第492話 リョウマ達への依頼

『勝負が決まりました!!一回戦目の勝者は“破壊剛腕”テンゴ選手!!!』


 ワァアアアアアアアアアアア!!!

 オォォオオオオオオオオオオ!!!


 オーギュストの残骸らしきものが光の膜に吸い込まれていくとリティシィの勝敗宣言が行われる。そして宣言に合わせて観客の歓声とテンゴの咆哮が上がる。


「っっ、あのっっバカ!!」


 ガッ、トッ


 マシラはテンゴが未だに『獣化』を解いていないのを見ると、すぐさま前に駆け出して、柵を足掛かりに一足飛びにグラウンドへと向かう。


「何がどうなっている?」

「いろいろあるのさ、俺達の体は単純じゃないからな」


 何が何だかわからないでいると、アシラは用意された飲み物を飲みながら答えてくれる。


 アシラの言葉を聞きながらステージを見ると、変化があった。
















「ふぅ、なるほど、甦るとはこのような感覚であるのか」


 オーギュストは光の膜から吐き出されると、空中で体勢を立て直してグラウンドに着地する。


 ふぅ~~ぐるぅ~~


「……??戻らないのであるか?……いや、戻れない・・・・のであるか」


 光の膜が無くなったステージの上で、未だに『獣化』した状態であるテンゴは動かずに視線だけをオーギュストに向けてじっとして居た。


「難儀な体であるな」

「ああ、まったくだ!!」


 そしてオーギュストの横を通り過ぎながテンゴに近づくマシラ。


「ふぅ」

「ああ、わかってるよ」


 トットットッ


 テンゴの声を理解しているのか、マシラはそのままステージの上を走り、テンゴ元へと駆ける。


『ちょっ!?急いできって――』


 その様子を見て、リティシィは急いで魔具を操作し、何度か手を動かして安堵の息を立てた。


「ああ、始まりそうだったのか、まぁいいけど、な」


 マシラがリティシィの様子を見て、事態を察すると、そのままテンゴの傍まで来るとひとっ飛びしテンゴの肩に足を掛ける。


「たくっ、驚いちまったのか?」

「……ふぅ」

「まぁ、いいや、戻ってこい」


 マシラは優しくテンゴの額に手を添えると、テンゴの四肢は次第に力が入らなくなったのか、徐々にふらつき、最終的には地に伏せる。


『えっと、何が何だか……』

「わりぃな、邪魔をした」


 マシラは『獣化』が解けて倒れているテンゴを担ぐと、一言リティシィに謝罪してグラウンドを後にする。


『いえ、大事がないのなら、問題ないのですが……』


 そしてテンゴとマシラ、オーギュストが去った後のグラウンドでは、何事だったのかという困惑の声が響くのだった。

















「たく、あそこまで深く成るな」

「すまん……」

「はぁ~、あたしの出番まではこのまま休んでな」

「そうさせてもらおう」


 そんな夫婦のやり取りが聞こえてくる。


「いちゃつくのは勝手だが、怪我をしているなら治療室に言ったらどうだ?」


 俺は貴賓室に一画にいる二人を見ながら、そう告げる。視線の先では長椅子で横になりながらマシラに膝枕をしてもらっているテンゴの姿があった。


「問題ないさ。これはどうこうして早く治る類ではないからね」

「そうだな、こうしてじっとして居る方がちょうどいい」


 そういうとテンゴは目を閉じて、マシラはその頭を撫で始める。


「バアル、無視しろ。ああなると、当分はあのままだ」


 無視した方が無難に終わるとアシラは良い、そのまま酒をお代わりして飲み始める。


「へぇ~いうじゃないか、アシラ」

「全くだ、お前が義娘にどんな甘え方をしているのかというとな――」

「ぶっ!?バカ!!やめろ!!!」


 テンゴの反応が気に障ったのか、テンゴとマシラが反撃に出る。


「うんうん~~アシラの甘えっぷりは私も聞いているよ~~」

「っっ、ちょっと待て!!そんなこと誰が言っている!?」

「いや~~結構ラジャでは有名だよ?」

「……うが~~~!!!」


 思わぬところで、アシラの恥部が広まっているらしく、アシラは頭を抱えて吠える。


「「うるせぇ」」

「あごっ!?」


