第466話 四日目最終戦決着
カシャは破裂した後、元に戻った腹部から、一つの短めな鞭といくつかの人形を取り出す。
『な、なんというか、ファンシーというか』
ピエロがかわいらしい人形と鞭を持つが、どこをどう見ても強そうに見えない。
「では、参りますよ『かわいい猛獣劇』」
カシャは人形を放ると、それを鞭で一度だけ叩く。
『こ、これは、あの人形たちが様々な動物へと変化しました!!』
ステージでは鞭で叩かれた人形はそれぞれの元となった動物へと変化していく。
「ほぉ~~」
マシラはその様子を見て、感嘆の声を上げる。
「でも、そいつらは見飽きているな」
マシラは、獅子、虎、鷹、象、熊の五体に視線を巡らせるが、それらはアルバングルでは普通にいる存在なため、やや落胆した表情を見せる。
「酷いですね、それなりに愛着があるのですよ?」
カシャが悲しそうな表情を作る。
そして言葉を発することが合図となったのか、獣たちが一斉にマシラに襲い掛かる。獅子と虎は連携して左右から、熊は真正面からで、鷹は背後に回り込み、頭上からは象が鼻を振り下ろしていた。
「まぁ、及第点だな」
そうつぶやいた後、マシラは行動を始める。
まず最初に対処したのは振り下ろされる象の鼻だった。振り下ろす鼻に棍を横から当てて軌道を逸らすと同時に振り下ろす勢いを使い棍を、水車の様に勢いよく回す。
鼻がマシラの横の地面に振り下ろされると次に対処したのが熊だった。マシラは回っている勢いを乗せたまま、一気に端を掴み、勢いを殺さないように流れる様に棍を振り上げる。結果、棍は正確に熊の顎を捉えて、宙に打ち上げることとなった。
ここでマシラの攻撃は一端幕を閉じた。なぜなら、左右から獅子と虎が襲い掛かってきていたからだ。
カコン
「よっ」
だが、マシラも行動しないわけではなかった。すぐさま棍を引き戻し、その勢いを利用して自身も飛び上がり、左右から迫る爪を回避する。
そして宙に舞うこととなると、好機とばかりに襲い掛かってくる存在がいた。鷹はすぐさまマシラに攻撃を加えようと鋭い鷹爪をマシラの顔面に向けながら飛翔する。
「いい連携、だ!」
その様子を見て、マシラは先に宙に浮き、落下しかけている熊に棍を当てて、自分の位置を少しだけずらす。
ガシッ
「だが、少しお粗末だ」
グチャ
マシラは足、それも『獣化』しているのか、手の様に掴みやすくなっている足で鷹の頭部を掴む。そして自然と落下していくと、そのまま鷹の頭部を地面に向けて、着地と同時に踏みつける。
『ど、怒涛も怒涛!!獣達は巧みな連携を見せるのですが、マシラ選手はことごとく避け、そして反撃した!!!』
ようやく戦闘らしい戦闘の実況には入れたのか、リティシィの声に力がこもっていた。
ガァアア×2
「ふっ!!」
そして着地したすぐ次の瞬間に獅子と虎が前後から襲い掛かってくる。
「合わせるってのも案外脆いのは知っているか?」
マシラは二人の丁度真ん中の位置にいると、二匹は丁度いいとばかりに飛び掛かってくる。
「ほっと」
マシラは丁度獅子と虎に向くように棍を構えると、二匹はお互いにお互いを突っ張る様な形となった。
「うっら、よっと」
そしてマシラは突っ張っている棍を手放すと素早く虎の下に滑り込み、そのまま両手を地面に当てて体を支えるようにすると、体のばねを使い飛びあげるように虎の胴体に蹴りを入れる。
ゴギリッ
マシラの蹴りが虎の胴に入ると、何やら硬い物がいくつか砕かれた音が響く。
『うぅ、獣相手といえ生々しい音ですね』
「なんだ、中は綿じゃないのか」
リティシィは痛々しい表情を浮かべて嫌な表情を作り、マシラは感触が人形ではないことに困惑する。
ガァア
「二匹で無理な次点で察しろよ」
虎が蹴り上げられたことで、棍によるツッパリが無くなったことにより、再び獅子が飛び掛かるのだが、マシラは何も慌てない。迫ってくる獅子を見据えると、獅子の攻撃のタイミングを予想する。
そして獅子は右前脚を振り、マシラを攻撃しようとするのだが、マシラは慌てずに足の甲に足を乗せると、そのまま獅子を飛び越えて、棍が転がっている場所へと戻り、棍を拾う。
「ふぅ、無傷が二体だが、二体は仕留めた」
マシラは棍を肩に担ぐとカシャ含めて、生み出された獣たちを見回して呟く。
「正直、驚愕です。まさか、あの攻撃を防ぐではなく、完全に躱し、そして反撃で二体をしとめるとは……」
