第490話 最終日一回戦目
コロッセオに訪れると、今回は別に何かをする必要もないため、そのまま貴賓席にて大人しくする。
『……はぁ~~ついにやってきてしまいました~~、大会最終日が~』
そして貴賓席の席に座っていると、最初の試合時間となる。だが、その際にステージに出てきたリティシィは、全くやる気を感じさせない声を出していた。
「うんうん、気持ちはわかるよ~~」
また、そんなリティシィを見て、レオネが同意の声を上げていた。
『ですが、これでは出場者やわざわざ見に来てくれた皆さんに失礼ですね!!ふぅ!!さて、気を取り直しまして。今日は最終日、出場者は全員がベスト4となっております。さて、この中から誰が優勝するのか!!!』
ワァアアアアアアアア
気を取り直したリティシィの声で会場が熱を持ち始める。
『それでは入場していただきましょう!!本日の初戦“破壊剛腕”テンゴ選手、そして“黒手遊戯”オーギュスト選手!!!!』
リティシィの声と観客の歓声の中、二人はグラウンドに姿を現した。
二人ともは一回戦から、装備が全く変わっておらず、テンゴとオーギュストはふてぶてしく好戦的な笑みを浮かべていた。
「はは、親父があそこまで昂っているのは数年ぶりに見たな」
「だな、あたしとテンゴが全力でぶつかっても壊れない奴なんてそうそういないからな」
アシラとマシラはテンゴの表情を見て、何やら感心していた。
「なら、勝ちはテンゴか?」
「いや」
「わからん」
俺の何の気なしの問いかけに二人とも首を振って答える。
「テンゴの方が、強そうには見える。だがオーギュスト、あいつは不穏すぎる」
マシラはテンゴの前で不適に笑っているオーギュストを見て、眉を顰める。
『それでは~~ルーレットスタート!!』
全員がテンゴとオーギュストに注目していると、リティシィの実況がひと段落して、ステージを決めるルーレットに入る。
「そういえば、今回は賭けたのか?」
俺はふと気になってセレナを見て、聞いてみる。
「いえ、皆さんの様子から、勝率が高くはないみたいですし、今回はしていません」
「ふぅん、ならあたしの時は賭けといたほうがいいぜ」
「えっと……聞きにくいですが、勝率は?」
「あたしの不調、そしてドイトリの奇策が無ければ確実に勝てるな」
マシラの言葉にセレナの目に金のマークが浮かんだ錯覚を見た。
「再三に言うが、賭け事は」
「はい、今日が終われば、もうするつもりはないので問題ないですよ」
「……はぁ」
賭けにどっぷりはまり、金の魅力に取りつかれていることにセレナは気づいてる様子がなかった。
『決まりました!!今回のステージは『砂場』となりました。ただ、すでに一度見たステージなので正直、違うステージの方が個人的には嬉しかったのですが……』
リティシィの残念そうな言葉とは裏腹にステージが砂漠のように変化する。
そしてそれを確認するとテンゴとオーギュストは早速とばかりに登壇していく。
『それでは~~~試合、開始!!!』
ワァアアアアアアアアアアアア
ステージのカウントダウンに合わせてリティシィの開始の宣言がなされた。
盛大な歓声が響く中、カウントダウンが終わるのだが、二人は動かなかった。
「なんだ、あのウネウネは出さんのか」
「ご冗談、アレを出したら、それまでであろう?」
テンゴはいつでも戦える構えを取るが、場を動くことは無い。そしてそれはオーギュストも同じ。後ろで腕を組み、姿勢を伸ばして佇んでいるだけ。
「……なんだ、察しがついているのか」
「無論である。それゆえに」
オーギュストは腕を前に躱し、徒手の構えを取る。
『な、なんと!オーギュスト選手、今回は前回のように触手を使っての攻撃ではなく、相手の土俵に上がるようです』
リティシィだけではなく、観客もオーギュストの行動に驚きを示す。
「ふむ、ならば、遠慮はない!!」
ドン!!