 アシラの叫びにテンゴとマシラは傍にあるコップを投げて制する。


「バアル様」


 そんな外聞もないやり取りを見ているとひとりの騎士が近づいてくる。


「どうした?」

「来客です」

「??だれだ?」


 脳裏にカーシィム関連を思い浮かべるが、彼らを今更何を話すかと考えていると、騎士が名前を告げる。


「ヒエン・リョウマ、並びにオルド・バーフールです」

「ああ」


 両名の名前を聞いて納得がいった。


「そうだな……アギラに頼んで一室用意させろ。そしてそこで話を聞くと伝えてくれ」

「わかりました」


 こちらの要件を終えると、騎士は離れていく。


「なに、また厄介ごと?」

「いや、今回はその逆だな」

「そ、なら早く帰ってきなさい」

「わかったよ」


 その後、数分もしないで応接室を抑えることが出来たので、護衛と共にそちらに移動して二人と面談することになった。

















「ご足労おかけして、申し訳ありません」

「相変わらず礼儀正しいな。今回のことはこちらから頼んだことだから気楽にしてもいいのだがな」

「いえ、雇用の関係はしっかりと保つべきでしょう」


 応接間に入るとヒエンが立ち上がり、こちらに頭を下げながら謝罪の言葉を告げる。


「えっと、久しぶり、です」

「ああ。学園ではお前の姿を見ていなかったが、こんなところにいるとは驚いたぞ」


 オルドは礼儀作法に慣れていないのか、ぎこちない礼をしてくる。


「えっと、まぁ、はい。俺は中等部には上がらず、冒険者としての活動を始めた、ましたから」

「そうか、それがお前の判断なら俺がとやかく言う部分はない」


 一通りの話をすると、俺が座ると、二人も座る。


「さて、呼んだのはあの依頼の件だな?」

「はい。数日前にバアル様から護衛依頼を持ちかけられまして、その返答に来ました」

「そうか。その前に聞くが、オルドはお前の仲間ということでいいのか?」


 俺の視線がオルドへと向く。なにせオルドがこの場にいる理由に心当たりがなかったからだ。


「いえ、違います」

「違う?なら、今ここにいるのはなぜだ?」

「この者も依頼に関係あるのです」

「……聞こう」

「はい、実は――」


 その後、話で分かったのだが、リョウマはギルドに所属しており、その縁でオルドと面識がある。そして数日でわかったのだが、どうやらオルドはこの大会の後、グロウス王国に一度帰るという。


「それで、もしよろしければこの者も同伴させたいと思いまして」

「なるほど。そういう話なら、リョウマとは別に新たに雇おう」

「ありがとうございます」

「ありがとう、ございます」


 本戦出場者となれば、その実力は保障されている。ならば雇うことに異論はない。


「それで、報酬の話に、入る前に」

「はい、できれば事の経緯をご説明いただけると助かります」

「いいだろう」


 そこで俺は説明する。新たに雇う部下であるヴァンにはスラム街に多くの子供たちの家族がいること。そしてその数は30名にも上り、今後のこと・・・・・を考えると、少しでも腕利きを雇っておきたいということを説明する。


「ゼブルス家の騎士では事足りないと?」

「いや、足りる予定ではあるが、襲撃の騒ぎがあるからな、万全を期すためには少しでも戦力は多い方がいい」

「……なるほど」


 ヒエンはこちらの言葉足らずな説明を聞くが、なにか事情があるのを察してか、踏み入ってこない。


「依頼内容はハルジャールからゼウラストへの護衛依頼ということでお間違いないですか?」

「その通りだ」

「私の方は構いません。オルド、君はどうする?」

「こっちも問題ない、です」


 二人から了承を経た。


「さて、それではこれからの予定についてと報酬の話に入ろう―――」


 それからいつ出発するか、そして食料の有無、装備、馬車についてを話して、今回の報酬を提示する。その額を聞いて二人とも問題ないと返答して、この二人、正確には二組を護衛として雇うのだった。

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