第457話 動き出す者達

「待て待て、話が急だ」


 ダンテのいきなりの言葉に困惑する。


「いや、話は至極簡単だよ。私が私の目的のために、君の近くにいる、ただそれだけだ」


 だが、当のダンテは全く難しい話ではないと断言する。


「……こちらの意思は無視か」

「無視ではないよ。近づくなと言われれば、君が知覚できる範囲には近づかない。もちろん、その外にはいるだろうけど」

「はぁ」


 こちらはまだ信用できない人物には近づいてほしくない。だが、同時に目の前のダンテを排除できるとも思えなかった。


「私はある人を探していて、お嬢さんの能力でバアルの傍に居ればいつか会えることがわかった。だから私は君の傍に居る、ただそれだけの事」

「そんなに会いたいのか?」

「ええ、たとえ、この国と引き換えに会えるとなれば、滅国を行うくらいには」


 ダンテの言葉に周囲は軽く笑うが、俺は笑えなかった。


(おそらく、本当にできるな……)


 なぜかは説明できないが、本当にダンテが国を落とせるのが理解できていた。


「ああ、もしバベルを殺す、あるいは害を加えると思っているなら見当違いだよ」

「だろうな」


 さっきの話が本当だとするとダンテの目的は俺の近くにいること。だとしたら、俺を害する目的とは程遠くなる。


「もちろん迷惑を掛ける気はないから安心してほしい」


 そう言い、酒を口に含むダンテを見て、考える。


(正直、信用が出来ない強すぎる奴は爆弾とも考えられるが、今回相手の思惑がはっきりしている。それも好都合なことに俺の傍に居ることと来たか……)


 ダンテは俺の傍に居ること、裏返せば俺が生きていなければいけない事、それは俺が死にそうなときはそれを守らなければいけないという意味でもある。言ってしまえば近くにいるのなら予定外の護衛とも取れる。


 だが、問題はその反面、ダンテが何かしらの理由で敵対した時、俺の戦力で対処できるかどうかが問題だった。いくらこちらに敵対しにくいとはいえ、したときの保険が用意できない相手は傍に置きたくなかった。


(だが…結局……そうだよな…………)


 頭の中で思考を続けると出てくる答えはほぼ同じものだった。


「ダンテ、お前は俺の近くに居たい、そうすればお前の探し人に会える、それであっているか?」

「その通り」

「なら、俺の食客になるか?」


 俺の考えとしてはこちらが拒否してもダンテが勝手に付いてくると考えた。なら、最終的には傍に置いて監視し、管理する方が楽だと判断した。そしてその際の選択だが、大まかに二つ、従者や部下か食客といったアシラ達と同じ扱い。


 その中で、さすがに自分よりも弱い相手に従うことは難しいと考えて食客で勧誘した。


「いいよ」

「……ずいぶん軽いな」

「私としては近くに居れれば問題ない。もちろん部下は断るけど」


 やはりダンテは部下になるのは嫌らしい。


「ちょっと、ダンテ」

「シャンナ、さすがにこれは変えられない」

「じゃなくて、それに私もついていくから、あとこの酒場の残りの期間はどうするつもり?」


 ダンテは謝るが、シャンナは全く的外れな回答を行う。


「えぇ?!シャンナちゃん、いなくなるのか!?」

「そこまで驚くこと?私、ダンテの演奏で踊るのが好きだからついていくつもりだったわよ」


 シャンナの言葉にロックルは驚愕の表情を浮かべて驚く。


「私はダンテの音に惚れたから、ダンテの音で踊っていたいの。それとダンテは大会が終わるまではこの酒場で演奏する契約でしょう?それはどうするの?」


 シャンナが決定事項とばかりに宣言すると、ダンテに今後のことを問いかける。


「バベルは、大会が終わるまでは此処にいるよね?」

「ああ」

「なら、契約は守るさ」

「そう、わかったわ」


 こうして話がまとまり、ダンテが食客になることを了承し、それにシャンナがついてくる形となった。


「くそっ!こうやってイケメンがかわいい子を連れて行きやがる!!」


 シャンナがダンテについていくことが決まると、ロックルは子樽を一気飲みして憂さ晴らししている。


(……丁度いいか?)


