第488話 ラウンジディフェンス
「やはり便利であるな」
「シャ!!」
ボォン
次の瞬間、オーギュストは難なく襲い掛かってくる襲撃者を拘束し、刺殺するが、また次の瞬間には自爆される。
そして爆風が再び、ホテルを傷つけると思ったのだが、建物は一切が傷つくことはなく、いくつかの調度品が壊れた程度だった。また、リンの風のおかげでこちらには一切の衝撃はなかった。
「では、ここは任せて俺らは避難するとしよう」
「少し待ってほしいのである」
直に警備兵の増援や殿下たちやゼブルス家の騎士が駆けつけるだろうと判断して、場を離れようとするが、オーギュストが引き留める。
「なんだ?」
「奴らの目的は出場者である。なので」
「三人をこの場に留めて置き、襲撃者を集めると?」
「話が早くて助か――」
ボォン!!
オーギュストの言葉が爆発の音で途切れる。
「……鬱陶しいである」
オーギュストが腕を襲撃者たちに掲げると、袖から多数の触手が伸びて、
「す、すごい」
「感心するのは良いであるが、手早く救援を呼んでくるである」
「え、ですが、全員を倒したじゃないですか」
「……はぁ、この敵の厄介なところであるな」
オーギュストが入り口を見ながらそうつぶやくが、警備兵は何を言っているのかわからないのか、首を傾げる。
そして次の瞬間――
ザン!!
「……え?」
オーギュストが会話していた警備兵の首が飛ぶ。その正体は警備兵の後ろにいる
「な!?」
「はぁ」
ボォン!!
オーギュストはため息を吐きながら、触手で襲撃者を撃退するが、例に漏れず次の瞬間には自爆する。
「な、なんで助けてくれなかったんだよ!!」
生き残った方の警備兵がオーギュストに詰め寄り、糾弾し始める。
「何を言っているのである?ワガハイが守るのはバアルとその縁者のみである。彼らを守るための騎士や警備兵をわざわざ守る必要はないのである」
「っってめぇ!」
「吠えるのは構わないのであるが、ワガハイだけを見ていていいのであるか?」
オーギュストの視線は警備兵の後ろに向く。
「っっ、ぐ、くそっ!!」
ギィン
その視線の意味に気付いたのか、警備兵はすぐさま背後を振りむく。素直に言葉に従ったのが功を奏したのか、突進してくる襲撃者の凶刃を身に受ける前で受け止めることが出来ていた。
だが――
フッ
「しまっ――」
ボォン
襲撃者が薄く笑うと次の瞬間には再び自爆してしまう。
「ガァアア、アアアアアア!!!」
警備兵は爆発の影響をもろに受けたのか、床に転がりながら顔面を抑える。だが、傷は浅いものではなく、体中から傷という傷から出血しており、これ以上は戦闘できないことを表していた。
そして襲撃はそれでは終わらず、入り口から次々に襲撃者が入り込んでくる。
「さて、バアル、この対応に何か言いたいことでもあるであるか?」
オーギュストが片手間に触手で対応していると、こちらに振り向き問いかけてくる。
「言いたくはないが……無い」
「ふむ、よかった。守護を仕事にしている者をわざわざ守る気はないのであるからな、む?」
オーギュストがこちらと話をしていると一人の襲撃者が触手を掻い潜り、オーギュストに肉薄する。
「どっっせい!!」
だが、次の瞬間、ドイトリが前に出ると、腰の袋から身の丈以上の槌を取り出して襲撃者を吹き飛ばす。そして襲撃者が外まで吹き飛ばされるとそのまま爆発して亡くなる。
「オーギュストとやら、儂も加勢するぞ」
「ふむ、この場は謝辞を述べておくである」
「問題ない。というよりも、お主がやらなければ儂がやっておったという、話!!」
再び、触手を掻い潜って襲い掛かってくる襲撃者を槌で叩き潰すドイトリ。その後、恒例のように自爆するが、ドイトリはそれを難なく身に受ける。だがドワーフの頑強さの前には爆発など意味はないとばかりに無傷だった。
「さて、話の続きであるが、テンゴとマシラ夫妻、できればこの場に残ってほしいである」
「もちろんだ。それに俺も加わろう」
「だね」
オーギュストの問いかけにテンゴとマシラが答える。
「おう、俺もやるぜ。親父たちが狙われているのに、参加しねぇわけにはいかねぇからな」
テンゴ家族はそれぞれが『獣化』しながら、オーギュストに並び立つ。
コンコン
「『開口』」
そしてエナが俺の前に立つと、マスクを指で叩く。
「どうする?」
「エナとティタは応戦しろ。そしてノエルはアルベールの安否の確認、問題がありそうならそちらに援護へと回れ。リンは、このままクラリス、ロザミアの守衛を続けろ」
「あいよ」
「了解」
「はい」
「かしこまりました」
エナとティタはテンゴ達に並び立ち、そしてノエルは糸を伸ばし、アルベールの部屋まで伸ばし始める。リンはこのまま爆風の影響がない場所を維持してもらい、その中でクラリスとロザミアを守ってもらう。
「お、俺はどうすればいい」
「リンの守りが突破された時はヴァンが対応しろ」
「お、おう」
ヴァンは対応に慣れていないのか少々反応が遅れていた。
「バアル様、お逃げください」
するといつの間にか近づいてきたボロボロの支配人が俺に逃げろと促してきた。
「職務に忠実だな」
「今はそのような事よりも、退避を。今ならばあの者達がおりますので」
「
俺の視線は獣人達に向く。さすがの来賓を放っておいての退避はできなかった。
「それよりも増援は?」
「本来なら、すぐさま集結する予定なのですが―――」
ボォン!!
