第500話 決勝戦決着
『おおっと!!急な大雨!!ですが、ご安心してください!!このコロッセオは急な雨でも対応できていますので』
リティシィの言葉を証明する様に、観客席などの上空にはステージに使われている光の膜が傘の様に出現していた。それにより、雨からコロッセオの観客席を守っていた。ただステージの上にだけはそれらは存在しない。
『ですが、本戦初日にも説明したように天候はステージに反映されてしまいます。そのため――』
全員がステージに注目する。そこには――
〔~ドイトリ視点~〕
『ですが、本戦初日にも説明したように天候はステージに反映されてしまいます。そのため――』
儂はどこか遠くなっている意識の中、無意識に空を見上げる。そこには曇天と大粒の雨が鎧を濡らす。
(まるで、儂の心模様じゃな)
相手があまりにも相性が悪すぎるためか、勝てる気がしない。
スゥ―――
だが、そんな思いとは裏腹に頭は冷えていく。それは鎧の隙間から入ってきた雨に寄り、頭が濡れたせいなのか、それと気分によるものかはわからないが、それでも頭は体の状況とは真逆に動き続ける。
(慈雨、と言えるじゃろうな)
まるで雑念や弱気を洗い流してくれたかのような感覚だった。
そして視線を下げると、相手してくれているテンゴが腕を組みながら止まっていた。
「待ってくれておったのか?」
「そんなところだ」
テンゴの表情から、こちらが整うまで待っていたことは明白だった。
「つくづく、戦士じゃのぅ」
「ああ」
その言葉でテンゴは動き出す。前屈姿勢になると、一気に加速して詰め寄ってきており、その軌跡を示すように、雨が弾かれた道が出来上がる。
「乾いた砂ならともかく、湿った砂なら!!」
儂はすぐさま離れた位置にある大槌を『磁器拾い』で拾い上げる。そして受けると、その衝撃を利用して槌を目の前に振り下ろす。
「『隆起壁』!!」
目の前に槌を振り下ろすと、槌が打ち付けられた場所から反動で盛り上がる様に壁が出来上がる。
「『爆砕』!!」
今度はスイングする様に振りかぶると、大槌の皿の部分に描かれている模様が光り出す。
「ふん!!」
ボン!!
そして槌が壁にぶつけられると、振られた槌を押し返すほどの爆発が起こり、隆起させた壁を砕きながら弾き飛ばす。
「ほっ」
だが、そんな攻撃は見飽きたとばかりにテンゴは急激な方向転換をすることで容易に避ける。
「これで」
そしてそれを見ると儂はほんの少しの時間が出来た隙に袋に手を入れて、一つの物を取り出す。
『ここでドイトリ選手が取り出したのは……リフィネ選手の時に使った、あの外套だ!!これは――』
リティシィがステージの状態を見て何かを言おうとする前に動く。
「『泥鎧』」
外套を被ると即座に
『っ!!大雨により、砂場だったステージが変化し、ドイトリ選手の優位の場となった!!!!!』
劣勢だった儂が何度も挑み続けた末に、事態が好転する、これがで劇だとしても十分に見ごたえのあるものとなっているだろう。
(見世物ならいい評価を得るのじゃろうな)
そう思いながらも、儂は魔具の操作に心血を注ぐ。
「ふむ、なるほど」
泥がせりあがり、肩のほどまで上がるのを確認するとあちらも肩を鳴らす。
「さて、それよりも……これから先、さっきみたいになると思うなよ」
ズズズッ
「それは楽しみだ」
そして儂らは動き出す。
まず動き出したのはテンゴだった。いつものように俊敏な動きで儂に近づこうとしてくる。
それを確認すると、儂も即座に動き出す。水を吸って泥となった砂を動かす。泥を幾重の壁の様にすると、テンゴを埋めるように覆い被せようとする。
「ふん!!」
だが、あちらは簡単に掌底一つで、泥を軽く弾き飛ばす。
ゴン!!
