第458話 四日目の朝
「バアル様、お届け物です」
翌朝、いつものように目覚めて朝食を済ませてラウンジでゆったりとしていると一人の騎士が何かの包むを渡してくる。
「誰からだ?」
「ロックルという少年からです。また、荷の検めは済んであります」
「ご苦労」
俺は騎士から小包を受け取り、テーブルの上に広げる。
「これはまた」
「へぇ~綺麗ね」
いつ間にか背後にいたクラリスがおり、同じく小包の中を見ていた。
「だれから、って一人しかいないのよね」
「ああ、ロックルから
俺は小包に入っている手紙を見て、二つのアクセサリーを手に取る。
一つは様々な宝石で彩られたブーケの様な髪飾り、そしてもう一つが白い真珠と黒い真珠の二つのイヤリングが金のチェーンで繋がれたものだった。
「こっちが魔道具ね、そしてそっちが普通と」
クラリスはブーケのアクセサリーを普通の装飾品と断定し、もう一つを魔道具と判断した。
「魔道具の効果は……これが量産できるなら確かに有能だな」
手紙には魔道具の使用方法が書かれており。その内容だが――
「視点を合わせた相手から魔力を奪う、か」
手紙には一通りの使用方法が書かれており、やろうと思えば誰にでも使えてしまう代物だった。
(ご丁寧に容量まで書いているな)
だが、それは無尽蔵に奪うことが出来るわけではなく、イヤリングが貯蓄できる量が定められており、満杯になれば、奪った魔力を消費しなければいけないらしい。そして奪える速さなのだが、これは本人の視力などが関係しているため一律ではないという。そして仮に最大でも10秒で3MP奪えればいい方らしい。ちなみに貯蓄量はおよそ500と書かれている。
「それでどうするの?このまま懐に入れる?」
「いや、性能としては正直微妙だからな、窃盗を犯してでも手に入れる価値はない」
能力自体は素晴らしが、いかんせん、魔道具の性能が低すぎて話にならなかった。
(相手から100奪うだけでも、最低5分ほどかかるとなるとな)
俺やリン、クラリスのように最大魔力量が1000以上にもなると一時間弱は見ていないと魔力を奪い取ることはできない。またそれ以上に奪える上限が500であるとすれば、すべての魔力を奪い取ることはできない。
(それに魔力を供給する手段ならほかに持っているからな)
俺は自身の右腕に装着している魔道具を見る。
「それ、私の分はないの?」
「欲しいのか?」
「ええ」
クラリスはこちらの視線に気づいて、素直にねだってきた。
「……帰ったら、用意しよう」
「約束よ」
「ああ、約束だ」
その後、コロッセオに赴くまで笑顔になったクラリスと談笑していた。
「じゃあ、これを届けてくれ」
「かしこまりました」
俺達は連日のように馬車でコロッセオに訪れて、貴賓席へと入っていく。そして、その際に俺はアギラに朝もらった小包を渡す。
「では、失礼いたします」
「ああ、頼んだ」
アギラが退室していくと、俺は自分の席へと戻る。
「あら、どなたへの贈り物ですか?」
「少しカーシィムにな」
「まぁ、バアル様も毒牙に?」
「かかってない」
ユリアの冗談にめんどくさいと感じながらも返答する。
「では、どのようなご用件か伺っても?」
「簡単だ。カーシィムに紹介する者がいてな、先ほどの包みがその者の作品で品定めしてもらおうと言うだけの簡単な話だ」
「その者は、男性ですか?」
「ああ」
「恨まれませんか?」
「大丈夫だろう、あくまで紹介するだけだ、そこから先は個人的な話となるだろうからな」
俺はあくまで紹介しただけ、その先で何が起ころうともこちらは責任を負う必要はない。
「それよりもだ、昨日誰かが襲撃されたという情報は聞こえたか?」
「いえ、警戒していることが分かったのか、事が終わったのか、それとも襲撃の予定がないだけだったのかわかりませんが、私の情報網には引っかかりませんでした」
「そうか」
俺は昨夜は襲撃の噂がなかったこと聞き、こちらの予想が大きく外れていないことを確認する。
「何か、ご存じなのですか?」
「さぁな、確証は何もない」
昨日、ユリアが情報を渡さなかったように、こちらも渡すつもりはなかった。
「そうですか……では――」
ワァアアアアアアアアアア!!
ユリアの言葉は突如沸いた歓声にかき消される。そして歓声が起こった、その理由だが――
『さぁて、さて、皆さんお元気でしたか~~、本日は本戦四日目になりますが、まさか飽きている人なんていませんよね~~』
ステージに現れたのは、元気な声を出す美少女、リティシィ=サル・ネンラールだった。
『それじゃあ、早速入場してもらいましょう。“流麗剣”ピュセラ選手!!、そして“剛武”ドイトリ選手!!』
ピュセラは一回戦目同様、武装はレイピアに、ドレスの様な鎧を装備しており、一回戦と全く同じ格好で入場した。
そしてドイトリはというと、全装甲と言えるほどの兜と全身鎧を着こんでおり、その手には―――
「……大きい獲物ね」
隣にいるクラリスはドイトリが持っている獲物に驚く。
ドイトリが持っているのはをウォーハンマーと呼ばれる代物で、長さは成人男性とほぼ同等だった。ただそんな長い武器をドワーフという低身長のドイトリが扱うとなればかなり違和感が生まれる。
そして最も特徴的なのが、槌頭だった。普通であれば振れる程度の大きさの槌を取り付けるのだが、その部分があまりにも大きすぎた。遠めのため正確にはわからないが、おそらくは成人男性と並べてみると、丁度、膝から肩まで大きさに合致するだろう。そして槌頭は片口型と呼ばれるもので片側には竜の爪と呼べる鋭利な突起が取り付けられている。また槌頭の反対はけん玉の皿のようになっており、皿の中には幾何学的な模様が施されていた。
「振れると思う?」
「……出なければ持ってこないだろう」
試合の規定である歩くことが出来る装備までとなっているのだが、これは振れなくても持つことが出来れば問題ないことになっておる。もちろんそんな武器を持ってくるとは思わないが。
『さて、場の戦意が少しづつ上がっていく中ですが、ここで恒例のステージルーレットを始めましょう』
その言葉で視線がリティシィの前に現れたルーレットに向く。
『では~~スタート!』
リティシィの元気な掛け声でルーレットは回り始める。
「バアル様、一つだけよろしいですか」
ルーレットが廻っている間は暇になっているため、ユリアが話しかけてくる。
「なんだ?」
「カーシィム様に親しくなりすぎるのはあまりお勧めいたしません」
親しい、とは文字通りの意味ではなく、今回は距離的な意味合いでの話だった。
「バアル様は今後どうなるかはわかりませんが、イグニア様が親交を深めているのは第一王子と第三王子、そのことを忘れてもらっては困ります」
ユリア、もっと言えばイグニアからしたら、第一と第三を推しているのに対して、俺が第五王子を推し始めるとグロウス王国から内政干渉しているのではないかという風にとられかねない。もっと言えば内乱を誘発するためにわざわざ違う王子を推しているのではないかと邪推されるとのこと。
また、それ以外にもユリアとは、正確にはグラキエス家とは密約を交わしており、表立っては中立でも裏ではイグニア派閥よりとなっている。つまりは普通に考えればイグニアにそれとなく利となる行動を取ってもらわねばならないということだろう。
「だが、面会を取り付けたのはそちらだぞ」
「わかっております。ただ、あくまでイグニア様の意向から外れないようにとだけ忠告させてもらいます」
そして俺とユリアの視線が静かにぶつかり合う中、ルーレットの速度が落ちていき。
『決まりました!!四日目のステージは―――』
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