第478話 五日目三回戦目決着

「いや、それじゃあ、まだ足りない」


 ドイトリの放った矢がリフィネに向かって行くが、その最中マシラの言葉が耳に入ってくる。


『っふ』

『ぉぉお!!リフィネ選手避けた!!』


 マシラの言葉とリティシイの実況通り、リフィネは空中で身を翻して、ドイトリの矢を難なく避ける。


(たしかに、あのぐらいの一撃は避けなけば話にならんだろうな)


 ドイトリの鉄弓の威力と速さは、確かに強力だ。だが、それだけであり、直線的な攻撃であればリフィネが躱せない通りはなかった。


「ねぇねぇ、なら、何が必要なの?」

「ん?簡単だ。自由に飛び回る鳥を打ち落とすのは難しい。なら、自由に飛び回れないようにしてからだろう」


 マシラは至極単純なことをレオネに説明するが。


「だが、それが鳥ならばの話だ。竜ならさらに難しいだろうがな」

(確かにな、アレを例えるなら鳥というよりも竜に近いだろう)


 アシラの言う通り、今、ステージの上空で滞空しているリフィネを見ながらそう思うのだった。


(あれをどうするか、見ものだ)


 俺は泥まみれになっているドイトリを見ながら、これからの戦いぶりに期待する。















『おぉぉ、躱す躱す!!リフィネ選手、迫ってくる泥の腕と石の矢を交わし続ける!!』


 それからも一方的な攻防が続いていく。ドイトリは産みだした泥の腕でリフィネを捉えようとし、動きを制限したところで矢を射る。そしてリフィネも高速で飛び回り、泥の腕と矢を回避して、攻撃のスキを探す。


 それは数分も続き、観客が少し飽きるほどに長く続いていたのだが、ようやく場が動き出す。


「慣れてきた、なら!!」

『リフィネ選手が動き出した!!ドイトリ選手へと急接近する!!』


 リフィネは一度泥の腕に捕まりそうになりながら、身を翻すと、泥の腕の内側に入る様に飛翔して、腕を辿る様に急接近し始める。


「む!?ふん!!」


 ドイトリはリフィネの行動に驚きつつも、慌てずに矢を番えて、狙いを定める。


 ビュン!!


 ドイトリが矢を放つと、狙い通りに近づいてくるリフィネの頭部に吸い込まれていく。


 そして次の瞬間には誰もがリフィネの頭に矢が刺さると思ったのだが


 ギィィ

「ぐっ」


 矢は兜のギリギリを掠っていく。その際に多少は頭部に衝撃を受けたらしくリフィネは軽く呻き声を上げるのだが、その間もリフィネはドイトリに急接近していった。


「っ、『泥鎧』!!」


 ドイトリは避けられないと悟ると、すぐさま泥の量を増やして衝撃に備える。


「『竜衝角』!!」


 リフィネがアーツを使用するとランスの先端が淡く輝く。


「っっ『剛体』」


 アーツが発動されたことを見るやドイトリはすぐさま、防御用のアーツを発動させて、同じく身を守る。


 そして泥山にランスがぶつかることになるのだが。


「ハァアア!!!」

「ぬん!!!」


 リフィネのランスが泥の鎧にぶつかると、まるで巨人用のランスが突き刺されたのかというほどに大きな円錐型の穴が開く。そしてそれは正確にドイトリの位置を掴んでおり、ドイトリは泥を突き抜けて、何度も沼地の上を転がっていく。


「ぐっっ、がはっ、っっ~~」


 回転が収まると、ドイトリは大きく大きく息を吐き出して、痛みに耐える。


「やはり、頑丈だな」


 リフィネは威力を先ほどの攻撃で使い切ったのか、一度地に降り、その後、起き上がったドイトリを見て、そうつぶやく。表情を見るとどうやら、先ほどの攻撃で大きな外傷を負っていない事に不満を持つているらしい。


