第476話 情けない二回戦目

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


『勝負が決まりました!!勝者は“破壊剛腕”テンゴ選手!!』


 観客の歓声とリティシィの実況を聞きながら、ステージにて咆哮を上げているテンゴを見る。


「……あれが、テンゴの全力・・か」


 ステージの上にいるテンゴの姿を見据える。


 テンゴは黒い体毛を持ち、口の端から鋭い牙を見せるゴリラの姿になっていた。それも身長は3メートルほどまで大きくなっており、握りこぶしだけで成人の胴と同じ大きさになるほど、肩から先が発達していた。


(一見すると普通のゴリラだが、体に見合う腕力を持ち、貫通能力を持つとなると、確かに厄介だな)


 あの姿と能力を考えると、下手な部隊など一瞬でやられてしまうだろう。


「どうだ?うちの旦那は強そうだろう?」

「ああ」


 素直に返答するとマシラは鼻高々と言った表情をする。


「ただ、いいのか?」

「何がだ?」


 俺はステージの状況を見ながら指をさす。その先に広がる光景だが――


「…………」

「意外にモテるようだな」


 元の姿に戻ったテンゴがグラウンドから退室しようとするが、その際にレシェスに付きまとわれていた。そしてその様子にテンゴは悪い気はしていないことが表情から見て取れる。


「………………あとでお仕置きが必要だな」


 その光景をみて、マシラは不機嫌な表情を作る。そして出てきた言葉は怒りを孕んでいた。


(さすがに惚れたとまではいかないが、気に入られたというところだろう。まぁ、それを知ったからと言ってマシラが納得するとは思えないが)


 ちなみにこの後貴賓席に戻ってきたテンゴは、マシラの試合が始めるまでマシラを宥めることになった。















『さて、皆さん、本日二回戦目の時刻となりました!!皆さん空腹だからっていなくなろうとしている人なんていませんよね?』


 昼食が終わり昼が少し過ぎた時刻、リティシィが会場に問いかけると、苦笑している者がちらほらと見える。


『では、選手の入場です!!“黒手遊戯”オーギュスト選手対“青鎧”アシラ選手』


 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 二人がグラウンドに入場すると会場が沸き立つ。


「なぁ、テンゴ」

「ああ」


 マシラとテンゴの二人はグラウンドに入ってきたアシラを見て、何やら眉を顰める。


(何かあるのか?)


 俺はアシラとオーギュストを観察するが、二人とも二回戦と何も変わらない様相で入場しており、何かあるとは思えなかった。


「ありゃりゃ?」

「あのバカ」

「…………はぁ」


 それどころか、レオネ、エナ、ティタすらもなぜかアシラを見て、落胆や呆れなどの反応を見せる。


「リン、何かわかるか?」

「いえ、詳しくはわかりません。ですが……今のアシラはどことなく危うく感じます」

「危うく?」


 リンの答えでアシラを見てみるが、どう危ういのかわからなかった。


 そして二人がステージに乗り、カウントダウンが始まる。


『それでは、双方位置に着きまして~~~~試合、開始!!』


 リティシィがタイミングを合わせて、開始の合図を行う。


 そして双方とも動き出すのだが――――――



















「アシラ、あの戦いはなんだ?」

「…………」


 試合開始から10分もしないうちにアシラは貴賓席に戻ってきていた。そしてアシラはマシラの前の床に正座していた。


「アシラ、答えろ。なぜあんな無様な負け方をした?」

「…………すまねぇ」

「負けたことには文句はない。けどあの負け方は、少々いただけねぇな」


 マシラは額に怒りの筋を滲ませながらアシラに問いかける。


(…………さっきの負けっぷり・・・・・を見たらこうもなるか)


 俺は先ほどの試合を思い出すが、俺や二人だけではなく、見た者ほとんどが呆れるほど酷い試合だった。


「お前な、いきなり本能全開にしての『獣化』は開花したての子供がやるミスだぞ」

「うぐっ」


 テンゴの呆れた声にアシラは呻き声を出す。


 それもそのはず、アシラは何を思ったのか、開始早々から全力で本能を全開にしてオーギュストに襲い掛かっていた。もちろん襲い掛かること自体は悪いことじゃない、問題は理性をまともに働かせずに突っ込んだことだ。


「確かに、ヒエンとの戦いで、お前は本能を全開にできるようになっている。だが、言い換えればお前は本能での攻撃に関しては覚えたての子供と変わらないんだよ」

「そうだな、本能を動かすのに集中し、理性をわざと抑えていたからああなってしまったな」

「ぐっ」


 アシラは苦しい声を上げるが、二人の言う通りだった。


 なにせ突っ込んだのはいいものの、理性がほとんどない状態だったのか、オーギュストの攻撃の意図を把握し損ねていた。


 オーギュストは突進してくるアシラを見ると、触手を伸ばして迎撃しようとする。もし理性があれば何かを察していたのだろうが、この時のアシラはそのまま触手の威力が大したことがないと思ってか、そのまま突進し続けた。


 だが、それがいけなかった。オーギュストの触手はアシラの体にまとわりつき始めた。もちろんアシラも力に任せて触手を引きちぎり、再び進もうとするが、オーギュストは大量の触手を生み出してアシラを中心に触手で繭を作りアシラを完全に閉じ込めてしまった。中で何が起こっているかはわからなかったが、その後、オーギュストは触手の一部を変化させて、繭を炎で包んでしまう。となれば繭の中で身動き取れないアシラは何もできず、5分後ほどに窒息死したのか、光の膜から吐き出された。


(5分ほどは酸素入らずで動けるのはすごいが、それに至るまでの過程がな)


『人であればもう少し楽しめたのであろうが……興ざめである』


 試合が終了すると、オーギュストは茫然としているアシラを見下しながらそういい、退場していた。その様子にさすがにリティシィも無難な感想しかできない状態になっており、観客が沸くことは無かったほどで、試合前のみんなの杞憂が的中した形だった。


「アシラ、帰ったら一から鍛え直しだ」

「……うす」


 巨体なはずなのに、この場にいる誰よりも小さくなったアシラに同情しながらも、今回は擁護できなかった。

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