第508話 エキシビションマッチ決着

『おぉ~~いいようにやられてますの~~』

『いいの?そんな呑気にしていて?』


 ステージを見ているレオネとセレナの呑気な声が聞こえてきた。ただその声はのほほんとしており、眼前で戦いが起こっているとはだれも予想がつかないほど軽い。


『いいのいいの、バアルがやられている様子なんてすごい珍しいからね~~』


 レオネはそんな言葉と共に何かを食べる租借音が聞こえてきた。


『負けるのに、いいの?』


 そして同じく租借音を響かせていたセレナが問いかける。


『ん?負ける?誰が?』

『バアル様が、オーギュストさんに』


 レオネの問いかけにセレナが答える。


『ふっふ~そう思う?』

『え、違うの?』

『さぁ』

『お~い!!』


 何とも漫才めいたややり取りのおかげで思わず体の力が抜けそうになる。


『なら、ここで一つ、マシラおばさんとテンゴおじさんが戦ったらどうなるのでしょ~~』


 迫ってくる拳をバベルで防ぐと、拳が開きバベルに手が置かれ、今度は側頭部に向かって蹴りが放たれる。


『えぇ、どうなんだろう』

『答えは簡単、テンゴおじさんが勝つよ。もちろんわざと手を抜かなければだけどね~~』

 パリッ


 薄い何かが千切れる音がすると、しばらく租借音が聞こえてくる。そして――


『それほどまでに地力の差がありすぎるからね~~』














『飛雷身』


 二人を会話を聞きながら、オーギュストの斜め後ろに飛ぶと『怒リノ鉄槌』を発動して振るうのだが。


「『闇呑みダークスワロウ』」


 オーギュストは手に闇を集めると振るわれたバベルに触れて、バベルと自分自身をずらして攻撃を躱す。そして次の瞬間には――


「しっ!!」


 ドッ

 ゴッ

 バッ


 一呼吸のうちに、太もも、脇、そして側頭部をガードした腕に衝撃が走る。オーギュストが反撃とばかりに三段蹴りを行った結果だった。


 バチッ


 そして『真龍化』しているため俺の体に触れた瞬間に、雷撃が体を伝い反撃するだが、雷撃がオーギュストの体に当たった瞬間、雷はオーギュストの表面を伝い、背にある骨盤に収束されていく。


 ブン!!


 衝撃を食らって間もなくバベルを振るうが。


 トッ


 オーギュストは軽く後ろに飛び、振るわれたバベルを躱す。


「……ふむ」


 ダッ


 距離を取ったオーギュストが思案気にこちらを観察すると、今度はこちらから動き出す。


 ブン!!


 鋭く素早い一撃で確実にオーギュストにバベルを当てようとするのだが、その瞬間にはオーギュストの骨盤が薄く輝く。


 そしてバベルを躱すと、今度はこちらの顔面に向かって掌底を繰り出してくる。


【衝鳴】


 それを見ると、肩にいるイピリアが一鳴きして掌底の速度を送らせる。一瞬遅くなった隙に、バベルを戻すように振り抜き、攻撃を加えようとする。


 シュル


 だが次の瞬間、オーギュスト尻尾が後方まで伸びると、地面に突き立て引っ張られるように後ろに飛んでいき、バベルを躱した。


「…………どういう事であるか」


 そして俺たちの間に距離が出来上がると、思わずと言った風にオーギュストは口を開く。


「なにがだ?」

「なぜ消耗しない…………その馬鹿げた強化を行うにはそれなりに魔力を消費しているはず………………龍脈・・が繋がった?いや、その様子はない…………ではなぜ」


 こちらの問いかけに応えたという感じではなく、むしろ自問自答して答えを探し出している感じだった。


『飛雷身』


「っ」


 移動した先で、再び、オーギュストの死角に移動して、バベルを振るう。


「『闇呑みダークスワロウ』」


 もはや恒例となった『闇呑みダークスワロウ』で手に闇を集めて、『怒りの鉄槌』に一瞬だけ触れる。どうやら『闇呑みダークスワロウ』を発動した状態であれば一瞬だけ、『怒りの鉄槌』に触れることが出来るらしい。ただその一瞬振れるだけで『闇呑みダークスワロウ』は霧散してしまうため、続けての接触はできない。


 グッ、ブン


 そしてオーギュストは体術を駆使して、蹴りを繰り出してくるのだが。


「こう、か」


 ドン!!


