第459話 四日目一回戦目

『決まりました!!四日目のステージは~~『岩場』!!これは少々ホームとアウェイが厳しいか~~』


 ルーレットが決まるとリティシィはピュセラとドイトリを見ながら宣言する。


 そしてその声を合図に、ステージは変化を始める。変化が終わるとステージは高低差がない岩場もあれば、岩塊が積み重なり坂になっている部分や、ほかにも多少高低差があり、地層の断層が見える箇所などなど、採掘所や発掘所と言った部類の地形へと変化していく。ただ、普通に立っていればどの場所でも相手を見失うということはまずない造りになっていた。


『さてさて、双方とも準備はいいですか?』

「もちろんよ」

「おう!」


 リティシィが確認すると、ふたりともステージに上がり、既定の場所へ着く。


『それでは、本戦四日目の試合~~~始め!!』


 カウントダウンが始まり、終わるタイミングに合わせて、リティシィの宣言が響き渡る。









 ダッ


『まず最初に動いたのはピュセル選手!!持ち前の速度を活かして、即座に距離を詰めていく』


 カウントダウンが終わると一回戦目でも見せた速度で相手に突撃していくピュセル。


「どっ、せい!!」


 それに対してドイトリは大きく振りかぶり、周囲に転がる小さな岩々を殴りつける。その結果、岩は砕けて、小さな破片が散弾のようにピュセルへと向かっていく。


『さすが、ホームともいえる岩場での戦闘に慣れているドイトリ選手!ピュセル選手、この状況を凌げるか!』

「余裕よ」

『えぇ!?』


 ピュセルは恐れることなく、散弾の中に突っ込んでいく。となれば当然、岩の破片を体中に受けることになるのだが――








「頭部だけを守り、あとは体で受けて回復系の魔具を使用、か」

「でしょうね、早々に手札を切ることになったけど、相手が得意のフィールドって考えれば、そうおかしい判断じゃないわ」


 俺とクラリスはホログラムを見て状況を確認する。そこには破片が体中に傷をつけるが、徐々に回復して言っているピュセルの姿があった。


「それに、見たところヴァンのように急速に回復するわけじゃないみたい。ドイトリは力が秀でている分、一撃で大怪我を負う確率の方が大きい、そうなれば大けがを癒している間にもう一撃入れられてもおかしくないわね」


 クラリスの言う通りピュセルは並外れた回復力を持たない以上、大けがを負えば少しの間は動けなくなるだろう。そうなればドイトリは確実に追撃しようとしてくる。そのため手札を切るなら、小さい傷で済む、先ほどの場面がよかったということになる。


「ただ、それは回復力があれが限界・・の場合だがな」


 当然ピュセルも腕利き、相手に自身の手札を誤認させるくらいのことはするだろう。


「……むぅ」


 その可能性もあることに気付いたのかクラリスはムッとする。


 その様子に苦笑しているとステージ上では新たな動きがあった。













『ピュセル選手、急接近!!そしてドイトリ選手、飛礫が無駄だと分かり、構えを取る。そして――』



 ドゴン



 ピュセルがすぐそばまで近づくとドイトリは思いっきり槌を振り下ろし、地面に数メートルほど亀裂を入れる。その時の衝撃音で拡声されているリティシィの声が聞こえなくなるほどだった。


 だが――


 ヒュン


『ピュセル選手!!躱している!!そしてその刃がドイトリ選手に迫っていく!!』


 振り下ろされた槌の死角からピュセルは姿を現して、ドイトリに向かってレイピアで刺すように腕を振るう。


 キィン


 その刃はドイトリの顔面に向かって行き、そのまま刺さると思いきや、ドイトリは冷静に兜の装甲が厚い部分で受け止める。


 ブン

 シュタ


 そして反撃に振られる槌をピュセルは後ろに軽く飛ぶことで回避する。


「よく動じないな」


 ピュセルがレイピアをなぞりながらドイトリを見据える。なにせ先ほどの行動は場所を誤れば兜を貫通し、頭部が串刺しになる未来にもなりかねなかった。


「これぐらいではな、色々と背負っているものもあることだし。何より、儂は同胞の武具を信じている」


 ドイトリは槌の爪の部分で軽く兜を叩く。


「で、その距離でいいのか?」

「なに?」


 ニッ


 ドイトリは問いかけ返されると、笑みを浮かべる。そして素早く槌を振り上げてから振り下ろす。


「『岩畳かんじょうがえし』」

「っ!?」


 ドイトリがアーツを発動させて目の前の地面を叩くと、ピュセルがに投げ出された。


『っこれは!?ドイトリ選手の前からピュセル選手の場所までが床板のようになっており、そしてピュセル選手が飛ばされた』


 ピュセルは弧を描き、宙に投げ出されている。そしてその弧の先なのだが。


「歯を食いしばれい」


 ドイトリは肩に担ぐように振りかぶると、そのまま力を溜め始める。その証拠に、ドイトリの足場が何もないの横にひび割れた。そしてドイトリの体中から立ち上る白いオーラの様な物が槌に吸収されていく。


「!?、っ!!、!?、っ!!!」


 ピュセルが、何やら奇妙な行動を取りながら落下していくのだが、その際に何やら苦悶した表情を浮かべる。ただ、それは何もできないというわけではなく、できるのにしないことに苦しんでいるようだった。


「『金剛砕き』!!」


 それに対してドイトリはタイミングを完全に測り、アーツを発動させながら振り下ろす。


 そして―――


『!?これは決まったか!!!』


 ドイトリの振り下ろした槌は完全にピュセルを捉え、目的に向かって行った。そして衝突すると、ピュセルは岩を砕きながらステージの膜にぶつかることになった。


 当然、これにはほとんどの観客も、実況しているリティシィも勝負がついたと判断しただろう。


 だが―――


「……あれを食らって生きておるとはな」

『な、なんと決着がまだついていない!?‭ということはピュセル選手はまだ生きていることに、!?』


 ドイトリの呟きとリティシィの驚きの実況が重なるタイミングで、ピュセルが吹き飛ばされた場所が爆発する。


「ぐっっっ、ふぅ~~~ここまで痛手を負ったのは久しぶりだよ」

「まさか、腕一本でしのぎ切るとは思わんかった」


 再び、ドイトリの前に姿を現したのは当然ピュセルだった。だが、その姿は試合開始直後とは全くの別物で、髪は紐が千切れたのか、完全に下りており、岩場に何度もぶつかったせいか、ドレスの様な鎧は最初は新品同然だったのが、今は廃棄寸前のボロに変わっていた。


 そして最も痛々しいのは左腕が完全に壊れていることだった。手首から先は完全につぶれ、ねじ曲がっており、そして手首から肘はまるで骨が無いようにぶらぶらと揺れている。そして肘から肩にかけてまでは骨が折れ、それが腕に見えるぐらいに盛り上がっており、見ているこちらが居たくなりそうだった。


「それで悲鳴を上げないとは大した胆力じゃ」

「ふふ、こちらとしてはもっとひどい時もあったからね…………さて、ここから先だが、少しつまらなくなるだろうが、遊んでもらえるかい?」


 ピュセルは卑屈の言葉を出しながら、明らかに利き腕ではない右腕でレイピアを構え始めた。


「その前に一つ、聞きたい。なぜ本気・・にならん?」


 だが、ドイトリは相手が大けがをしているというのに攻撃を始めない。ドイトリも理解しているのだろう、先ほど宙にてピュセルが避けようと思えば避けられたことを。


「簡単だ。私は主人から、能力を制限したままでどこまでできるかを試して来いと言われている。だから使わないそれだけだ」


 その言葉にドイトリは眉を吊り上げて機嫌が少し悪くなる。


「それは本気で大会に臨んでいる者に失礼だとは思わんのか?」

「かもしれない。だが、私には主人の命令を遂行すること、これこそが一番と考えている」


 ドイトリはピュセルの言葉を聞いて、少しだけ吊り上げた眉を下げる。


「なら、後悔せんな?」

「無論だよ」


 このやり取りを最後に、もう言葉は要らないとばかりに二人は構える。


 そして、次の瞬間に二人とも動き出し――――

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