりの対策を施していた。その時には離れればいいと思ったのだが、噴火の可能性を加味しても、ドミニアの地が最も居住に適した地だったらしい。そして噴火の対策としてできるだけ強固な建物、ドミニアで見た球に近い形のイグルーの様な建物を作るといったことをしたらしく、その最たる対策がこの施設だと言う。
そしてその対策だが―――
「―――つまり、火山口に蓋をするようにして、上に工業区画、下に天然の溶鉱炉を作ったわけか?」
「そうじゃ」
ドイトリの軽い口ぶりが信じられなかった。
なにせ話が本当なら、工業区画の下は本当の意味で危険地帯だった。例えるなら、鍋に油を入れて加熱して、その鍋の蓋の部分で生活しているようなものだった。
「そうしてまでする必要があったのか?」
「確かに危険じゃが、利点はあるぞ、まず一つは火山口を閉じて蓋をしたことで噴火が起きても被害は工業区画だけで済む。地面の下に堅いモンを仕込んでいるから、せいぜいが床下からマグマが多少溢れるだけで済むはずじゃ。そしてもう一つが熱の利用じゃな」
「というと?」
「簡単に言えば、あの溶鉱炉から熱を上にあげて、工業区画でうまく利用するんじゃ。そのおかげで薪や魔石なんてものを買わずに済んでおる」
ドイトリの話だとマグマの熱は溶鉱炉からさらに上にあげられており、工業区画でいかんなく効果を発揮しているという。
「??なら、この場所に溶鉱炉を作る必要はなくないか?」
「阿呆、熱を上げると言っても限度があるわい。だから魔鉱やらの溶工や鍛造は此処でやるしかないんじゃ」
いくら上に熱を上げていてもさすがにマグマの熱を全て伝えることはできないと言う。そのため、上ではすべての鉱石を扱うことはできないと言う。
「下がそこまで熱いなら、なぜこの溶鉱炉は無事なんだ?」
「それは簡単じゃ、鉱物の中には魔力の炎では溶けない物もある様に、逆に魔力を与えないととてつもなく溶けづらい鉱物もあるんじゃ」
通常なら高温で鉱石は溶解する。だが鉱石の中には魔鉱類という特殊な鉱物があり、これは低温でも魔力さえあれば溶解する物や、逆に魔力を使用した火には全く反応しない物、逆に高温でありかつ魔力を流すことでようやく溶解する物と多種多様な種類があった。
そしてこの溶鉱炉を支えているのは高温でも魔力を流しさえしなければとてつもなく溶けにくい部類の魔鉱を使用しているという。
「それを俺たちに言っていいのか?」
「大丈夫じゃよ。熱にかなりの耐性がある者じゃなければすぐ近くまでは近寄れん。それ以上に、周囲を魔力を通しにくい金属で覆っているわい。それも何重に」
ということで知られても、そうそうどうにかできる代物ではないらしい。
「……落ちたりはしないのか?」
「ああ、その対策もしてあるから心配は要らん」
この施設ごとマグマに落下という最悪にどう対処するのか聞いてみたが、答えははぐらかされて終わりだった。
「っと、そろそろじゃな、ほれこれを付けて、使用せい」
渡り廊下の中間ぐらいまで進むと、ドイトリが青い色の水晶らしきものがはめ込められたペンダントを差し出してくる。
「これは?」
「熱の耐性を付与する魔道具じゃ。ちなみにロックルお手製じゃ」
ドイトリはこちらに応えながら全員にペンダントを配っていく。
「まぁ、ある意味での通行証じゃな、これを持っていなければ溶鉱炉の中腹らへんで焼け死ぬぞ」
「……そこまで危険なところなのか」
こちらの言葉が聞こえると、ドイトリは笑い出す。
「なに、安心せい。行くのは溶鉱炉の最上階だけじゃ」
「なら、これは要らないのでは?」
ユリアが確かめるようにドイトリに聞くと、ドイトリは再び笑う。
「ああ要らんぞ。だが無いと熱いぞぉ~~」
ユリアの言葉にドイトリが初めて来たばかりの子供に対する様に告げる。
「……」
「おっと、不機嫌にさせたのなら謝るわい」
「いえ、気にしていません」
ユリアがやや不機嫌そうな表情になり、ドイトリがそれを解消しながら道を進んでいくと、ようやく溶鉱炉施設の入り口へとたどり着くのだった。
「おぅ、待ってたぜ、お前ら!!!」
溶鉱炉施設に入ると、そこにはドゴエスが仁王立ちして待っていた。
「わざわざ待っていたのか?」
「おう、できるだけ希望に沿うやつを用意しておいたからな」
ドゴエスが笑みを浮かべるのだが、毎度のことその凶悪さは子供が見れば泣き出しそうな怖さがあった。
「親方、そこに居たら進みにくいですよ」
「ああ、すまん」
もはや慣れたとばかりにいくつかの道具を運んでいるドワーフにドゴエスは道を譲るのであった。
「しかし、よくできた場所だな」
ドゴエスが道をゆずったことで施設内が見えてきた。
溶鉱炉施設内は外からわかる通り円形のホールになっており、その中心に巨大な柱の様に存在している溶鉱炉がある。そして外壁近くには回りながら降りる階段が存在しており、溶鉱炉を中心に四角形の頂点の位置には昇降機が備え付けられていた。また溶鉱炉の近くには様々な作業台が存在しており、さらには溶鉱炉から離れた場所には様々な道具や運搬用のトロッコが存在していた。
「で、あれが、そうか?」
「そうだ」
「……少々数が多すぎないか?」
作業の場の半分近くが様々な厚板形やなまこ形のインゴットで埋められていた。
「そうさな、数はざっと100近いな」
「……多すぎないか?」
「はぁ?『船の装甲に使えそうな合金』と『魔力が流れやすい合金』や『牙や爪に強い合金』、ほかにもいろいろ注文されたがそんな曖昧じゃあ、こうも成るに決まっていらぁ」
ドゴエスは何を当たり前なことをと息を吐く。その様子に、こちらにはガンを付けているようにしか見えないのだが、これで呆れ顔らしい。
「それじゃあ、一つ一つ説明するぞ、まず―――」
そこからは、合金の特徴、使いやすい形状や特筆すべき点などなどを説明されるのだが、いかんせん量が多すぎた。それこそ聞き流して一つにつき1、2分とかならまだしも、こちらも仕事だ。しっかりと話をして疑問を述べていき、こちら望む最適な合金を見定めていく。そしてそれらの説明を求めると、最短でも5分、長くてもその数倍ともなればかなりの時間を弄してしまう。
そのため、説明を聞き、いくつか合金の候補を上げるだけでも多くの時間を費やすことになった。
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