第501話 表彰式

 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


「……マシラ、聞きたいことがある」


 ステージからテンゴは吐き出されて、ドイトリが未だに横たわったままでいる中、俺はマシラに問いかける。


「なぜ、手を抜いたか・・・・・・、か?」

「「え?!」


 こちらの会話を聞いていた、アルベール、そしてジェシカが反応する。


「兄さん、テンゴさんが手を抜いていたと?」


 アルベールはよくわかっていないとばかりに問いかけてくる。


「それはそうだろう?なにせオーギュストとの最後の形態・・になっていないだろう」

「……たしかに」


 アルベールも思い出す。この試合、テンゴはそれなりの『獣化』はしたが、一回戦目の最後の時の様に全身を獣にするまでは行っていなかった。


「『獣化』が強化の類も含まれるなら、あの場面で使わないのは不自然だろう?」


 そしてここまでを説明すれば貴賓席内では獣人組以外がマシラに視線を向ける。


「まぁ、色々と言いたいことがあるが、テンゴは出さなかったんじゃない、出せなかった・・・・・・だけだ」

「どういうことだ?」


 今までの試合で出せていたのに、この試合に限ってはできなかったという。その差は―――


「一回戦の最後か?」

「ああ、あの状態で・・・・・終わった・・・・のがまずかったな」


 脳裏に、『獣化』したはいいものの勝敗が着いても戻れなかったテンゴの姿が思い浮かぶ。


「だが、それは元に戻るのが遅れただけだろう?」

「バアル、あたしらは体を変えている。純粋な強化じゃない分、デメリットは存在する」

「あの、テンゴみたいにか」


 吐き出されたが、しっかりと地に降り立ち、再びステージに上ってからドイトリに手を貸しているテンゴに視線を向ける。


「ああ、その通りだ。急激に変化させれば当然、負荷が掛かるし、度を越えた変化をしてしまえば、それ以上の負荷がかかる。あれだ、全力疾走してから、その後しばらくの間は走れなくなるようなものだ」


 マシラは何とも軽く言っているが、体を変化させる時点で同じレベルの話ではないのは明らかだった。


「でも、勝敗が着けば元に戻るのでは?」

「いや、テンゴが『獣化』を解いたのは試合が終わった後、回復した後だ。となれば」

「そう、元通りにはなっていないのさ」


 リンの指摘に、俺とマシラが予想を返す。そしてその言葉に貴賓席内では納得の空気が漂う。


「しかし、運がいいな」


 俺は退場していくドイトリを見ながらそうつぶやく。


「最後の雨が偶然・・だったら、そうね」


 そしてその呟きにクラリスがそう返してくる。


(クラリスにはバレていてもおかしくないか)


 エルフの魔力を見る力、それがあれば精霊が意図的に姿を現していなくても視認することが出来る。それの力を考えれば何を行ったかは一目瞭然だろう。


「言う気はないし、言ったところでそれは影響を及ばさない様にできなかったネンラールの落ち度でしょうね」

「だな」


 本戦が始まる前にリティシィはその旨のことをしっかりと告げていた。それを考えれば、できても責任を問われる謂れはない。


「あの、バアル様」

「どうし……ああ」


 背後にいるノエルの言葉で振り返ると、完全に動きを止めているセレナの姿があった。


「自業自得だな」


 この言葉に事情を知っている者は全員が全員頷くのだった。


「ね、言ったとおりでしょ?」


 そして再び、背中に重みを感じ、耳元でささやかれる。


「……目的は?」

「ん?バアルのため・・・・・・になると思っただけだけど?」

「……そうか」


 こちらの問いかけに、レオネは何の気なしに応える。


(本気で……言っているな)


