第489話 襲撃の後

「―――で、以上となります。何かご不明な点はございますか?」


 最初の爆発により、ボロボロになったラウンジにて、軍の中でも階級が高そうな人物が目の前で説明を行う。その内容は今晩はホテル周辺にて軍が展開して守護するというものだった。


「ご苦労、では、あとのことは全面的に任せる」

「は!!」


 礼を言うと、軍人はホテル外へと出ていく。


「はぁ~~こんなに壊しおって、せっかくの高級酒が台無しじゃわい」


 そしてラウンジ内には、ゼブルス家の騎士たちと、先ほど襲撃者と戦っていた者達しかいなかった。


「物や建物の破壊は良いがどうでもいい。それよりもお前たちは怪我は?」

「ないぜ」

「ないな」

「ないである」

「そんなやわじゃないわい」


 四人に確かめるように聞くが、彼らはまるで何事もなかったように答える。


「さて、襲撃も終わったようなのでワガハイは帰るとするのである。ネス」

「チュ、はい」


 オーギュストはネスが持ってきてくれた帽子を被るとそのまま入り口へと向かって行く。


「今更だが、色々借りが出来たな」

「気にしないのでほしいである。では、失礼するのである」


 オーギュストは入り口まで着くとこちらに綺麗な一礼をしてから外へ出ていく。


「本当に悪魔なのでしょうか…………」

「ほんとよね」


 オーギュストの行動を見て、リンとクラリスが思わず疑問を浮かべる。


「それで、ドイトリはどうする?」

「……すまんが今晩だけお邪魔してもいいか?」

「ああ、元々部屋は取ってあるからな。それとダンテもどうする?」


 ドイトリが泊まると表明したのなら次はダンテに訊ねる。


「私は帰るよ。明日で酒場の契約が終わるから、その前に色々と挨拶する相手がいるからね」


 ダンテはそうとだけ言うと、自分の手荷物を持って、堂々と入り口から出ていく。


「さて、お前らはそれぞれの部屋に戻れ」

「バアルはどうすんだ?」

「俺はまだ確認することがあるからな、ドイトリは部屋に案内させるから少し待ってくれ」

「了解じゃ」


 ということでドイトリと護衛のリンとノエル、エナ、ティタ、以外は自室に戻す。


「それでわざわざ、儂だけを残した理由は何じゃ?」


 そして周囲に人影が無くなるとドイトリは神妙な表情で問いかけてくる。


「正直聞きたくはないが、確かめないわけにはいかなくてな」

「何がじゃ?」

「八百長は要るか?」


 ギッ


 拳を握った音が聞こえてくる。


「その言葉が戦士にとっての侮辱と知ったうえでか?」

「ああ、負けられない理由があるのは、現状お前だけだ。それもその大きさを考えればそうおかしい話ではない」


 テンゴとアシラは勝ち進んではいるが、正直勝ち進む必要は実のところない。そしてオーギュストだか――


(俺からすればむしろ負けてくれれば話が早いのだがな)


 オーギュストが優勝を狙う理由は俺と再戦のためのを確保することにある。それだけのために勝ち進んでいるのだから理由としては弱い。それを考えればドイトリに勝ってもらっても何も問題はないだろう。


「ふざけるな、と言いたいところじゃが、今回は事態が事態じゃ、できるのなら頼みたいが」

「なら」

「じゃが、要らん」


 こちらが必要だと思ったのだが、ドイトリ側から拒否してきた。


「勝たなければいけない理由があるのだろう?」

「ああ、だが、それでは戦士としての儂が死ぬ。そしてそれは予選で負けることと大差ない」


 ドイトリの目を見ると、そこには曲げない信念の様な物があった。


「なら俺は何も言わない」

「そうしてくれ」

「だが、話があるなら、いつでも乗ろう」

「ああ、助かる」


 その後、ノエルにドイトリを案内させたのちに、俺は自室に戻り今日が終わった。

















 ガラガラガラ


「呆れた」


 翌朝、最終戦のためにコロッセオに向かう道中、馬車の中でクラリスの呆れた声が響く。


「なぜ?」

「戦士という人種がわかっていないからよ」

「いや、わかるはずもないだろう」


 何を当たり前のことをという表情でクラリスに問い返すと額に手を当てて再び、呆れたという表情を作る。


「いい、今回の件で言うとバアルがしたことは完全に弱者への施しと取れるの。で、戦士は自ら勝ち取ることにこだわる矜持をもつ人たち、そんな人たちにお前が弱いから施してやると上から目線でそう言っているの。バアルならそう言われて受け取る?」

「時と場合によっては」


 本当に必要な物なら俺は受け取ることがあるだろうと答えると、クラリスは一瞬虚を突かれた表情になり納得するの表情へと変わる。


「……そう、だから貴方は戦士ではないと言えるわね」

「なら、俺はなれそうもないな」


 成る気もないがと心の中で付け足して、コロッセオへの道中を見る。


(やはり、あそこまで大掛かりな襲撃となると、警戒が強まるな)


 大通りには数日前とは違い、数多くの兵士が点在していた。そしてその光景を見ていると反対側から体重が掛けられる。


「ふわぁ~~眠~~」

「いや、あの襲撃の中で呑気に寝ていた奴が何を言っている」


 昨晩、なんとレオネはあの襲撃の最中でも爆睡していたと報告が入っていた。そのことを聞いて、妙な納得感に見舞われたのは少し前のことだ。


「それとこれとは別だよ~~、あとさ~~」


 レオネが少し離れると、後続の馬車が見える窓際による。


「どうした?」

「う~~ん、たぶんズル・・は必要ないよ」


 後続の馬車にはドイトリのほかにテンゴとマシラとアシラが乗っている。そのこととレオネの言葉を合わせれば意図する意味は自ずと分かる。


 だが、同時に疑問もわく。


「なぜ、そう思う?」

だよ~。それと最後はバアルが何かすれば絶対だね~~」


 レオネの言葉に眉を顰める。


「どういう意味だ?」

「??そのまんまだけど?」


 レオネは不思議そうに首を傾げると、再び横にきて寄りかかってくる。


(……そういえばマシラも、レオネに棍を選ばせていたな)


 その後は、アルヴァスの武器屋でのやり取りを思い出しながら、レオネの行動について考え込むことになる。


(レオネの能力はエナと類似したモノなのか?)


 そんな考えを持った十数分後、馬車はコロッセオへと着き、俺達は馬車を降りた。

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