「っっ~~~…………ふぅ、効いたわい」

「怪我らしい怪我をしていないのによく言う」

「仕方のないことじゃ、儂らから頑丈さを取ればただの小人ともいえるからのぅ」


 そしてドイトリは再び膝をつくことになる。


「それより、動かんでよいのか?」

「!?」


 ドイトリの外套が沼に触れた瞬間、大穴を開けたどの小山が動き出す。すぐさま泥の腕が伸びると、リフィネがランスの穂先で切り払う。


「っっくそ!!」

「そうなれば、まともに空へ飛びあがることも難しいじゃろう?」


 リフィネは悪態を尽きながら何度も迫ってくる泥の腕に対処し続ける。


『な、なんと、ドイトリ選手がリフィネ選手を再び飛び上がらせない!!これがドイトリ選手の狙いだったのか!?』


 リフィネの言う通り、これはドイトリの戦略だった。


 まずリフィネはすぐに飛び立つわけではない。ランスによる加速を得るがそこには静止した状態から初速となり、そこからさらに速度を上げての最高速へと到達する時間がいる。そして初速にかかるまでの数秒程度でも、本戦での試合では致命的になってしまう。


 たしかにリフィネが空へ飛び立てば実力は明白だったが、今回のように飛び立つ前に手数で押されれば、満足に飛び立つことさえできない。それも拘束系となればことさらに受けてはいけないためより飛び立ちにくい。


「まだまだ、やれることはあるじゃろうが、こちらはいろいろと背負っているのでな」


 泥が再び外套を上ると、ドイトリは立ち上がり、再び弓を構え始めるのだが。


「その鎧を射抜くには作り出した矢では物足りんじゃろう」


 ドイトリは腰に下げている袋から、袋では収まらないサイズの矢を取り出す。


『っっ、ドイトリ選手!なにやら使い切りの矢を取り出した!!これはリフィネ選手ピンチか!!』

「ピンチじゃない、終わりじゃよ」


 ギリギリ


 ドイトリは黒く脈動する矢を鉄弓に番えると、そのまま弦を引き絞る。


「っっっ」

「『黒蝕の矢』」


 ドイトリが放った矢は正確にリフィネの移動する方向に進んでいき、数秒もすると、リフィネの腹部の装甲とぶつかる。


 バギッ


 そしてリフィネの装甲を少しだけ破り、穂先を少しだけ体に埋めることになった。


「っっぐ」

 バキッ


 リフィネは邪魔とばかりに突き刺さったその矢を折ると再び、泥の触手の対処を続ける。


『ぉお!どうやら威力が足りなかった模様、リフィネ選手は多少の傷を負ったがそれでも奮戦している!これはまだどうにかなるかわからない!!』

「いや、おわりじゃよ」

『え?…………えぇ!?』


 リティシイの実況にドイトリが返答すると、その言葉を裏付けるかのようにリフィネの体に異常が起きていく。


 ビキッビキッ

「がはっ!っ、何をした!」


 リフィネの体に大きな筋が浮かび上がると、数秒もせずにリフィネは吐血することになる。


「なに少しばかり時間は掛かるが、一撃で死に追いやる矢を使用したに過ぎない。言っておくがそれは毒ではないため、解毒の類は意味が無いぞ」

「っっ、だからか……ゲホッ」


 どうやらリフィネはすでに毒に対しての何らかの対策をしているらしく、ドイトリの言葉に腑に落ちた表情をしていた。


「なら、私が死ぬ前にやるのみ!!」


 ボォォオ、ゴォォオオオオオ


 リフィネは無茶な体勢からランスの加速を使い急接近し始めるが、やはり無茶な体勢なだけあって、ドイトリとは外れた方角へと飛んで行ってしまう。


「それで距離が取れたと思っておらんな?」

「っっ!!」


 リフィネが再び沼の中に着地し、ドイトリを見て攻撃を仕掛けようとするが、未だにリフィネがいる場所はドイトリの泥と続いている場所であった。そのため次の瞬間には泥の腕が這い出て、リフィネを拘束しようとする。


「っっ」

「諦めろ、今回は儂に分がありすぎた」

「くそ…………」


 その後、リフィネは動き出す泥に対処し続けることになり、最終的には泥の中に倒れ伏せて、光の粒子となる。


 こうして、ドイトリ対リフィネの戦争は幕を閉じたのだった。

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