第504話 見たことがある魔具
ネンラール王との予定にない謁見が終わると早速とばかりに魔具が置いてある部屋に案内されるのだが。
「おぉ~~金ぴ、か?」
部屋に入るとレオネが声を上げ損ねる。そして神妙な表情でこちらに振り返る。
「ねぇねぇ、宝物庫ってこう、金貨が山積みになっているんじゃないの?」
「誰に聞いた?」
「セレナ」
レオネの問いかけにセレナの方を見ると、セレナは必死に視線を合わせないようにしていた。
(別にこれぐらいでは怒るつもりはないのだがな)
セレナのイメージは多くの金貨が部屋を埋め尽くしていて、そこに王冠や金塊、魔剣や魔具などが置かれている風景だろう。
「そんな乱雑にすれば後々手間だろう?やるならばきちんと管理する。レオネやセレナが考えているような場所は、どちらかと言えば盗賊が略奪した物を保管した場所だろう?」
ただ、実際にはそんな状態なわけがない。そんなことをすれば何がどこにあるかわからないため、きちんと仕分けされているのが普通だ。
またここは宝物庫ではない。なにせ俺たちは完全な部外者だ。そんな者を気軽に宝物庫に入れることなどまずないため、今回案内された部屋は普通の応接間で、そこに魔具が並べられているだけだ。簡単に言うのなら展示場や博物館に近い。
ただ純粋に数百点の魔具が置かれているのはかなり壮観だった
「今一度注意させてもらいますが、興味を持っても触ることはお控えください。ここには触れるだけで発動してしまう魔具も多々あるので」
部屋の中を進んでいると、宰相が連れてきた部下の一人がこちらに振り向き、採算の注意を促す。
「わかっている」
現在、部屋にいるのは主要メンバーに加えて、それぞれ護衛一名だけ、それ以外の護衛に関しては部屋の外にいた。
(使用もそうだが…………それ以上に盗難の備えなのだろうな)
俺達の傍にはそれぞれ文官が一名張り付いている。その理由は護衛というよりも見張りに近かった。
(『亜空庫』など使えば盗難は可能、そうなると警戒も必然か)
本人の持つスキルや魔具、それにここにある魔具の能力を駆使して様々なことをすることが可能だった。
「ん?」
そして部屋の中を検分していると、一つの魔具に気付く。
(あれは)
「ん?アレに興味があるのであるか?」
俺が立ち止まり視線を向けていることに気付いたのか、後ろにいるオーギュストもそちらに視線を送る。
「ああ、これですか、これはとある貴族が購入したらしいのですが、少々財政難になり、手放した一品ですね」
傍に居る文官が魔具について説明してくれる。
「こちらは魔剣“
―――――
万斬剣“イズラ”
★×7
【万斬】
ありとあらゆるものを切断する宝剣。これを持つものは自身を切らないように細心の注意を払わなくてはならない。
―――――
(やはりか、あの時の魔具か)
脳裏にエルフと関わることになったあのオークションが蘇る。
「気になるのであるか?」
「まぁな」
「……大変言い難いのですが、こちらの魔剣はお勧めしません」
俺とオーギュストの会話から興味を持っていると判断したのか、文官が微妙な表情をしながら説明してくる。
「確かに文面ではすべてを切る様に見えますが、実際使ってみた結果、そこまで効果が出るものではないのです」
「というと?」
「はい、平均的な者にこの魔剣を使わせてみましたが、せいぜいが堅い魔物の殻を軽く切り裂く程度となっています。ほかにも魔力に富んだ者に使わせてみましたが、せいぜいがミスリルの盾に薄く線を作る程度で、それぐらいならほかの魔剣の方が効果があるのです」
文官はそういいながら説明してくる。
「そうか……使えそうに見えるがな」
俺は視線を外して、テンゴ達と探索を続ける。
「……ふむ」
それから、数時間かけて、すべての魔具を確認していく。その際にテンゴがいくつかをこちらに渡そうとしてるが、さすがに固辞する。なにせネンラール王からの褒賞を俺が横取りするわけにはいかなかったからだ。だが、テンゴも納得しなかったので、今度アルバングルで歓待してくれということで話を付けた。
そして魔具の受け渡しが完了すると、その後、すぐに金貨の受け渡しが行われる。その際にさすがに金貨を数百枚持つのは危険なため、金貨ではなく大金貨20枚で受け取る。
こうして褒賞を受け取ると、何時までも城に居座るわけにもいかないのでホテルへと戻ろうとする。ただ、その際にイグニア達とは別行動となる。あちらはほかにもやる事が残っているらしい。
そしてこちらも約束があるため、城を出ようとするのだが、その前にある人物に捕まってしまった。
「久しぶりだな、バアル」
「カーシィムか」
城の入り口まであと少しという場所でカーシィムに捕まってしまった。
「これから昼食なのだが、一緒にどうだろうか?」
「…………構わないな?」
カーシィムの問いかけに俺は後ろを向いて尋ねる。問いかけた先はクラリスであり、テンゴ達であり、オーギュストでもあった。
「構わないわ」
「ああ」
「問題ないのである」
「だそうだ」
「なら、早速移動しよう。いろいろと伝えておくべきことがあるからね」
そして全員から問題ないと言われると、俺達は早速とばかりに移動を開始した。
王城からさほど離れていないレストランへと訪れる。そして主賓以外は気軽に席に付き姿勢を崩していた。
「貸し切りだ、好きに頼んでくれ」
「「「ぉぉおぉお!!」」」
カーシィムの言葉にアシラとカーシィム側の護衛が若干の声を上げる。
「……当たり前だが、カーシィムの元に
俺は現在、高級店にもかかわらず、マナー抜きで注文しているロックルに視線を向ける。
「彼にも
「悲惨な目にあってもか?」
「私がいる限りはそうさせるつもりはないよ」
俺達は様々なことをはぐらかしながら会話を続ける。
「それで、接触した理由は?」
「最後の確認、と言ったところだね」
カーシィムと背後にいるクヴィエラの視線がこちらに向く。
「安心しろ。ドミニアに行くことは
「そうか……ならば言うが、軍の大部分が再びアジニア皇国との国境に向けて移動し始めた」
カーシィムの言葉に動きを止める。
「日数は?」
「片道およそ7日、少し急がせれば6日というところだ。そして王宮では、
カーシィムはその言葉と共にグラスを傾ける。
「お前のところか?」
「いや、第二、そして第三王子だ」
その言葉に眉を顰める。
「……ここまで隠し通せたことに驚きを覚えるが、それ以上に」
「なぜ、理解し始めていて
カーシィムの言葉に頷く。
「答えは簡単だ。そうすることに
「価値、な」
「そう、いや価値が出来上がると言った方がいいか」
カーシィムは面白いとばかりに微笑む。
「マルクス王は止めなかったのか?」
「……何を考えているか、わからないとしか言えないな」
カーシィムの話ではまだ察知できていないのか、それとも知ったうえで泳がせているのかわからないと言う。
「隠している戦力は?」
「ない、とは言わない。が、私達にも隠し通せる部隊があるとは思えないが」
把握している戦力ではほとんどを東に向かわせたという。
「なら、もう二つ聞こう。第二第三はどのような手を打つつもりだ?そしてなぜ、ここまで隠し通せた?」
「前者は時間が無いため、直近では無いと考えている。そして後者は、それはあちらに着けば説明されると思うよ」
そしてこれ以上話すつもりはないとばかりにカーシィムは微笑む。
「察知された以上、こちらに何かをしてくる可能性は?」
「限りなく低い、が、無いとは言わない」
「……わかった。ほかに何か聞いておくことは?」
「無いが、一つだけ伝えておく、昨日のうちにドイトリはハルジャールを出た。そして昼までで確認した限りだが、ハルジャールからドワーフの姿が
「……料理が来たみたいだ」
カーシィムの言葉を聞き、どの段階かの予想が着く。
そして料理が並べられると、俺とカーシィムはグラスを構える。
「乾杯の口上はどうする?」
「では、わたしはバアルの無事を祈ろう」
「なら、こちらはカーシィムが追及されないことを願おう」
チンッ
共にそれぞれの利益を願ってグラスを打ち鳴らすのだった。
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