第475話 五日目一回戦目決着

 オォォオオオオオオオオオオ!!!


 テンゴが猿叫を行うと、テンゴの足元から周辺に広がる様に波紋が起きる。


 ギロッ

「っ!?」


 テンゴがレシェスを一睨みすると、レシェスは即座に後ろに飛び距離を取る。


 そしてそれは正解だった。


 グッ、パァン


『テンゴ選手、今までよりも速い速度でレシェス戦士へと接近していく!!」


 テンゴの足元が弾けると、後ろに軽く飛んでいるレシェスの眼前まで一瞬で移動したテンゴが現れる。


「くっ」

「おせぇ」


 双方とも飛んでいる最中だと言うのに、テンゴの攻撃が繰り出される。


 パァン


 レシェスはテンゴの掌底に赤褐色の剣で受けるのだが――


 ギィィ

「っっ!!!」


 金属音とは違う、何か固いものが曲がる様な音が聞こえると、レシェスはまるで軽いボールのように吹き飛ばされる。


「ふむ、少し切れて火傷したか」

「げほっげほっ、ふっ」


 レシェスは勢いが収まると、横になりながら息を吐いて、立ち上がる。


『っっ、レシェス選手の腕が……』


 レシェスの左腕、それも橈骨の部分に当たるところが不自然に盛り上がり、肉の中で折れているのが誰の目から見てもわかった。それに対してテンゴは掌にほんの少しの切り傷を負って、少しだけ焼けた跡がついているのみだった。


「まだやるか?」

「はぁはぁ、無論!!」


 バギッ


 レシェスは無事な右手で一本の鞘を掴みそれを腕に当てる。


「『鞘添木』」


 どうやら鞘も魔具だったらしく、使用すると、左肩から左手首まで張り付く籠手となった。


「動かせるのか?」

「ああ」


 レシェスは証明する様に、左手・・で剣を握り、軽く何度か降る。


「ほぅ、便利だな」

「反動もあるがな……追撃しなくていいのか?」

「いや、戦意があるなら少しばかり様子を見ただけだ」


 テンゴが、そういうとレシェスは気に障ったような表情を作る。


「侮っているのか?」

「まさか、俺はこの祭りを楽しみたいだけだ」


 テンゴは早々に終わらせるのは面白くないと言っている。


「なるほど、女を長く殴っていたいとは凝った趣味だな」

「おい、まて、それは違う」


 レシェスの良い様に、テンゴは慌てて否定する。さすがのその評価は受け入れられなかった様子。


「まぁいい、どちらにしろ、人型をしているが今のお前は強大な魔獣と思っていたほうが良さそうだ」

「……間違ってはいない」

「なら『刀剣融合・火風土雷水光』」


 レシェスは意を決した表情をすると、残った最後の二本を融合してしまう。


『でたぁ!!!レシェス選手の真骨頂!!!六本の魔剣を重ね合わせた姿!!!』


 リティシィはそれをみると興奮気味に実況する。


「おお、だが振れるのか?」


 テンゴがそう問いかけるのも無理はない。なにせ、現在の剣の姿だが、形状はファルクスに似ているのだが、その規模が異常だった、刀身だけで2メートルほど、そして柄は50センチほど、そして柄の先にはダガーの様な物が存在していた。


「なら試してみるとしよう、はぁ!!」

「!?」


 レシェスが剣を振り被り、距離があるにもかかわらず振り下ろす。


 その結果なのだが―――


『これです!レシェス選手の本領が発揮されました!!けがを負ったが何とかなるかもしれないですね!!!』


 ややレシェス寄りのコメントをリティシィが行うが、その光景を見れば誰しもが、似たようなことを思っただろう。なにせステージ(光の膜内)の端から端までを綺麗に二分したのだから。


「……さっきのでやられてくれれば私も早かったのだけど」

「さすがに啖呵を切った手前無様にはやられんよ」


 斬撃の範囲外に逃れたテンゴは体を起こしながら、そう告げる。


「「フッ―――」」


 そして同時に息を飲むと、それぞれが動き出した。














 それから二人とも動き出す。テンゴは先ほどの急加速でレシェスへと接近しようとする。それに対してレシェスは何度も剣を振り、ステージの端まで届き、数メートルの幅を持つ斬撃や剣を地面に叩きつけて起こすひび割れでテンゴを近づけさせない。


「しかし、意外だ」

「テンゴの速さか?」

「ああ、アレが出来るなら、もっと早くから出してていいはずだろう?」


 あの急速な加速が出来るのならば、最初から使っていればいいと思えた。そうすればレシェスがあの剣を生み出す前に簡単に蹴りをつけることが出来ただろう。


「いや、話はそう簡単じゃない。なによりそんなんじゃ詰まらねぇだろう?」

「……前半の言葉は理解できるが、後半はやや頷けん」


 マシラに返答すると、マシラは手を広げて、おどけるように言う。


「もし、あたしらが全力、というよりも試合開始直後、はい終了なんてなったら、観客も興ざめだし、何よりあたしらがつまらない」

「それは嬲りたいって言っているようにも聞こえるが?」

「まさか、あたしらは、自分のどの技術がどのくらい通用するのか、相手がどんな技術を用いるのか見るのが楽しいのさ。バアルだって観察していて楽しいものとかあるだろう?あたしらの場合はこれなだけさ」


 マシラは言うことは言い切ったとばかりに前を向く。


「しかし、その結果テンゴは劣勢になっているようだが」


 ホログラムを見てみると、そこには何度も放つ斬撃をよけて何とか近づこうとしているテンゴの姿があった。それは一見すると近づきたいのに近づけなく苦しんでいるようにも見える。


「あれぐらいじゃあ、テンゴはやられねぇよ。それに……あいつはあたしが・・・・見ている前では・・・・・・・めったに負けねぇよ」

「……ふふ」


 マシラが笑顔でホログラムを見ているが、発言が恥ずかしかったのか、少しだけ頬を赤らめていた。そしてその様子を見てクラリスが微かに笑う。


 そしてその後ステージに変化が起きる。















「…………こう、だな」


 パァン!!


 テンゴが呟くと、そのまま低い態勢でレシェスに向かって突進する。


「はぁ!!」


 当然、その行為を見たレシェスは剣を振り、斬撃で迎撃する。そして巨大な剣に見合った巨大な斬撃が飛んでいく。


「ふん!」


 テンゴは走りながら沼を叩くと―――


「無駄、え!?」


 叩かれた影響で生み出された泥の波を切り裂いて、斬撃がステージの端まで届くのだが、波が収まった後、テンゴの姿はなかった。


「どこ」

 クルクル

「上!?」


 レシェスは左右を見渡し、相手がどこにいるのかを確認していると頭上から微かに回転している音が聞こえて、そちらを見上げる。


『おぉ!!テンゴ選手、泥の波を生み出すとともに、斬撃の上を回転しながら飛び越えた!!』


 リティシィの言う通り、テンゴは沼を叩いた際に、泥の波を生み出すとともに反動で斬撃の上を飛び越えていた。


 そして泥の波に気を取られている隙に、レシェスまであと少しという距離にまで到達していた。


「なめ、!?」


 テンゴを見上げたレシェスはすぐに剣を振ろうとするが、それよりも早くテンゴが動いた。


『テンゴ選手、飛んだ際に泥を掴んでいたのか、空中で先制した!!』


 リティシィの実況通り、テンゴは空中で掴んでいた泥を投げてレシェスに牽制する。その際にレシェスに取って不利だったのが、剣が大きいことで小回りよく触れない事、そして泥は空中で飛散するのだが、その飛散した泥の粒でも十分な威力があったことだった。


 そのため、レシェスは剣を振る前に泥を避けることになり、横に転がり移動する。


 そしてその隙にテンゴはレシェスのすぐ近くに降り立ち、接近する。


「くそっ『属性解放・天』!!」


 レシェスは接近するテンゴを見て、振っての攻撃が遅いと判断すると、剣を地面に突き立てる。


「っっ、『――――」


 レシェスが剣を地面に突き立てると、レシェスの剣を中心に半径30メートルほどが白くひび割れると、空高くまで伸びる光の柱が生み出される。


 すぐ近くに居たテンゴは避ける術などなく、そのまま光の柱に飲み込まれるのだった。


『これは決まったか!!!レシェス選手の技は見たことないが、あの光に飲み込まれて無事だとは到底、!?』


 リティシィは実況しながら光が収まっていくのを見ると、光の中からある影が出てくるのが見える。


 フゥゥゥゥウウウウ


「これを食らって無事なら、私には勝ち目はないな」


 レシェスは、光の中から出てくる存在を見ると、そうつぶやく。


「はぁ!!」


 パァン!!


 だが、レシェスは闘志がまだあるのか、剣を振ろうとするが、その前に目の前にある影が動き、レシェスは胴体に大きな穴を開けられ、数秒後には光に粒となった。

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