「ふぐっ!?」
そしてなぜか離れているはずの儂の体も吹き飛ばされた。
(理解していたはずじゃが……やはりそれは理不尽じゃの)
泥となった砂の上を転がりながらそう思う。
だが、拳よりも軽かったため、しばらく動けなくなるほどではなかった。
(っっ、だがそれでも、きっついのぅ)
儂はすでに何度も受けていた攻撃に寄り、どこもかしこもガタが来ている。そこに弱めの攻撃だとしても十分な効果があった。
「『泥鎧』」
儂は膝を尽きながら再び魔具を使用する。
(しかし、このままでは同じことの繰り返し……どうするか)
そう思いながら泥を動かす。だが先ほどの攻撃を考えれば不用意に攻撃を仕掛けることはできなかった。
「??ふむ」
そして再び、魔具を使用したのにも関わらず動かないことにあちらは首を傾げる。
(いや、何を考えておるんじゃ。結局、動かなければあちらが動くだけとなってしまう……なら!!)
再び泥を同じように動かして、立ち上がろうとする。
「同じか」
その声が聞こえると、再び衝撃が来ると身構えた瞬間――
ズルッ
足元に水が溜まり、足を滑らせてしまう。
「な!?」
思わず間抜けな声が出る。思わず心の中でやってしまったと思ったほどにだ。
だが、今回はそれが
パァン
そしてテンゴが泥を打ち払うと、同時に儂にまで衝撃が、
「なぜじゃ……」
その様子に目を丸くしていると、あちらはしまったという顔をする。
(なぜかはわからんが、これだけはわかった。衝撃波は
出なければ先ほどむしろ転んだ儂の体に衝撃が来ないことに説明がつかない。
「そうとなれば」
儂、再び泥を操作する。そして今度はテンゴの周りを囲う様に、視線を遮るようにだ。
(それと――)
儂はもう一つ泥を操作して手を加える。
そしてその行動が正解とばかりに少しずつ雨が弱まっていった。
『ドイトリ選手、何かを見抜いた模様、明らかに策を講じ始めた!!!』
「鬱陶しい」
だがテンゴはそれが何の意味があるとばかりに泥を打ち払い、ドイトリに向かって前進するのだが。
「あ?」
『え、えぇ!?』
泥の山を越えた先でテンゴが見たのは、泥の上に盾を置いているドイトリの姿だった。
「では、行くぞい!!」
その言葉でドイトリは腕をテンゴへと向ける。
そして始まるのが、泥による波状攻撃だった。大きな波に小さな波、そして時々、真下から泥が立ち上りテンゴを攻撃しようとする。
「これぐらいか」
だが、それらの攻撃を見ても、テンゴは慌てない。いつも通り攻撃をかき消そうと腕を振るう。
「そうしたらこうじゃろ?」
ス、スゥーーー
ドイトリが確かめるように呟くと、ドイトリの足元の泥が動き出して、盾に乗ったドイトリが静止したまま動き始めるという事態となった。
「やはりな」
そしてドイトリは泥が打ち払われるのを見てから
「『磁器拾い』」
ドイトリのアーツに寄り、ステージに転がっている一つがドイトリの手に吸い寄せられる。
「反撃開始じゃ!!」
ドイトリは拾った大剣を掲げて、移動し始める。
そこから始まったのはヒット&アウェイ戦法だった。
ドイトリは泥のサーフィンとでも呼ぶ行為で高速移動しつつ、泥の攻撃と拘束を仕掛けてテンゴを翻弄し始める。テンゴがドイトリに急接近しようとすれば、ドイトリは大きな波や泥の手と言ったものを作りテンゴの足止めと攻撃を行う。また理由はわからないが、その間も動き続けることでテンゴの衝撃波も回避していた。
そしてテンゴは動きにくく成ればドイトリは高速で移動しながら近くスレスレを通り過ぎるように攻撃を加えたり、今ある武器を捨てて弓を拾い、矢を射るといった行動を繰り返していた。
さすがのテンゴもこれには参り、泥をはじいて遠くから攻撃を加えようとするが、ドイトリの装備は泥を操る能力を持っており、泥に泥を掛けるだけで終わり不発となる。
こうしてちまちまと一方的に攻撃を食らうことになり、当然テンゴは不機嫌な表情になる。
「……なら、こうだ、な!!」
テンゴは一度足を止めると大きく息を吸うと両手を合わせて、大きく振りかぶる。そして―――
「『大震』」
テンゴは組んだ手を思いっきり振り下ろす。すると、その衝撃に寄り泥が大きく波打つ。それもステージ全体に大きく波打つようにだ。
「のっ!?」
テンゴの衝撃を受けて泥による攻撃は全て形を崩し無効化されてしまう。また泥の上を滑っていたドイトリはそれに驚く暇もなく、大きな泥の波によって打ち上げられてしまう。それもテンゴの威力によるものなのか、ステージの天井ギリギリまで打ち上げられてしまった。
「やはり、地面の上じゃなければ泥は動かないみたいだな」
テンゴは周りを見ながらそういう。ステージの上ではテンゴに迫る泥の姿がなかった。
「空中なら泥も操作できねぇし、
ググッ
テンゴは素早くドイトリの落下地点に回り込むと、大きく屈む。そしてはた目からわかるほど足に力を入れる。
ドン!!
