第461話 期限的な限界

 俺はカーシィムの部屋を訪れた後、貴賓席に戻るのだが。


 コツコツコツ、ピタッ 


 やや暗い通路で立ち止まり、リンに声を掛ける。


「リン、誰かいるか?」

「え?あ、はい、一名こちらを窺っている者が降ります」


 俺はリンに確かめて、ある奴から接触があるかを確かめると、どうやらドンピシャだったらしい。


「これは失礼を。正直、やや気が荒立っているようだったのでこのような接触は望んでいないかと思いまして」


 すると進行方向の通路の先からボゴロが出てきて頭を下げながら謝罪をする。


「で聞くが何か進展でもあったか?」

「はい、これを」


 ボゴロが何かしらの書類を渡してくる。


「これは?」


 ボゴロの書類を見ながら前にも似たようなことがあったことを思い出す。


「はい、一言で言えば、貴族たちの私財目録です」

「……一応聞くが、これを渡した理由はなんだ?」


 貴族たちの私財目録ということで大体何を言いたいのかは理解したが、しっかりとボゴロの口から出させる。


「私たちはバアル様の言葉を信じ、『黒き陽』が動いているという前提で調査を行いました。そして『黒き陽』の情報が正しいと考えて調べてみたところ」

「莫大な報酬が動いているのなら、当然、その動きは見つけやすいということだろう?」


 ボゴロは頷く。


「で、そちらの結論は?」

「言い難いのですが、バアル様の言葉を疑う必要が出てきているとしか」


 つまりは貴族たちに怪しい動きはない、白という決断になってきているという事。


だろうな・・・・

「……なるほど、これは自信を喪失してしまいそうですね」


 こちらがボゴロ達よりも情報が多いことをにおわせると、ボゴロはやれやれと首を振る。


「それで、お聞きしますが、マーモス伯爵家が無実だとお考えか聞いても?」

「答えはほぼ・・白に近い。言い換えればまだ黒い要素が残っている以上無実だとは断定してない、だ」


 そう言うとボゴロは、軽く笑うと同時に跪き頭を下げる。


「申し上げます。ここまでの事態を把握してみると、お約束の真犯人を見つけることは明日、明後日まではまず、困難です。できれば慈悲を貰いたいのです」


 ボゴロの反応に、俺は驚く――ことは無かった。


(正直、ボゴロに話した後、俺も大体の見当は付いた。そしてその証拠を見つけるとなると、まず数日では無理だろうな)


 それは何も、ボゴロ達の腕が劣っておるというわけではなく。物理的に時間が足りないことを示していた。


 なにせ、国内の組織ではなく、『黒き陽』に財を差し出した形跡が見られない。となると目を他国や隣国に向ける必要があるが、そうなれば当然明日明後日で解決できる期間ではなかった。


「では、聞くが、どうなりたいと?」

「どうか、今回の件、これでマーモス伯爵家の潔白の証拠としていただきたい」

「……ここで否と言えば?」

「申し訳ありませんが、我々がどのような行動に出てもおかしくないかと」


 言葉の裏に、そこまで追い詰めるのなら、相応の覚悟をしろと言っている。


「ははは、なるほど、本当に限界なんだな」


 本当の意味での限界ではないが、おそらく、ここが引き時なのだろう。だが―――


「なら、一つ条件がある」

「……伺いましょう」

「あることを調べてもらいたい。それが出来たのなら、マーモス家は潔白だと判断しよう」

「それは?」

「簡単だ―――」


 俺は調べてもらいたいことをボゴロに告げる。


「調べることは十分可能でしょう。ですが、少々時間を貰いたいのですが」

「ああ、本戦最終日までで足りるだろう?」

「わかりました。このことを主人に話させていただきます」


 ボゴロはそう言って立ち上がると、一礼してから、俺たちと入れ替わるように通路の向こうへと進んでいった。


「バアル様、今の話は」

「無視しろ、すでに結論は出かけている」


 マーモス家に出した条件は正直に言えば囮に近い、あった方がいいが、無くても困らない代物。当然、場合によっては調べさせる目的を探させるだろうが、それでは答えは限りなく出づらい。


(本当に厄介なことに巻き込まれているな、グラスの言う通りお祓いでもしてもらうか?)


 俺は事態に巻き込まれるるあることを認識して、そんなことを思いながら、再び、通路を進みだす。

















「なぜここにいる?」

「昨日ぶりですな」


 貴賓席に戻ると、そこにはなぜか、リョウマの姿があった。


「話がありまして、少し待たせてもらった次第です」

「おう、勝手にいれたが、まずかったか?」


 リョウマはアシラの隣に座っており、こちらに振り向いている。そしてリョウマを入れたアシラはこちらの表情を見て、少しだけ申し訳なさそうにしていた。


「問題なかったのか?」


 俺はアシラから視線をずらし、イグニアとユリアを見る。


「ああ、俺は問題ない」

「私もです。話を聞けばリョウマさんはバアル様の食客になるご予定があると聞いたもので」


 ユリアがどこで知りえたのかはわからないが、先んじてリョウマのことを知っていたらしい。


「それにしても、バアルはよく相手を見つけてくるな。それも腕利きばかりで羨ましい限りだ」


 イグニアは面白そうに笑いながら、酒を呷る。


「殿下とユリアがいいのなら、何も言わない。それでリョウマ、話とはなんだ?」

「実は護衛の依頼の件です。昨日知り合いと再会しまして、どうやらその者もグロウス王国へ向かうらしいのです、もしよろしければその物も連れて行きたいのです」

「実力と信用は?」

「今回の本戦に出ており、何より私とも一年前ぐらいから何度も顔を合わせたことがあり、その時の様子から信用できると言えます」

「なるほど、顔合わせの後にそいつも雇おう」


 俺がそういうとリョウマは驚きの表情を浮かべる。


「こう言いましてはなんですが、決断が早くありませんか?」

「一応、根拠はある」


 まずリョウマは、アルバングルやノストニアへと赴いてみたいということで俺の食客になる選択肢を視野に入れている。だがそんなとき、護衛依頼で下手な奴を紹介してしまえば、俺からの信用を失い、食客入りが為しえないかもしれない。そう考えればリョウマも仕事を任せられるほどには信用していると言い換えることが出来た。


「では、時間を見て、顔合わせを頼めるか」

「時間は?」

「俺がいるタイミングでホテルに来てもらえればいい。時間が会わない場合は、こちらから人をやる」

「了解しました」


 リョウマはそれだけ告げると、立ち上がり、部屋を出ようとする。


「ここまで来たのなら、一緒に観戦しないのか?」

「申し訳ない、シイナを待たせております。何より、私もそれなりに予定が詰まっているので」


 リョウマはそれだけ告げると扉の前でこちらに一礼して、扉を開く。


「そういえば、紹介する奴の名前を聞いていなかったな」

「そうでした。オルド、オルド・バーフールと申します」


 その言葉を告げると扉はゆっくりと締まるのだった。

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