第477話 五日目三回戦目

「バアル様、お届け物が来ておりますがいかがいたしましょう?」


 アシラが小さくなりながら大人しくしていると、騎士の一人が近づいて来てくる。


「誰からだ?」

「差出人はボゴロと者で中身は書類だそうです」

「今、あるのか?」

「はい」


 こちらの問いにさらに別の騎士が出てきて、書類を渡してくる。


(……どうやら、頼んでいた物は調べ終わったようだな)


 俺は封筒の中を確かめると、最期の交換条件に出したものだと確認できた。


「兄さん、それは?」

「ん?いやなに、頼んでいた物が手に入っただけだ」


 アルベールになら説明してもよかったのだが、場所が場所なだけに今ははぐらかす。


「…………そうですか」


 アルベールは何やら落ち込んだ表情をするので頭を撫でながら告げる。


「安心しろ、あとでなら話してやる」

「……わかりました」


 こちらの言葉でほんの少しだけ気を持ち直したものの本格的に機嫌が直ることは無かった。













 そして各々が気ままに時間を潰してくと日がやや傾きかけてた時刻となるとステージにリティシィが上がるのだが。


『さてさて、おまたせしました~~第三回戦目の時間となりました~~』


 リティシイの声にテンションなどはない。どうやらひとつ前のつまらなさに影響されいているらしい。


「なぁ」

「……もう勘弁してくれ」

「……くく」


 エナがアシラをからかうと、アシラは何も言えないのか、項垂れる。そしてその様子が面白かったのか、ティタの微かな笑い声が聞こえてきた。


『っと、ダメですね、少し疲れているのか、少し気分が落ちていました』

 おおおおぉ!!


 リティシイは舌を出して可愛いアピールをする。おそらくは少しでも場を持ち直すためのノリなのだろうが、コロッセオ内には野郎が大半なため、それだけで場が盛り上がっる。


『ではでは~~恒例通り選手の紹介から行きますよ~~~!!!“剛武”ドイトリ選手と“空突”リフィネ選手!!!!』

 ワァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 気を取り直したリティシイと観客の声が響くと、グラウンドに現れる二つの影があった。


 一人は特徴的な日本のランスに、黒い竜騎士の様な鎧をしているリフィネ。格好に関してはどうやら四日目同様らしく、目に見える違いはなかった。


 そしてもう一人だが、ドイトリであろう・・・・人物だった


『あのぅ、ドイトリ選手、一応観客の皆さんに顔を見せ貰えますか?』


 なぜ、リティシイがそんなことを言ったのかというと、ドイトリの格好・・が理由だった。


「ふむ、仕方ないのぅ」


 ドイトリは外套のフードを上げて顔を見せる。フードの中は相も変わらず髭面のドワーフなのだが、問題は装備だった。現在のドイトリは茶色のボロボロの外套に全身を包んでおり、フードを外さなければ誰かもわからない状態だった。また武装関係も背中に背負っている長い包みを除いて、完全に外套で隠されているため情報がほとんど拾えなかった。


『なにやらいろいろと隠し持っていそうですね~~~それでは双方ともステージへとどうぞ』


 リティシイの言葉で二人とも会話することなくステージに上がる。そして二人が持ち場に着くとカウントダウンが始まる。


『さて、ステージは『沼地』となっております。空を飛ぶリフィネ選手が有利そうにも見えますが、ドイトリ選手も何やら隠し持っている様子、双方には是非健闘してほしい所です。それでは~~~始め!!』

 ワァアアアアアアアアアアアア!!

(お手並み拝見といこう)


 リティシイの実況と沸き上がる歓声を聞き、俺はドイトリがどのように準備してきたかを楽しみにしていた。













 ゴォォオオ!!!


 まず最初に動いたのは、組み合わせを考えれば当然と言えるリフィネだった。両手にあるランスを上に向けるとすぐに空へ飛びあがる。


「そうじゃな、猛禽は飛ばねばな」


 チャプ


 空を飛んだリフィネとは反対にドイトリは跪き、膝上まで沼に着ける。


「『泥鎧』」


『おおっと!!双方とも準備を整えていく!!リフィネ選手は空を飛び、ドイトリ選手は泥を鎧のように纏い始めた!!』


 リフィネの実況でもわかるように、ドイトリが膝をつけると泥は外套の上を登っていく、さながら時間が巻き戻る様に。そして大量の泥が集まると、ドイトリを中心に泥の小山ができ、さながら自然の装甲を纏った状態となった。


「不細工な格好だな」

「なんとでもいえ、ふん」


 泥のだるまと言える状態になったドイトリは背負っている長い包みを取り払う。


「本当は使いたくない武器種じゃが、勝ちに行くには仕方のない」

『え、ええぇ!!ドイトリ選手が取り出したのは何と!!ドワーフは弓を嫌うと聞いていたのですが…………』


 ドイトリが取り出したのは自身よりも少しだけ長く、太い鉄弓だった。また弦も金属製なのか妙な光沢を放っていた。


「確かに、儂らは派手にぶつかり合うものを好む。正直、今回でなかったら、即座に弓なんかを捨てているじゃろうな。だが」


 ギ、ギ、ギ、ギ


 ドイトリが弓を引くと、鉄弓は鈍い音を立てながら次第にしなる。


『え、あの、ドイトリ選手?矢を番えていませんか?』

「そんなことはわかっておるわい、こうするんじゃよ」


 リティシイの疑問に答えるようにドイトリは動く。泥の鎧の一部が触手のように伸び、そこから硬質化した石の矢が取り出された。


「しっ!」

 ボゥ


 ドイトリの放った矢は通常の矢では考えられないほどの速さで飛び、リフィネへと向かって行った。


「ふっ!」


 だがリフィネもただでやられるわけもなく、飛んでくる矢を躱す。ただ、矢が速かったのか避けた先では少しだけ体勢を崩していた。


「まさか、これで簡単に倒せると思っている?」

「それこそまさかじゃ、だが鳥をいるには弓は定石じゃろう?」


 ギギギギ


 再びドイトリが剛力で鉄弓を引くのだが。


「少し舐め過ぎじゃない」

「ならどうする?」


 ドイトリの返答代わりにリフィネは高速で旋回してドイトリへ接近していく、その際に狙いを絞らせないようにやや不規則に近づいていくことは忘れていない。


「こちらが矢を放つ前に仕留めようというところか、じゃがな!!」


 ドイトリの言葉に言葉に呼応する様に泥の小山が動き、いくつもの腕を作り出す。


「っっ」

「掴まれたらどうなるんじゃろうな!!」


 ドイトリは泥の腕を伸ばすとリフィネは急いで再び旋回をし、距離を取る。


「しつこい!」

「泥の腕ばかりに集中してよいのか?」

「っ!?」


 ビュン!!


 リフィネが回避に集中したことにより、注意がそれた瞬間にドイトリは矢を放つ。


 矢は高速で飛翔し、そのままリフィネに吸い込まれるように、接近し―――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る