第462話 四日目二回戦目

(奇妙な縁があるものだな)


 俺は冷たい水が入ったコップを口元に運び、リョウマが最後に出した者の名前を反芻する。


「しかし、本当に見事な腕だな」

「何がだ?」


 口の中に広がる冷たさを感じているとイグニアがそう告げてくる。


「実力者をここまで集めたことだ。俺も、本戦に出た選手をできるだけスカウトしているが、正直成功した確率はかなり低いぞ」


 イグニアはそういい、ほんの少しだけ悔しさを滲ませていた。


「運、としか言いようがないな」


 正直なところ、俺が自ら勧誘したのはヴァン以外にはいない。ヴァンは庇護する代わりにマーモス家に切り札として使えるため勧誘していた。だがそれ以外、リョウマに関してはアルバングルやノストニアに行ってみたいからという理由で俺の食客入りを検討しているに過ぎない。また本戦ではないがダンテに関してもあちらの思惑でただ、近くに居るに過ぎないため、こちらも俺の勧誘とは関係がなかった。


「そういえば、オルドに関しては声を掛けると聞いていたが?」

「振られたよ。もう少しいろいろと見て回りたいらしい」


 その理由が本当か嘘かはわからないが、イグニアは勧誘の話を断られたらしい。


(オルドも、転生者だ。となればイグニアとエルドの争いに関しての知識があるのだろうな)


 もし知識を持っているのなら、イグニアは争いの種にしか見えない事だろう。セレナの知識、だけではないく俺の知見でも、ほとんどの確率でグロウス王国が荒れると踏んでいる。


(逃げられるものなら逃げたいがそうもいかないからな)


 立場として、公爵家の嫡男ともなればそういった争いに否応なく参加せざるを得なくなる。それもノストニアの姫との婚約者やアルバングルの大使、機竜騎士団団長、果てはイドラ商会の会長ならば、様々な方面から頭痛の種がやってくることになるだろう。


「ほかに勧誘を計画している者は?」

「いや、当たれるところは当たったが、すべてふいにされた」

「……そうか」


 それから貴賓室で様々な雑談を行い、ようやく次戦の時間となった。












『さて、時間になりました~~本日の第二回戦を始めたいと思いま~す!!』


 時間になればいつものようにリティシィが壇上に上がり開催の合図を上げる。


『では入場していただきましょう!!“空突”リフィネ選手!“大返し”イシュ・バータード選手!!』


 リフィネの言葉で二人が入場する。


 まず姿を現したのは灰色の鎧に包まれた大男、イシュ・バータードだった。武装や様相は一回戦と変わらず灰色の全身鎧に、モーニングスター、そして大盾のみだった。


 そして次に姿を現したのは当然もう片方の選手であるリフィネ。ただこちらは一回戦とは鎧の形が変わっていた。武器は一回戦と変わらず二本のランスなのだが、鎧は様々な部分が流動的な曲線のように変化しており、また背中には竜の様な翼が折り畳まれていた。そして頭部は一回戦に被っていなかった兜があり、そして目から顎のあたりにまでかけてガラスのバイザーが入っており、高速移動を意識したものだと理解できる。付け加えるなら髪も兜から出しているため、ポニーテールの様な形になっていた。


「ふぉ~~カッコいい」

「ですね!」

「だな!」


 リフィネの姿を見て、レオネ、アルベール、ヴァンが歓声を上げる。


(見てくれは完全に竜騎士ともいえるからな、子供たちには人気だろうな)


 リフィネのその姿は完全に黒い竜竜騎士と言えて、一定層には絶大な人気を誇るであろうという様相だ。実際、その様子を見て、男共や子供の声が聞こえてきている。


『おぉ~~何とも強そうな格好に会場が沸いています。さて、前置きもほどほどにして……試合開始!!』


 双方がステージに乗ったのを見てリティシィが始まりの合図を告げる。












 試合開始の合図が告げられると即座に双方は身構える・・・・


『ぉぉおお、意外です。私の予想では双方とも即座に動き出して、ぶつかると思っていたのですが、双方とも構えはするがその場から動かない』


 観客が片方に注目し始める。それもそのはず、重装甲と言えるイシュ・バータードはともかく、高速機動な攻撃を得意とするリフィネが動かないのは誰もが意外だと思っていたからだ。


 だが、その予想も数秒後に覆される。


 ブゥ、ゴォォオ!!


『つ、ついに始まる!リフィネ選手の槍が火を噴き始めた!!、そして―――』


 キィィィィ―――


 リフィネの槍から吹きあがる爆炎が収縮し始めると、飛行機などから聞こえてくるジェットエンジンの音が聞こえてくる。


 そして次の瞬間には。


 ギャ、ザァアアア――――


『リフィネ選手、イシュ選手を押し込む!!ひたすらに押し込んでいく!!』


 ギリギリ影を捉えることが出来る速度でリフィネは飛翔を始める。そしてまっすぐに突き進み、イシュ目掛けて突撃を行う。それに対してイシュはしっかりと大盾に身を隠し、リフィネの一撃を受け止める。が、しかし、さすがに加速し続ける槍は想定してないのか、イシュはそのまま地面に足を付けたまま、かなり後ろまで引きずられていった。


「ふっ」

 ギャリ


 さすがに付き合いきれないと思ったのか、イシュは盾を傾けて、リフィネからそれるように転がり躱す。


『なんと、イシュ選手、巨体に見合わぬ、軽快な動きでリフィネ選手の突撃から逃れる!!だが』


「それで逃げたつもり?」


 次の瞬間には、空で弧を描いたリフィネがすぐ眼前までやってきており、再びイシュの真正面から攻撃を始める。



 ザァアア――――――――――

「ぐっ」


 リフィネはあくまで執拗に付け狙い、イシュを常に押し込む。それも小細工なしでまっすぐの突撃でだ。












アレ・・は、きついな」

「でしょうね」


 俺はイシュが苦戦するだろうと思い言葉を漏らし、クラリスもそれに同意する。


(ランスという武器の特性上、下手な攻撃は要らない。それこそ、速度が乗ればそれだけで威力が異様なほどに高まるからな)


 通常ランスなどは馬などを使う。なにせランスというは突く以外は、あまり使い道が少ないからだ。第一にひたすらに付くことを求められたのがランスという代物で、槍のように振ることも二の次、剣のように切ることは三の次となっている。となれば必要なのは速度と命中精度の身となる。普通ならそのうちの速度を馬に求め、命中精度を人の技量で補うことになる。


 リフィネの状態で言えば、ランス型魔具に寄り速度は自前で用意できるため不必要、となれば後は命中精度だが、これは本戦に出ているだけあって十分察することが出来る。そしてさらに言えば魔具を二本用意して使いこなすことにより、空中からの攻撃が出来るため四方だけではなく、空中からの攻撃も可能。正直、リフィネを100人でも用意できたのなら、下手な城など一晩で落とすことが可能だろう。


(それに対して、イシュの戦闘は大盾による待ち・・


 一回戦の記録でもイシュは大盾を使い隙を作ってから攻撃を加えるというオーソドックスなスタイルとなっている。


 これだけを見れば突撃してくるだけのリフィネとはそう相性が悪そうではないのだが――――


(相手は飛ぶことが出来る。遠距離攻撃を持たないイシュはただ、どこから攻撃が来るか待つしかないだろうな)


 相手に頭上を取られているということは戦闘ではそれなりに優位を明け渡してると言えた。それも飛べる相手となるとことさらに。


(矛と盾の戦いか、やや矛が優勢に感じるが、どうなることか)


 そう思っていると、ステージに変化が見えてきた。

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