第505話 エキシビションマッチ

 カーシィムとの昼食が済むと、カーシィムと別れる。また、俺達はその後に二手に分かれた。一つは受け取った魔具と金貨をホテルへと保管しに行く騎士達、そしてもう一つは―――







「こんにちは!!お会いできて光栄ですオーギュストさん!!」

「うむ、元気で何よりである」

「いえいえ、これも仕事ですから!!」

「では早速だが、頼むとしよう、リティシィ・・・・・殿」


 俺は馬車を降りると重い足取りでコロッセオへと訪れる。そこではすでにリティシィが待っていた。


「はい!!それと初めましてバアル・セラ・ゼブルス様」

「こちらこそ、リティシィ=サル・ネンラール王女殿下」

「あはは、敬称は不要ですよ。私ほどの地位になると、下手な貴族よりも下の扱いですから」


 一応作法のある動きはするが、それでも気安く接しやすい雰囲気がリティシィにあった。


「それで、殿下がおられる理由は?」

「はい、権限を付与された私がステージの設定をすることになりました」


 どうやら本戦同様にリティシィがステージの設定を行うと言う。


「……一応こちらの希望は身内以外の見学者は無しにしてほしいのだが」

「わかりました。では設定だけして、私は戻ることになります。けどその場合はあとから設定は変えられませんよ?」


 話を聞くと、国宝である『戦神ノ遊技場』を置きっぱなしにはできないようで、ステージを作り出したら、その後回収するとのこと。


「構わない。それよりも魔具を回収して問題はないのだな」

「はい、『戦神ノ遊技場』は特殊な場を作り出すことが能力なので。作り出してさえしまえば、魔力が尽きるまではそのままにできます」

「なるほど」

「それで、どのように設定いたしましょうか?」

「そうだな―――」


 それから、オーギュストを交えて、どのような形で戦いかを決める。とはいっても双方、特別な条件を望むわけではないので普通のステージ構成となった。
















「……ふぅ」

「お気を付けをバアル様」

「ああ」


 俺はリンから声援らしい言葉を貰うとそのまま通路を通っていく。そして薄暗い通路から太陽に照らされているグラウンドに出ると、思わず目を細める。


(……選手たちはこの光景を見ていたのか)


 グラウンドからコロッセオを見渡すという、始めての光景を見て、ほんの少しだけ戦士たちの気分を味わう。


「バアル、頑張ってね~~」


 そしてグラウンドに一番近い、下の観客席には、弟のアルベールをはじめ、クラリスやレオネ、テンゴ一家になぜかロザミアとヴァン、それにいつ来たかもわからないダンテ・・・までいた。そしてコロッセオのあちこちには不審な人物がいないのか見張るために騎士達を配置していた。


(いつの間に来たのか)


 一応アルカナで確認していたが、俺が動きやすい格好に着替えている間にかコロッセオに出現にしていた。


「少し寂しいであるが、いないよりもマシであるな」


 反対側の入り口から出てきたオーギュストが同じように観客を見渡してからそう告げる。


「こちらとしてはどちらでもいいが」

「そうであるか。では、お相手よろしく頼むのである」


 オーギュストはステージを上がっていく。


「戦士としての戦いは期待するなよ」

「心得ているのである」


 そして俺もステージに上ると、カウントダウンが始まるのだった。












『さ~~て、やってきましたエキシビションマッチ、でいいんだよね?』

『合っているわよ。でもバアル様の二つ名はどうしよう?』

『う~~ん“天龍”?』

『“破滅公”でいいじゃない、実際、そういう二つ名だし、ほかに何かある?』


 ステージではカウントダウンが進んでいるというのに思わず聞こえてきた声で気が抜けそうになる。


「何やっているんだ、あのバカ共は」

「いいではないか、さすがに何の反応もなしでは味気ないのである」


 俺とオーギュストは共に本戦でリティシィがいた場所に向く。そこではセレナとレオネ、クラリスがいた。


「これ、外にも聞こえているんじゃないのか?」

「そうであろうな。だが貸し切りにしている手前、誰かが入ってくると言うことはないであろう」


 正直戦意をそぐような真似はしてほしくないと思っているとカウントダウンが3を切る。


(しかし実感してみると、大きいな)


 俺はカウントダウンが残っている間にステージを見渡す。そこは本戦の規模の広さを持ち、そして予選の様にただの石畳のステージとなっていた。そのため端から端まで視線を通すことが出来た。


『それじゃあ、はっじめ~~~』


 カウントダウンが終わるのに合わせてレオネの声が響くのだった。
















「『怒りの鉄槌』」


 カウントダウンが終わると、早速とばかりに行動に入る。バベルを取り出すと、すぐさま高威力の『怒りの鉄槌』を使用する。


「なかなか、危険で馨しい匂いで――」

「『飛雷身』」


 オーギュストが何かを告げようとするが、こちらはそうそうに決めに掛かる。


(すまんが、長々と戦うつもりはない)


 オーギュストの後ろ斜め上に一瞬で移動すると、体内のばねを利用して全力でオーギュストの頭部に受けて振り下ろす。


「『鋭利なる剣尾』」


 それに対してオーギュストはすぐさま尻尾を取り出し、マシラに使ったような剣の形状すると、振るった斧槍から身を守る様に構える。


 そして剣と光る槌が触れると


 パァン


 剣の尾は一瞬のうちに弾け飛ぶ。


「!?っ」


 剣尾が弾け飛ぶと振り返りながら、何が起きているのかを確認する。そして振り向き、バベルが迫っている中、避けきれないと判断したオーギュストは一瞬のうちに黒いゲルで全身を包む。


 パァン!!


 そして次の瞬間、オーギュストが振り返ってことで左肩にバベルが当たる。バベルはそのまま障害が何もない様に振り抜かれ、オーギュストの左肩から先を持って行った。


 トッ


「でたらめであるな」


 斧槍が振り抜かれたことで一瞬の間が空いた間にオーギュストは距離を取るためにバックステップする。


「『飛雷身』」


 だが、次の瞬間には、再びオーギュストの左後ろに移動して、バベルを横なぎに振るう。


「くっ」


 それに対してオーギュストは右腕を犠牲にし、避ける。


「『悪魔の威光デモンズ・レイ』」


 そして無茶な体勢のまま、顔だけをこちらに向けて、角から光線を放とうとする。


「『飛雷身』」

「っっ」


 それを見るとすぐさま顔の反対側に移動する。


「終わりだ」


 そしてオーギュストが振り向く前に頭部に向かってバベルを振り下ろす。


「これは、きついであるな」

「じゃあ、終われ」


 そしてバベルはオーギュストの胸から上に重なる様にしてステージに埋まる。























『…………えぇ~~』


 ステージにいるレオネの思わずの声が聞こえてくる。その声にはつまらないという意味が含まれているのは全員が気付いた。


(さて、本当に、これで終わりなのか…………まだか)


 オーギュストの両腕と頭部を弾け飛ばしたというのに、体が粒子になる気配がない。


「待つ気はないぞ」


 俺は再びバベルを振り、完全にオーギュストの体を消滅させようとする。


 シュル

「っと」


 だがその瞬間、残った体から触手が生えて、こちらを突き刺そうとしてくる。そしてそれを見ると、すぐさま後ろに飛び、触手を避ける。


「……その状態で生きているのか」

「賭けであったであるがな」


 俺の言葉にくぐもった声で返答される。


悪魔の再誕デモンズ・ボーン


 グチ、ギチュ


 残ったオーギュストの腹部が裂けると、そこからなにかが這い出てくる。


「体積は無視かよ」


 裂けたオーギュストの腹から出てきたのは、体格も身長も最初と全く同じである悪魔のオーギュストだった。


「ふぅ~弱くなるとは言え、ここまで一方的にやられるとは思わなかったのである。それよりもなぜ生まれてくる最中に攻撃しなかったのであるか?」

「……なぜ、そんな手間のかかることをしたのか聞きたくてな」


 攻撃しようと思えばできた。だが、しなかったのは、試合後のための情報集めで問うためだった。


「簡単である。ワガハイの持っている情報は五年前のモノ、それもアルカナを手に入れる前なのである。そんな状態でバアルと本気で打ち合うと負けるかもしれなかったのである」

「だから、こうして、様子が見れるようにしたと?」

「その通りである」


 オーギュストはその通りだと頷く。


(勝つために身代わりを用意して一度負けるか、その判断は理解できる。なら、次は生まれ直す間を与えな――)


 攻撃を仕掛けようと思うと、オーギュストは先んじて一つの魔法を使った。




「『広域の闇ワイドダーク』」


 魔法に寄り、ステージの大部分が黒い煙で覆われてしまう。


 そしてその行動に思わず舌打ちをしたくなった。

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