 ロックルのあまりの様子に一つの考えが思い浮かぶ。


「なら一人、飛び切りな美人・・を紹介してやろうか」

「え?」


 ロックルはこちらに提案にキョトンとした後、疑うような目つきになる。


「バアル……様の提案はなんだか怖いんだが」

「こちらとしては、お前が誰かとくっつけば落ち着くと思って提案しただけだ」

「ぅぐっ、だ、だが、俺を相手にしてくれるやつか?」

「安心しろ。そいつは優秀な奴であれば欲情する奴だ。お前が有能だと理解すればすぐに食いつけると思うぞ」

「ど、どうやって俺が有能だって証明するんだよ」

「簡単だ、お前は小物づくりが得意だそうだな?」

「ああ、そうだが?」

「なら、明日が作った中でも最高傑作と思える代物をいくつか持ってこい。実用的な物、観賞用などは問わない」

「最高かぁ~~よし、わかったぜ!!」


 ロックルはまだ見ぬ美人を夢想して、いやらしい笑顔を浮かべる。


「…………」


 そして視界の隅で話を理解したリンが何やら物申したい視線を送っていた。








 その後は、各々が酒や料理、新たに踊り場に出てきた楽団の芸を楽しむ。もちろんその裏でダンテやシャンナと打ち合わせしておくことも忘れない。


 そして楽しい時間が過ぎればそれぞれの宿に戻る時間となった。















 時間も程よく過ぎ、ホテルに戻るとそれぞれは程よく疲れ酔いが回っているのかそれぞれが自室に戻っていく。


「ふぅ~~~いるか?」


 例に漏れず、俺も自室にも戻る。軽く楽な格好になり、ソファに座ると、誰もいないはずの空間に声を掛ける。


「いる」

 シュタッ


 こちらの声に返答すると、アリアが現れた。


「夜伽は、しない」

「安心しろ、頼むにしてもお前じゃない」


 背後で身じろぎの音が聞こえてくるが、無視する。


「じゃ、なに」

「今晩、指示を出すと言っていただろう?それよりもルナはどうした?」

「いま、ホテルを、確かめてる」

「あいつがか……」


 ルナがホテルを確認しに回っていると聞いて少々不安になる。


「大丈夫、タイチョ、危機にだけ、誰よりも敏感」

「なら、いいがな、それでいつ戻る?」

「伝言?」

「いや、直接伝えたほうが早い、少し待つとしよう」


 俺はソファに座りながら、窓から差し込む三日月を眺める。


「あのバアル様、この方は?」

「アリア、よろしく」

「あ、はい、よろしく」


 リンと共にこの部屋にいるノエルがアリアを見て、疑問の声を上げる。


「一言で言えば暗部の人間だ。ノエルはいつも通り、無断で侵入する奴の対処をしてくれ」

「わ、わかりました」


 俺の部屋に備え付けられている小部屋にはリンとノエルが寝泊まりしている。その理由は双方とも暗殺などの備えのためだ。リンは足具でそしてノエルは糸でとなる。


「アリア、お前も下手に侵入するなよ、ノエルの糸で拘束、下手すれば死んでも俺は何も言わんぞ」

「わかった」


 アリアは冷静に肯定する。


 ノエルは糸の扱いのほかに、様々な罠を作り出し方を学んでおり、中には明らかに殺傷目的としたものもある。そしてそれは罠であるため、ノエルが注意を向けてない間でも自動的に発動してしまう。


「お待たせしました、およびと聞いて参上し、わわ!?」


 ルナが窓から飛び込んでくると、窓枠に沿って配置されて糸の罠がルナに反応して、ルナの右足と左腕を拘束して宙吊りにする。


「こうなるからな」

「見本になる」


 俺はルナを指差し、アリアは納得とばかりに頷く。


「……あの~下ろしてくれませんか?」

「ノエル下ろしてやれ」

「はい」

「ふぎゃ!?」


 ノエルが指を動かすと、拘束している糸が動き、ルナが顔面から床に激突する。


「゛~~~~、くぅぅ~~~」

「頼むから、アリアはこうなるなよ」

「なりたくても、無理」

「二人とも酷すぎません!?」


 痛みが治まったのか、ルナが飛び上がる。


「茶番は終わりにして、指令がある」

「…………聞きましょう」


 色々と文句を言いたいと顔に書いてあるが、仕事の話になったことにより飲み込んだ模様。


「指令、の前に確認だが、ルナ、お前の部隊は今どんな動きをしている、そして動かすならどの部分をおろそかにするつもりだ?」

「え?えぇ~と、動くのはおそらく私とアリアちゃんとなります。そして現在はホテル内にほかの子たちを配置しているのみです。ですがこのホテルには私たち以外にも部隊が用意されたので、言ってしまえば全員を動かしてもとりあえずは問題ありません」

「そうか、なら今から上げる二名を監視してほしい、名は―――」


 名を告げるとルナたちは早速とばかりに行動し、部屋の中から彼女らの音が消え去った。


「さて、寝るか」

「はい」

「私は部屋に戻ります」


 ノエルが用意されている侍女部屋に入ると、しばらくして再びその扉が開き、両方の部屋から寝息が聞こえるようになった。

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