第456話 ダンテの再会、そして――

 ♪~♪~~……

 スタッ

「「「「「「ォォォオオ」」」」」」


 酒場内に響く演奏が終わると、シャンナの踊りが終わり、観客が声を上げる


「さて、聞きたいことも終えて余興も済んだことだ。俺達は帰らせて―――」

「いや、次は私と歓談してほしい」


 立ち上がろうとすると、背後から聞こえた声で動きを止める。


ダンテ・・・……なんでここにいる」


 ゆっくりと振り向き、姿を確認する。そこにいたのは黒が深い銀色の髪を持つ詩人、ダンテ・ポールスだった。


「ん?なんで・・・とはどういうことだい?」

「急に現れれば、なんで、というだろう」


 俺は何かに違和感を感じながらダンテに返答するのだが、当のダンテは困惑するばかり。


「そのようす……ああ、酔いで感覚がぼやけているんだね」

「やっぱり気付いていなかった」


 ダンテがこちらの状態を見て断言すると同時に、ロザミアがやはりと呟く。


「ロザミアは気付いていたのか?」

「ええ、酒場に近づく際にね、というか、接触目的でわざと近づいているのだと思っていたよ」


 道中でロザミアはダンテの気配に気づいていたようだが、俺の目的にダンテも入っていると考えて何も言わなかったという事。


「クラリス」

「はいはい、『浄化』」


 俺はクラリスの『浄化』により、酔いを醒ます。そして次に感じるのは以前感じた、あの強大なアルカナの気配。


「……確かに、意外に酔っていたみたいだな」


 気配を感じられないほどにぼやけていたことに、表には出さないが驚く。


「それで、話とはなんだ?」

「いやいや、そんな邪険に扱われると悲しいものだね。私の意思は単純、せっかくの機会だからバベルと仲を深めたいと言うだけだ」


 ダンテはそういうと、腰にあるポーチから、明らかに体積以上になる酒瓶を取り出してテーブルに置く。


「亜空袋か、持っていても不思議ではないな」


 ダンテ程の実力者であれば持っていても何らおかしくない。


「こ、こ、これは!?」


 俺が亜空袋に注目していると、ドイトリは置かれた酒瓶を見て驚愕の声を上げる。


「知っているのかい?」

「知っているどころか酒好きの中では、まさに幻じゃい!!!!!」


 ドイトリは震える手で酒瓶を触り、本当に本物なのかを確かめる。


「ま、間違いない。数百年前に滅びたオウカ帝国の金酒、それも帝王が認めた判も押されておる…………本物の本物じゃ」


 酒瓶に貼ってあるラベルを事細かく調べて、ドイトリはそう決断する。


「こ、ここんなところで出す代物じゃないぞ」

「いいさ、バベルと仲を深められるのなら」

「!?」


 ダンテの軽い返答にドイトリは固まり、口を何度も開閉し続ける。


「どうだい、滅びた国の幻の酒を楽しもうじゃないか」

 キュポン!

「あ゛あ゛ぁ!!!」


 ダンテが気軽に栓を抜くとドイトリはまるで心臓を引き抜かれたような声を上げる。


「ほら、夜はこれからだ楽しむとしよう」

「私にもいただけるかしら」

「どうぞ、お嬢さん」


 あまりにも貴重な酒に興味がわいたのか、クラリスがコップを差し出すとダンテは気前よく、注ぎだす。注がれた酒はビールの様な透き通る金ではなく、本当に金を鋳溶かしたような底が見えない金色の液体だった。


「ご、後生じゃ、わし、儂にも一杯くれまいか?」

「いいよ」

「あ、ありがたい」


 ダンテはドイトリのコップにも注ぎ、そして俺のコップにも注ぎ始める。そしてその後、全員に注ぎ終えると、ダンテが音頭を取る。


「さて、ではそれぞれの健勝を願いまして、乾杯」

「「「乾杯」」」


 ダンテの声に合わせてそれぞれ金酒を口に含みだす。


(っ!?うまいな)