 今までの経験と勘だが、レオネが嘘を言っているようには思えなかった。そしてだからこそわからなく、そして怪しかった。


「それで~この後は?」

「休憩を挟んでから表彰式が始まると聞いているが?」


 レオネの言葉に続き、疑問をユリアに投げかける。


「その通りです。さすがにすぐに表彰に入ることもできませんので」

「ああ、いろいろと手間があるんだろう」


 ユリアとイグニアが答えてくれる。さすがに何の準備もなしに、次に進むことはできないだろう。


「わ、私の、お金……」


 しばらくしてショックの硬直が解けたのか、セレナはそんな言葉を残すのだった。














 それからしばらく時間が置かれる。とはいえ、試合の間の様に長いインターバルではなく、せいぜいが数十分という短い時間だった。


 だがその間にグラウンドは劇的な変化を遂げていた。


「それでは表彰式に移ります。入賞者前へ!!」


 リティシィのいた場所には大会の予選開催を告げた文官おり、声を張ると、その言葉に従う様にドイトリ、テンゴ、オーギュストがグラウンドへと入場する。


 そしてその瞬間には―――


 ワァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 歓声が三人を包み、そして休憩中にわざわざ配られた花びらがコロッセオに舞い散る。


「では、登壇を」


 そして今度は優しく告げると、三人は元に戻ったステージの上にある、新たに作られた豪華な表彰台に乗る。


 表彰台はネンラール王の玉座の方角に向いており、そして順位順に高くなっていた。


 ドォン!!


 そして大会が始まった時の様に大きな銅鑼の音が鳴り響くと、ネンラール王が玉座から立ち上がりステージの方へと向かった。


 ワァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 そして観衆の前に見える位置まで進むと手を振り観客の声援にこたえる。


『皆者、大会が終わりを告げた。そして幾万の試練を乗り越えた英傑たちが本戦へと突き進み、さらにそこから頂点ともいえる三名が出そろった』


 ネンラール王は厳かだが、力のある声で言い切ると、観客して一瞥する。


『戦士らの諸君、刮目せよ!!!今ステージにいるのは、武神に認められ、祝福された勇者であり、また貴様らが目指すべき目標である!!これから芽吹く新緑たちよ、次の大いなる者たちとなりこの場に立つのだ!!!そして称えよ、幾重の猛者と戦い抜き、今ここにいるこの者らの功績を!!!』


 ワァアアアアアアアアアアアアア!!!


 オォォオオオオオオオオオオオオ!!!


 王が三人を賛美すると再びコロッセオ内、そしてハルジャール全てから歓声が上がる。三人はその歓声を受けて満更でもない表情をした。


 その後、歓声が収まり出すとネンラール王が腕を上げて、歓声を鎮める。


『そしてこの者らは見事にその力を示した、それゆえに褒美を取らせる!!!』


 ネンラール王は視線を表彰台にいる三人に向ける。


『報酬は大金と魔具の数点を与える。そして入賞した褒美として願いを告げよ』


 王の声に観客席からどよめきが走る。毎度のこととはいえやはり緊張するのだろう


『ではまずはオーギュストから聞こう。お主の望みはなんだ?』

「では、失礼して。ワガハイの願いは一つ、『戦神ノ遊技場』を貸し出していただきたいのである」


 入賞台に立ちながらもいつものような姿勢で佇んでいるオーギュストは口からその言葉を出す。


『ふむ、さすがに国宝を貸し与えることはできない。だがその目的は死なない場か?』

「左様である」

『では、明日一日、ステージを残した状態でお主に貸そう。それで納得か?』

「感謝するのである」


 オーギュストは綺麗な姿勢で頭を下げて謝辞を述べる。


『では次にアルバングルからの挑戦者、テンゴ。お主の望みはなんだ?』

「望みか……そうだな、氏族を豊かにする魔具をもらえるか?」


 テンゴは気負うことなく、ネンラール王に願う。


『ふむ、では国庫にある中の魔具の数点与えるとしよう。だが、生活様式が違うだろうから、詳細は明日だ』

「おう!!」


 テンゴは腕を組み名がら笑顔で答える。


『最後に今年の優勝者であるドイトリよ、お主は何を望む?』


 ネンラール王がドイトリに視線を向けると、ドイトリは膝をつき頭を下げながら顔を上げ、真剣な表情でネンラール王を見る。


「ネンラール王、元ドワーフ領地の完全な・・・自治権・・・をいただきたい」

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