支配人の言葉に合わせて、違う場所から爆発音が聞こえてくる。
「足止めされているな」
「はい……ですが、各所に散らばされてあるのですぐさま要人の元に集結しているはずです」
ホテル内に散っている警備は襲撃があった際は即座に近くの要人の場所まで急行する予定になっているという。
「ノエル」
「アルベール様は無事です。その言葉通り多くの騎士や警備兵が集まっている模様」
「あの爆発は?」
「騎士たちがこちらに援護しようと移動してきたのを襲撃者が食い止めた形となっております」
ボォン!!!
その後、あちこちから爆発の音が聞こえてきており、護衛達の集結が遅れるのは予想がついた。
「支配人、軍が異常を察知してここに来るとなると、どれくらいかかる?」
「はい、およそ四半刻以内で到着する予定かと」
「少し遅いな」
「申し訳ありません。軍は駐屯地にあり、今は大通りは人でにぎわっておりますので」
これが早いのか遅いのかは判断が付きにくかった。
「ノエル、糸でそれぞれの要人の確認、問題がありそうなら即座に教えろ」
「はい」
「それで、どうするのバアル?」
ノエルに指示を出し終えると、リンの範囲内にいるためかソファにて寛いでいるクラリスが問いかけてくる。
「豪胆だな」
「それはそっちもでしょ。それよりも、この後はどうするの?加勢でもする?」
「いや、とりあえずはこのままだ」
クラリスと会話をしながら、自爆しては
(本体でも叩ければ別なのだろうがな)
以前オーギュスト達との話から、『黒き陽』は無関係な人たちを操り襲撃していると判明した。そのため、いくらこの襲撃者たちを殺しても、本体が無事ならばまず終わりが見えないのが現状だろう。
「何もせずに、彼らが消耗していくのを見ておくの?」
「
「は、はい。たとえ人の足で移動だとしましても、それ以内には確実にやって来れるはずです」
「ということで、救援が来るまでは持ちこたえることを優先するだけでいい」
さすがの『黒き陽』も軍の増援が来れば、テンゴ達の損耗は見込めない。ならば引くのが手っ取り早いだろう。
「本当に加勢しなくていいのかい?」
「ああ、何より見てみろ」
ロザミアがクラリスの隣で聞いてくるので、視線を答えてやる。
視線の先ではオーギュストの触手に寄り、弱者とそれなりにできる襲撃者が選別される。そして選別された襲撃者は各々近場にいる四人に近づいていくが、それぞれが鎧袖一触で敵を弾き飛ばし、自爆させる。ごくたまに技量を持つ個体がおり、四人にひっ迫して、自爆もしくは攻撃を行う。だがさすがに本戦でここまで勝ち抜いただけあり、オーギュストは被膜で、テンゴとマシラは『獣化』で、そしてドイトリはどこからか取り出した堅牢な盾と鎧で爆発を防いでいた。
(それにしても、考えられた襲撃だな)
俺の視線は四人に固定される。
(4人同時に襲うことで首謀者を隠している。さらには攻撃手段が周囲を巻き込み、堅牢な者ほど怪我をしないようになっている)
襲撃が全員をまとめて行われるなら、ドイトリに一番負担を無いようにしなくてはいけない。それで察せられることもありそうだが、それは相性という説明が出来てしまう。
「ぉら!!」
「ふっ!」
「シャ!!」
そして四人に劣らず、エナ、ティタ、アシラも奮闘して、できるだけ四人に襲撃者を近づけさせないように奮闘していた。
「たしかに、これなら必要なさそうだね」
「ああ、あとは援軍さえくれば、今回の襲撃は凌いだも同然だろう」
ロザミアも戦闘の光景をみて、問題ないと判断したのか気を抜き始める。
その後、尽きることのない襲撃が行われるのだが、数分後にはホテル内に散っていた騎士が集結しだし、そして15分後には軍が到着して、今回の襲撃は終わりを告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます