第503話 ネンラール王との謁見

 翌日、本戦が始まる時刻にハルジャール城に訪れる。


「ではこちらへどうぞ」


 城にたどり着くと、俺達はすぐさま案内される。


「それにしても、よく受け入れてくれたわね」


 王城の中を通っていると隣にいるクラリスが問いかけてくる。


「何がだ?」

「こんな大勢で押しかけていいの?」


 クラリスが後ろを見ながら聞いてくる。


 そこには俺とクラリス、そしてリン、ノエル、エナ、ティタ、セレナ、レオネ、ロザミア、マシラ、テンゴ、アシラ、アルベールとカルス、そして新たに護衛に加わったオーギュストと護衛を除いた要人に5人ずつ騎士がついていた。またさらにはイグニアやユリア、ジェシカもいた。


「クラリスさん、問題ありませんよ」

「ユリア様のおっしゃる通りです」


 こちらの会話を聞いていてユリアと案内してくれている文官が答えてくれる。


「そういうことだから安心していい」

「なら、いいけど……獣人たち、というか一人・・を注意した方がいいかもね」

「だな……」


 クラリスに釣られて、後ろに視線を向けると、イスラーム建築が珍しいのかキョロキョロとしているテンゴ達がいた。そしてその中にいる、レオネがフラフラとして通路にある調度品を触ろうとしていた。


「レオネ」

「ん~なに?」


 俺が声を掛けると、レオネはすぐにそばに来る。


「傍で大人しくしていろ」

「は~い」

「ノエル」

「問題ありません」

「む~」


 一応確認したが、ノエルの糸があるとしても不安なため、傍に置く。


「ふぅん」

「クラリス」

「わかっているわよ」


 クラリスが不満げな声を上げる。


「大丈夫大丈夫、順番・・は守るから」

「いや、待って、まず加わることは認めてないわよ」

「え~~」


 それから王城の中だと言うのに、そんなことを感じさせないほど軽い話が俺を跨いで飛び交うのだった。
















 そして案内された先は、宝物庫ではなく、玉座の間だった。


「面を上げよ」


 そして必然的に、会うのはネンラール王となってしまう。


(予定ではそのまま文官の幾人かと褒賞の話をするだけと聞いていたが、話が違うな)


 護衛を壁際に立たせて、玉座の前で跪きながらユリアにチラリと見る。するとユリアは一度だけ申し訳なさそうな顔をして、そのまま顔を伏せる。


(……どうやらあちらも想定外だったらしいな)


 ユリアの反応からして、ユリアが仕組んでいないことは確かだった。なにせユリアからしたら、俺の心証を悪化させる真似をするべきではない。なにせ俺はイグニアを王座に着けるための重要なピースであり、ジェシカに勝つために自身の付加価値として知らしめたいピースだったからだ。


「久しいなイグニア」

「陛下におかれましてはご健勝で何よりです」

「よいよい、イグニアとはいずれ縁者になるかもしれない相手だ、そう畏まる必要はない。そしてジェシカもな」

「お久しぶりです、大伯父様」


 イグニアに挨拶した後、そのままジェシカに視線を向ける。それは普通に見れば縁者との楽しい会話として見えるが、こちらからしてみればネンラール王がユリアよりもジェシカを優先していると宣言しているようなものだった。


(本当に、厄介な強敵が現れたようだな……俺にではないが)


 ネンラールに置いてユリアよりもジェシカの方が影響力が出てきた。それは言い換えればユリアの影響力の一つが奪われたと言っていい。


「バアル・セラ・ゼブルス、直接話すのは初めてだったな」

「はい、お目に掛かれて光栄です」

「こちらもだ。10歳未満でイドラ商会という大商会を作り出し、その後ノストニアやアルバングルと深いつながりを持った、そんな稀有な才を持つ人物を是非見てみたかった」


 ネンラール王が、俺の斜め後ろにいるクラリスとレオネに視線を向けられる。


(レオネが俺の伴侶として見られているが……ネンラールに隙を与えないという点では今は好都合だ)


 レオネを監視するためという名目で傍に置いたが、それがいい方向で作用した。


「それにしても、バアルは人をたぶらかすのが上手だな」


 今度は視線がオーギュストに向く。またその言葉はすでに俺の護衛の様な立ち居にいることから、話がついていると判断しているのだろう。


「ふふふ、それは仕方がないのである。彼は魅力があるのである」

「らしいな、もし機会が有れば私の部下に臣下に誘いたかったがな。バアルよ、我が国に来るのならいつでも歓迎するぞ」

「お戯れを」


 ネンラール王は軽くそう勧誘してくるが、目が本気だと言うことを物語っていた。


「マルクス陛下、お戯れはほどほどにお願いします」

「そうだな、イグニアの元にいるのなら、私とも近しくなるだろう」


 そういうとネンラール王は視線をテンゴへと向ける。


「テンゴ、お主はアルバングルの大氏族の長と聞いたが、真か?」

「ああその通りだ、いえ、です」


 テンゴが素で答えるがすぐさま傍に居るマシラが尻尾で合図をして、言い直す。


「よい、強者には強者に許された振る舞いがある。苦手なら素で話しても構わない。それで、聞くが今アルバングルは国として発足して間もないと聞いたが?」

「ああ、バアルのおかげで国として立ち上がった」

「ふむ、なら、もし困った際や、何か必要なら遠慮なく声を掛けてくれ」


 もちろんただの親切心で言っているわけではないのはこの場にいる全員が理解していた。


(ネンラールもアルバングルと縁を繋いでおきたいわけか。まぁ新たに出来上がる国にいくらか貸しを作っておいても損はないからな)


 何を求めるかは不明だが、恩を売っておけばあとで高くつくだろう。それが恩義を忘れない獣人なら尚更にだ。


「感謝する」

「うむ、それとそうそう長話もやめておこう……ここに見事優勝したドイトリの姿がないのが残念だが、褒賞の話に入ろう」


 その言葉で宰相が前に出る。


「あとのことは任せるぞ」

「お任せください」


 そして宰相を信頼しているためか入れ違う様に王は退室していった。


「そこからの話は私が代行いたします。まず二位のテンゴ殿への褒賞ですが、まず―――」





 それからの話は至極簡単な物だった。まず二位のテンゴと三位のオーギュストにはそれぞれネンラール金貨で200枚と100枚が与えられる。そしてそれぞれの願いに関してだが、オーギュストは今日から明日の日が昇るまで訓練場を貸し出す許可が与えられる。そしてテンゴにだが、これは褒賞に与えられる魔具の個数が2個から7個にまで増やすことで話が着いた。





「―――では、次に、魔具の受け渡しですが、それは場所を変えると致しましょう」


 その言葉で俺たちは宰相と共に移動を始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る