 だが次の瞬間、不安定な状態からだが、繰り出した蹴りが、オーギュストの蹴りに当たる。そしてその瞬間に再び感電が起こるのだが、例に漏れず、雷撃はオーギュストの背にある骨盤に吸い込まれていく。


 そして共に繰り出した蹴りに寄り、共に距離が離れていく。


「……一つ、一つだけ聞きたい、なぜ消耗しない」


 オーギュストは余裕がないのか、いつもの口調ではなく、真摯な表情で聞いてくる。


「どうした?勝算があるんじゃなかったのか?」

「…………」


 その言葉を聞いて、逆に笑みを浮かべながら問い返す。


「確かに『飛雷身』や雷の耐性、俺の技量の低さを見破っての方針は正解だ。そしてその状態」


 俺はオーギュストの背を示す。


「雷撃を強化へと転換する。詳しくはわからないが少なくとも速度を上げる効果は持っているだろう?また、その状態でこちらの全力に張り合えるだけの強化を施したのは正解だ」


 オーギュストの現在の形態や、その身体能力には目を見張るものがある。なにせ『真龍化』の速度にギリギリとはいえ追いつけているのだから。そして動けば動くほど骨盤の帯電が少なくなっていることから、蓄積して消費している構造なのは察しがついていた。


「目隠しに寄る『飛雷身』対策、こちらの攻撃の主が雷ということで耐性、そしてこちらの技量をみて接近戦に持ち込むこと、そしてこちらの全力に対応できる身体能力、さすがだ」


 俺はわざとバベルを肩に担ぎ拍手を鳴らす。


「だが、取れた対策はそれだけ・・・・だ」

「……」


 オーギュストは反論しない、いや、できなかった。


「確かに勝率だけで考えればそれが一番いいだろう。実際体術に重きを置けば、そちらの魔力消費は最低限で済む」


 そう、オーギュストはある程度ドーピングしたとしても限りのある魔力を駆使してこちらを倒さなければいけない。


「そうすれば長期戦になればなるほどお前が有利になる。ただ、普通・・なら、な」


 ここまで対策をすれば通常であれば相手を倒すことが出来る。実際、普通の状態だったら、すでに魔力が枯渇してやられているだろう。また魔力を節約するために『真龍化』を解いたとしても、オーギュストの身体能力では軽くやり込められるのは目に見えており、敗北は確定だった。そこを考えればオーギュストの取った行動は間違いではない。


「だが、そうではない。すでにある程度理解しているだろう?」


 今の手の内には貯蓄した魔力を自由に供給できる術があるため、魔力切れとは縁が遠い状態となっている。


 また、ダメージ、HPの削り合いだが、これはほぼ格闘による戦闘のため、純粋な身体能力がありすぎる点から、こちらは損傷がまずないと言える。それこそ急所であればそれなりの効果が狙えるだろうが、当然こちらも警戒を怠らない。またそれ以外への攻撃ではほぼ無傷と言えるため、無視すらできるのが現状だった。逆にオーギュストはいくら技能があるとしても身体能力差で軽い一撃でも十分な有効打となってしまう、さしずめ天才的な空手小学生でも、素で大人の一撃を食らえば重傷を負うようなものだ。さらにはほかにもバベルには回復のアーツが備わっているため、やろうと思えば回復もできてしまう。


 つまりは大したダメージも入らず、魔力の消耗も関係ない俺と、微かにだが、ダメージが入り、そして魔力を消耗していくオーギュスト、どちらが有利かなどはわかりきったことだった。


「さて、話も長々しすぎた。こちらを消耗させる前にそちらがガス欠にならなければいいがな」

「……なるほど、どうやらすでにを持っているのであるな」


 こちらの言葉で何かに察しがついたのか、オーギュストは達観した表情で言葉を呟く。


「先ほどの言葉は訂正するのである。今のワガハイでは絶対に勝てないであるな」

「そうか、だが諦めてくれるなよ。こちらは全力での戦いはそうそうできない。修練のためにできる限り粘ってくれ」

「善処するのである。いざ―――」










 そこからはオーギュストは粘った。オーギュストは体を接近戦用に変化させたせいか、遠距離での攻撃は使わずに肉体攻撃で攻撃を仕掛けてくる。だが、その前にこちらが動く。


 『飛雷身』を使って、すぐそばまで移動すれば、『怒りの鉄槌』を纏ったバベルの攻撃を行う。それに対してオーギュストは回避するか『闇呑みダークスワロウ』により軌道を逸らす。その後、反撃を与えてくるのだが、それを急所以外を防ぎ、そしてこちらも、できるなら、攻撃を行う。また体が触れた際に身にまとう雷撃がオーギュストを襲うのだが、これらはむしろ、オーギュストの強化に一役買ってしまう。だが同時に『真龍化』を解くことが出来ない。なにせそうすれば身体能力の差は無くなり、下手すれば技量の差で負ける可能性が出てくるかもしれなかった。そのため敵を強化を容認してでも続ける。


 だが、こういったやり取りは近接のみだけだった。近接戦のみに傾注したオーギュストは当然、それらの攻撃を主に出してくるが、こちらはそうではない。『聖ナル炎雷』による遠距離攻撃も可能だった。だが肝心のユニークスキルに関してはすべてが雷系の攻撃手段となってしまうため、こちらは活用できない。


 そのため離れての攻撃も可能だったが、やはり重きを置くのは近接戦となってしまう。


 だが、それはオーギュストの魔力が続くのが条件だった。様々なアーツを繰り出し、そのたびに魔力を消耗していく。さらには一切無傷というわけにもいかず、それなりにダメージを負っていく。


 となると結果は明白となり―――












「しっ!!」

『飛雷身』


 オーギュストが貫手を放ってくるので、それを見ながら死角になる部分に移動し、そして『怒りの鉄槌』を纏っている状態でバベルを振るう。


「『闇呑みダークスワロウ』っ!?」


 オーギュストがいつものように『闇呑みダークスワロウ』を発動しようとするが、手にはうまく闇が集まっていなかった。


 そのため――


 パァン!!


『怒りの鉄槌』がオーギュストの手に触れると、そのまま弾ける。さらには右肩から右太ももに掛けてまで振り下ろされ、オーギュストは右側の四肢を失った。


「くっ」

「その状態でまだ立つか」


 オーギュストは素早く、尻尾でバランスを取るが、それは不安定そのものだった。


 そしてもう一度バベルを振れば、『闇呑みダークスワロウ』が使えなくなったオーギュストは避けるしかなく、さらには不安定なため、大きく飛び退くしかない。


 だが、そんなことをしてしまえば。


『飛雷身』


 パァン


 瞬時に飛び退く場所まで移動すると、今度は左足を吹き飛ばす。


 パァン


 そしてオーギュストが転び倒れる間に同じく左腕と尻尾ごと腰を破壊する。結果としてオーギュストは腹部から上、それも両腕を失っている状態で倒れることとなった。


「ふふ、楽しかったであるか?」

「一応な、それと有意義ではあった」

「なら、また次の機会が有れば頼みたいである」


 オーギュストは悪魔の状態のまま笑顔になりながら話しかけてくる。


「ごめんだな」


 そして最後にバベルをオーギュストの頭部にかざして、ほんの少し前に使用できるようになった技を使う。


『神罰』


「ああ、やはり龍は強いであ―――」


 こうして、二度目の光の柱が降り注ぎ、そして終わりの合図を告げるようにステージの膜が無くなっていくのであった。

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