カシャもさすがにマシラの行動には称賛せざるを得なかった。なにせ現在無傷なのは象と獅子、そして何とか起き上がったもののややふらついた熊だけ、虎はもがき苦しみ起きる気配はなく、鷹は完全にミンチとなっていた。
「どうする?このままなら何も起こらないぜ」
「そうですね、なら、こうしましょう」
カシャは応答すると、獣たちよりも前に足を進める。
そして次の瞬間――
ゴォォオオオオオオオオオオ
カシャは口を開き、そこからマシラに向かって火炎放射を行った。
『えぇ、ええぇ!?なんですか、あの火吹きは。私も数々の戦いでいろいろと見てきましたが、あんな不自然に火を吐く人は初めて見ました……』
リティシィが困惑するのも無理もない。なにせカシャは不気味な人形の様に口を開くと、息を吸う動作もなければ吐く動作もないまま、火を吹き始めたのだった。
「へぇ~」
マシラはその様子を見て、何も慌てずに行動する。さすがに直撃はまずいと判断したのか、その場から横に移動して、自身の体を隠せる岩場に潜み、火から身を隠す。
「―――、ふぅ、よかったです、さすがに火は聞きますか」
カシャは燃料切れを起こしたのか、火炎放射を止めて、喋り始める。
「あたしも完全じゃないからな」
「では、このような形はどうでしょう?」
カシャは人差し指と親指で輪を作り、口の前に持ってくる。そしてそこに火を吹くとそれが火の輪となり、それが空中で静止する。
「それだけか?」
「いえ、それだけではないですよ」
カシャの言葉で動物たちが行動する。熊と獅子は火の輪を潜ると、体に炎が移り、炎を纏った状態となる。そして象は火の輪を作るとチャクラムやフラフープの様に扱い出す。
「そして『奇怪に舞う魔球』」
そして今度は一回戦にも使った七色の球を取り出すと、それを空高くに放り次々と回し始める。
「さて、これにどう対処しますか?」
カシャはジャグリングをしながら、笑みを浮かべてマシラに話しかける。
「面白れぇ、やろうじゃないか!!」
マシラも笑みを浮かべながら返答すると、岩陰から飛び出してカシャへと迫る。
「では、行きなさい」
カシャもマシラの行動に返答する様に行動し始める。
まず最初に動き出したのはカシャの球だった。七色のそれらが意志を持つように宙を飛び始めると、そのままマシラへと迫っていく。
カカカカカ
だが、マシラも一筋縄ではいかずに棍で球をうまく弾き、そのまま突き進んでいく。
ガァアア
そして次に行動したのは燃え盛る獅子だった。火を纏った獅子は当たればいいとばかりにマシラに迫っていく。
カッ、タッ
だが、マシラは棍を棒高跳びの要領で使い、獅子の上を通り過ぎていく。そしてその際に尻尾で棍を回収しているため、実質ただ通り過ぎたのだった。
獅子が通り過ぎて、制動を掛けていると、次に迫ってきたのは熊だった。仁王立ちしてカシャへの持ちを塞ぐ。
「邪魔だ」
マシラは獅子を飛び越えた後、再び棍を使い上へ飛ぶと宙で回転し始める。
「『廻天衝』!」
マシラの十八番ともいえる技を使い、熊の頭部に衝撃を与えて、強引に熊を退かす。
ヒュン
「っ、おぉ~あぶね」
そして次に迫ってきたのは、象だった。と言っても象は移動せずに、火の輪をマシラの進行方向に投げて邪魔をする。
ゴォォオオオオ
象により足が止まった後に起こったのは、カシャの火炎放射だった。射程圏内だったのか、火炎放射がマシラを呑み込んだ。
だが――
「それは悪手だろうよ」
ブン!!
炎の中からマシラの声が聞こえる。
そして次の瞬間、炎の中から棍が飛んでいきカシャの口に吸い込まれていく。
「!?!?」
当然ながらカシャは喉の奥に棍が刺さったことにより、炎が口の中で暴発することとなった。
「火を吐くってことは口を開けるってことだろう、っが!!」
マシラは顔を腕で覆う様に火の中を進みながら返答する。カシャが口から棍を吐き出し、悶絶する中、あと数メートルという場所までたどり着くのだが。
ブォン
カシャの元へは行かせまいと象が薙ぎ払う様に鼻を振るう。
「それも間違いだ」
マシラは横なぎに振るわれる鼻の下をスライディングで通り過ぎると、カシャの足元までたどり着く。
「ふふ、楽しめましたか?」
「ああ、『首貫』」
マシラはスライディングしたまま、地面に転がった棍を掴み、飛び上がるとカシャの首に向けて棍を回転させながら突き刺す。
そして棍の端から数センチが完全に首に埋まると、しばらくしてカシャの体は光の粒となっていった。
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