『っっ、飛んだ、いえ、跳んだ!!テンゴ選手、未だ宙にいるドイトリ選手に迫っていく』
テンゴは再び泥に波立たせると、落下しているドイトリに向かって跳ぶ。それも天井にぶつかる勢いで迫っているので、貫通させなくても特大の衝撃を食らわせることが出来るだろう。
「っっっ」
ドイトリもそれを見て顔をしかめる。だがドイトリの視線がいくつも動くと逆に驚きの表情を浮かべる。そしてドイトリはテンゴへと腕を伸ばす。
「『磁器拾い』」
「!?」
今度はテンゴが思わずと言った風に表情を変える。そしてすぐさま後ろへと視線を向ける。そしてそこにはテンゴを追い抜き、そのままドイトリの手に収まる最初の槌の姿があった。
「もう一度じゃ!『磁器拾い』!!」
そしてドイトリはもう一度魔具の
「ぬかった、か」
テンゴはそういうと、身構える。
「これでしまいじゃ!!『爆墳』!!!」
そしてドイトリは槌を掲げるのだが、その槌の皿の部分に白い玉が浮かび上がる。
「うぉりゃあああああ!!!」
ボオン!!
タイミングを計るとドイトリはテンゴに向かって槌を振る。そして槌が振られる瞬間に槌は爆発で大きく加速して、今までよりもはるかに速い速度でテンゴへと向かって行く。
「グッ」
ググッ
テンゴは両手を重ね合わせて、槌の切っ先を受け止める。ここで刺さっていないことにドイトリは驚く。
だが、次の瞬間――
ドッ
ドッ
ザッ
ギッ
いくつもの迫りくる刃がテンゴの背へと刺さる。そして仕舞には大剣の刃もテンゴへと刺さり始める。
「おぉわぁりぃじゃぁあああ!!!」
「っっ」
ドイトリは勢いに任せて槌を振り抜くと、テンゴを地面へと激突させる。
ドン!!
「っ!?」
泥とはいえ勢いよく衝突した衝撃で、テンゴの背にほんの少しだけ刺さっていた武器たちは押されるようにテンゴの体に深々と刺さり、そのままテンゴを貫く形となった。
「ああ、すまん、仇は取れなかっ―――」
そして、泥の中でテンゴは何かを伝えようと口を開くが、体が光の粒子となり、先を紡ぐことはできなかった。
ボスッ!!
「うぐっ、泥とはいえ、痛みのある体には応えるのぅ」
ドイトリは泥の上に打ち付けられると、仰向けになりながら、転がる。
そしてそれを待っていたかのように、雲は晴れていき、空に太陽の光が差し込み始める。丁度ドイトリを照らすように。
『しょ、しょ、しょうしぇや』
そんなドイトリの耳に聞こえてくるのは、震えたリティシィの声だった。
『ん、んっん。え~今大会はここ数年と比べて、より激しいものでした。そして、それを!!見事勝ち抜いたのは!!』
コロッセオの観客が今か今かとその宣言を待ちわびる。
『勝者!!!“剛武”ドイトリ選手!!!!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!
リティシィの宣言に寄り、コロッセオは、そしてハルジャールは爆発するような歓声に包まれる。
「わはは、これは……気持ちええのぅ、なぁ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます