第474話 テンゴの能力

「テンゴの能力は、振動の持続・・・・・か?」


 もしテンゴが泥の波を作った際に、その振動が波の中で持続しているとするならば、レシェスの剣が波に触れた際に振動が剣とぶつかり、金属音が聞こえたのも納得できる。


「おぉ」

「……その反応は当たりではないが遠からずってところか」


 こちらの回答にマシラではなく、レオネが反応する。だが、それは正解という反応ではなかった。


「じゃあ、なんだ?」

「ふっふ~~…………いい?」

「まぁ、いいんじゃないか。すでに対戦相手は理解しているようだからな」


 マシラはステージから視線を外さずにそう告げる。


「りょうか~~い。えっとね、テンゴおじさんの能力だけどそれはね」

「貫通する衝撃ですか?」

「せいか~い、ってアレ?」


 隣から聞こえた言葉にレオネが正解だと告げる。


「なぜわかった、アルベール」

「いえ、何度も模擬戦をしたことがあるので」


 声がした主は隣に座り、共に見ているアルベールだった。


「一度軽く打ってもらったことがありますが、その時に剣や体への衝撃の伝わり方で何となく」

「そうか、すごいな」


 俺は隣にいるアルベールの頭を撫でる。その際に一瞬嫌がるかと思ったが、案外素直に受け入れたため、問題ないと思いそのまま続ける。


「うんうん、アル君はいい目をしてるね~~」

「ちょ、ちょっと、止め――」


 レオネは俺の手に被せるように手を当ててくしゃくしゃに撫でる。


(それにしても、貫通か、おそらくは衝撃が分散しにくいことを言っているんだろうな)


 テンゴの能力を調査したわけではないので詳細は不明だが、アルベールの話では衝撃のベクトルを保つ作用があるのだろう。


「足で泥の波を作り出すとともに衝撃を中で維持、泥と思いそのまま突っ込めば痛い目を見るわけか」

「ああ、単純だろう?」


 アシラは何てこともない様に言うが、単純だからこそいくらでも応用が利く能力だった。


(テンゴの前ではいくら壁を用意しても意味が無い、か。重歩兵からしたら、天敵だな)


 防御面をいくら固めても、テンゴの前では無意味になる。


「だから軽装か……だが、いつ知った?」


 次に興味の方向は対戦相手のレシェスに向くことになる。なにせレシェスは今回の試合においては防御面を下げて、機動力を上げてきているそのことを考えればレシェスはある程度分かっていたということになる。


「そう、不思議なことは無いだろう」

「なぜだ、エナ?」

「オレやレオネ、それにマシラや獣人の実力者は相手の相性とかを戦う前から感じ取れる、準備が出来ていたとしてもなんら不思議じゃない」

「…………そういうものか?」


 俺の言葉に見回すと、エナ、ティタ、レオネ、アシラ、マシラ、そしてリンとヴァンまでも頷く。


 オォォオオオオオオオオオオオ!!!


 そんな事を思っていると、グラウンドの方向から大きな歓声が聞こえてくる。


(単純だからこそ応用が効くか、どう戦うのか興味あるな)


 俺も視線を移しステージを注視し始める。














「はぁ!!」

「ふん!!」


『レシェス選手、テンゴ選手へと攻撃を仕掛けるが、テンゴ選手、巨体に似合わない身軽さで避けていく!!』


 レシェスは沼地という足が取られやすい場所というのにも関わらず、テンゴの周りを一定距離をキープし続ける。それに対してテンゴは、まるで足元に出られない円がある様に、そこにとどまりながら戦闘を行っている。近づいてきたレシェスの攻撃をしっかりと防御や躱し、そして反撃を行い、アーツにより中距離、遠距離攻撃は沼を叩き、波を作り出して相殺する。そしてレシェスがほんの少しでも距離を取ろうとするとテンゴは大きな泥の波を作り出して、飲み込もうとする。


「このままでは、不利ですか」


 そしてまるで蝶のようにテンゴの周りを飛び回り、攻撃を仕掛けていたレシェスが小さくつぶやく。そして一つの行動に出る。


『おっと、レシェス選手が急速に距離を取り出し始めた』


「ふむ……ふん!」


 テンゴは、その様子を一応は観察し、問題がないと判断すると、大きく振りかぶり、沼を叩く。その結果、今までよりも大きな波を作り出して、レシェスを呑み込もうと迫る。


「『刀剣融合・火水土』『刀剣融合・風雷光』」


 シャン!!


 泥がレシェスを呑み込もうとすると、レシェスの声が聞こえてきて、次の瞬間、泥の波は今までで見たことがないほどの大きな斬撃によって切り裂かれた。


「む」


 だが、斬撃は泥の波だけではなく、そのまま泥の上を走り、円諸共テンゴを呑み込もうとする。当然、それを受け入れるわけもなく、テンゴは円の外に出て難なく回避する。


「ようやく、円の外に出たな」

「ああ、そうだな」


 お互いの攻撃を防ぎ、躱しが終わると、二人ともいったん動きを止める。


 レシェスは腰に残っていた最後の二本が無くなっており、両手にある剣は1.5倍ほど長く太くなっていた。それに対してテンゴは姿は変わらないが、腕を背中に回したり、足を延ばしたりして準備運動を始めていた。


「さすがに、なめ過ぎだ。あんな動きを制限して、こちらが満足するとでも」

「む?舐めていたつもりはないが……確かにどこかで手加減していたかもしれんな」


 レシェスは怒りを滲ませた声でテンゴを責め、テンゴはそれを受け入れる。


『ええぇ!!まさかのテンゴ選手、この期に及んで手加減したのですか!?』


 リティシィは思わず実況も忘れて、テンゴに問いかけるコメントをしてしまう。


「いや、侮っていたつもりはない。だが、心のどこかで手心を加えていたかもしれん」

「それはだからか?」


 レシェスは苛立ち交じりにテンゴへと問いかける。


「??なぜ、そんなことを聞く?」

「…………すまん、そうじゃなかったようだ」


 テンゴが不思議がって聞くと、その様子を見てレシェスはそうではないと気づく。


「なら、聞きたい、どうしてどこかで手加減していた?」

「ふむ、それなら簡単だ。お前ぐらいの年の子供がいるからな、どこかで重ねていたのだろうな」


 テンゴは顎をさすりながらそう告げる。


「お前さんくらいの年なら、俺にとっては息子、娘と大体同じだしな」

「そうか……なら手加減は無用だ」


 テンゴの答えを聞くと、レシェスは再び剣を構え始める。


「うむ。戦士としての心構えがあるなら、することはないだろう」

「では!!」


 レシェスはテンゴの答えに満足したのか、一直線にテンゴへと迫る。そしてそれに応えるようにテンゴも『獣化』を濃くしたのか、先ほど腕と足の身だったのが、若干の頭部、骨格まで変化し始めて、レシェスの倍ほどの身長となった。


「『属性解放・熔』『属性解放・空』」


 レシェスは走っている最中にアーツを使用する。赤褐色の剣からは刀身がひび割れたような光が現れ、そこから少しばかりマグマが噴き出る。そしてもう片方の空色の剣からは鍔から切っ先まで風と雷を纏い、刀身が淡く輝いていた。


「……ふぅ~~」


 そのようすを見るが、テンゴは慌てることなく、構えを取りながら深く呼吸する。


「はぁ!!」


 レシェスはテンゴまであと少しというところで赤褐色の剣を振るい、マグマの粒をテンゴへと放つ。


「…………」


 だが、戦後は慌てない。軽く足踏みして、薄い泥の壁を作り、マグマの温度を下げて、喰らっても問題ないようにする。その後、泥の膜からマグマの粒がテンゴへと放たれるが、そのすべてをテンゴが受け止める。その際のダメージは一切ない。


「ふっ」


 そして泥の膜の向こうから現れたレシェスが剣を横から振るう。


 ギィ

「!?」


 だが、剣はテンゴに当たることなく、肘と膝に挟まれて動きを止めるのだった。


 その際に動きを止めたことにより、テンゴが反撃すると誰もが思っていたのだが――


「触ったな」

「っち」


 ブォウ!!


 剣の鍔から巻き起こった、一際大きい風と雷がテンゴを吹き飛ばす。


「よっと」


 テンゴは吹き飛ばされつつも体勢を取り、何度か着地と同時に後ろに飛ぶとなんてこともない様に立っていた。


「それなりに傷を与えたと思っていたのが」

「いや、それなりにもらった」


 テンゴの肘と膝に、微かながら切り傷とやけどの跡があった。


『おおっと、レシェス選手がテンゴ選手に有効打を入れた!!』

「うるせいな」

「っ!?」

『えぇぇぇえ!?』


 リティシィは現状を実況するが、それに対してテンゴがやや不機嫌になりながら文句を言うとレシェスとリティシィが驚く。


 なにせテンゴの傷跡が逆再生をしていくように元に戻っていくからだ。


「その状態でその回復力まで持っているとは……」

「まぁな、俺はそれなりに早いが、それでも、それなりだ…………さて、大体理解した、それじゃあ、今度はこちらから攻めるぞ」

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