 酒を口に入れて最初に感じるのはまるで極上のうまみだった。その後に続くのが軽い辛さと軽い苦み、そしてそれらが収まると次に感じるのはやんわりとした甘みと爽快感だった。


「…………生きていてよかったわい」


 ドイトリは一口飲むとしばらく止まり、その後に感嘆の声を上げる。


「っ!?すげぇうめぇな、どこで手に入るんだ?」

「いや、もう手に入らないよ」


 アシラが酒を飲み、ダンテに問いかける。だがダンテはその問いかけに残念という答えを返す。


「手に入らないとはどういうことだ?いくら国が滅んだとしても工房や手法は残っているだろう?」


 国が滅んでも、そのすべてが無くなるわけではない。当然価値があると判断すれば、攻めた国は工房を壊すこともしないし、製法を無くすこともしないだろう。


「それとも天災で国が滅んで製法が失われたのか?」


 それならばという考えで問いかけると、ダンテは面白いとばかりに薄く笑った。


「そうだな天災・・によって滅びた。今、その国の跡地は海の底に沈んでいる」

「そうか、なら残念だ」


 災害によって、国が滅びたのなら、手法や製法が失われているのは仕方がない。それも特産ともいえる代物だった場合、製法は厳重に管理していため、知っている者は数少ないだろう。そして数が少なければ、災害の時に手法が失われていても何もおかしくなかった。


「ダンテ」

「ん?」


 各々が失われた幻の秘酒を味わっているとダンテに話しかける人影が現れた。


「えぇ!?」


 話しかけてきたい相手を見てロックルは驚く。


シャンナ・・・・か、どうした?」

「どうしたじゃないわ、なんで演奏し終わったら楽屋にいないのよ」


 ダンテに文句を言っているのは先ほどロックルが夢中になってみていた踊り子、シャンナだった。だがステージの時とは違い、今回はしっかりとした服を着ていた。


「許してくれ、少しばかり交友を深めたい相手がいたからね、先に始めていた」

「しかもそれ、以前見せてくれた酒じゃない。私がお願いしても飲ませてくれなかったのに」


 シャンナは空になった酒瓶を指差してダンテに詰め寄る。


「許してくれ」

「いえ、許さないわ」


 シャンナはダンテにさらに強めっていくのだが、ここで声を上げた者がいた。


「おいおいおい、おまえ、シャンナちゃんと、どういう仲なんだよ!!」


 いつの間にかダンテの隣にいるロックルがダンテの肩に手を置いて怖い顔をして詰め寄る。


「シャンナの演奏を担当をしているだけさ」

「それだけか~~?明らかにそれ以上に親密そうだが?」

「安心してほしい、私が求めている女性は彼女じゃない」

「っ!?」


 ダンテの何気ない一言でシャンナは悲しそうな顔になる。


「てめえ、なにシャンナちゃんを悲しませてんだよ!」

「いや、それはどうしろと」


 ロックルの理不尽な詰め寄りにダンテは困惑した表情を浮かべる。


「ん~んん~~~~~??」


 そしてそんなやり取りを見ていると、レオネが何やら疑問の声を上げる。


「ねぇねぇ、ダンテ」

「なんだい、獣人のお嬢さん」

「探しているのは?」

「!?」


 レオネが頭を傾げながら何気なくつぶやいた言葉にダンテは驚愕の表情をする。


 ヒュン

「少し失礼」


 そして次の瞬間、ダンテの姿が掻き消え、レオネの背後に立つと、後頭部に手を当てる。


「っ!?そうか」


 何かわかったのか、ダンテはゆっくりとレオネの頭から手を離す。


「君の能力は」

「しぃ~~」

「……そうか、わかったよ」


 能力についての話になると、レオネは口に指を当てて、ダンテを口止めする。


「お嬢さん、どこでなら私は彼女に会える?」

「ん~~バアルの近くだね。すぐなのか、かなり後なのかはわからないけど」


 二人は、同じことを考えているように話が続いていく。


「そうか……バアル」

「なんだ?」

「これから私は君の傍に居る。力を貸してほしい時は遠慮なく言ってくれ」


 なんてことないダンテ言葉に俺は一言しか返せなかった。


『は?』

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