テンゴは大きく後ろに砂ぼこりを撒き、オーギュストへと突進していく。
「ふっ」
「は!!」
そしてそれぞれの攻撃が届くタイミングで行動を始める。
テンゴは掌底をオーギュストへと繰り出し、オーギュストはテンゴの前腕に手を添えて攻撃を逸らそうとする。
グッ
「ふっ」
トンっ
だが、オーギュストは腕をほんの少しでも逸らすことはできず、観念して、そのまま腕に力を入れて、反発する様に横に距離を取る。
「……やはり、力も体重さもありすぎるであるな」
「なら、どうする?このままというわけにはいかないだろう?」
「簡単である。力が足りないなら、
その言葉と共にオーギュストは両腕を軽く開く。すると、服の隙間という隙間から黒い液体状のゾルが這い出てオーギュストの肌に張り付き始める。
そして、次第に黒いゾルは厚くなっていき、最終的には――
『あの姿は!!オーギュスト選手の初戦で見せた、あの!!』
リティシィの言葉が終わると同時にオーギュストは変化を終える。
変化した後なのだが、真っ黒な人型の姿に、マグマの様な赤い角、そして触手の様な黒い尻尾を持っていた。ただ一回戦目とは違い、翼は今回は存在していなかった。また、それ以外の変化としては手の甲、そして肘当たりから黒い鋭利な刃物のような棘が飛び出ていた。
「待たせたのであるな」
テンゴはオーギュストの言葉に応えるように構えを取る。
「では、楽しもう―――」
そして今度はオーギュストの番とばかりに、テンゴへと近づき、激突する。
ゴッ!!
ゴッ!!
ドッ!!
ゴン!!
ザッ!!
パァン!!
『盛大なぶつかり合い!!いえ、この場合はドつき合いと言った方が正しいかもしれません!!』
レシェスの言う通り、オーギュストの姿が変わってからはドつき合いという表現が適していた。なにせ二人ともお互いの拳が届く範囲にいて、それぞれ拳、足、肘、膝、あとは片方のみだが尻尾を駆使して、何度も立ち位置を変えての素手喧嘩をしていた。
激しいぶつかり合いに寄り、テンゴはところどころ皮膚が切り裂かれ、オーギュストはほんの少しテンゴの攻撃が掠るだけで、その周辺が弾け飛ぶという重傷を負っていた。ただそれでも双方とも問題はない。テンゴの怪我は軽く、切り裂かれたと言っても、せいぜいが薄皮一枚や紙で指先を切った程度だった。またオーギュストは姿を異形に変えただけあり、即座に傷口から黒いゾルがあふれ出すと、そのまま削れた部分に張り付いて元通りになってしまう。
そしてそんな激しい、観客からすると見ごたえのある戦いの中、貴賓席では一つの言葉が聞こえてきた。
「……しかし、なんで、触手での攻撃をしなかったのかしら」
隣にいつクラリスが思わずと言った風に口を開き言葉に出す。
「確かにな」
俺もそれは疑問に感じていた。なにせ接近戦相手ならば、前回のように封殺してしまう戦法を取ることが出来るだろう。なのに、今回に限ってオーギュストは接近戦を選んでいた。
「その答えは簡単です」
「簡単だぜ」
俺達の疑問に背後にいるリンとテンゴの妻であるマシラが答える。
「なら、ご説明をお願いします」
「あいよ。バアル、クラリス、テンゴの能力は当たるだけでダメなんだよ」
「??なぜだ?衝撃の貫通と言っても、触手ぐらいなら問題ないだろう」
「あ」
俺は疑問を呈するとクラリスは何かに気付いた声を上げた。
「いや、それが答えなんだよ」
「……テンゴが触手に攻撃を与えれば、その衝撃は本体であるオーギュストまで届くのか?」
こちらの言葉にリンとマシラが頷く。
(それはもはや貫通とは言わない気もするが……)
「テンゴの前で体を大きくするのはむしろ悪手なんだよ。なにせどんなに固い場所に当てても確実にダメージが入り、そして重要器官に遠くても衝撃を与えることが出来てしまうからな」
オーギュストが触手の攻撃を仕掛けてしまえば、その瞬間、テンゴは触手自体に攻撃を仕掛けて、オーギュストにダメージを与えると言う。
「だから、あの姿になったのは大正解さね」
マシラはそういいオーギュストを称賛した。
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