第449話 雪辱戦の決着
『アシラ選手、先ほどと変わって、攻める、攻める!!ヒエン選手の刀を掴み!!そして――』
「しゃあ!!」
ドパン!!
アシラは掴んだ刀とリョウマを強引に背負い投げの要領で背後の砂場に、叩きつける。
「……ちっ」
「おいおい、舌打ちしたいのはこっちだ」
シュタ
リョウマは途中で刀を離し、空中で何度か回転して、距離の空いた場所に降り立つ。
「それなりの名刀なんだが、その威力で叩きつけられればな」
ビギギッ、パリン
アシラが掴んでいる刀は砂場に強引に打ち付けられたためか、刃の全身にひびが入り、最終的に粉々に砕け散った。
「……こんなやわな奴で俺を斬ったりできるとはな」
「それが刀ってものだ」
リョウマはそういうと、片手持ちしている刀を両手で構え始める。
「だけどな、手数は減ったが、その分威力は増すんだよ!!」
リョウマは両手持ちにしたままアシラへ向かって疾走する。
「こいや!!」
「はぁ!!」
そして再度二人はぶつかり合うことになる。そしてそこからは獣と人、ではなく、人と人の、技術と技術のせめぎ合いが始まった。
「驚いた、あそこから持ち返すとはな」
カーシィムはステージ上で熊の姿のまま、しっかりとした技法を取っているアシラを見て、呟く。
「……元々、それなりのポテンシャルは持っていたからな、それが強敵との戦闘で開花したというところだろう」
カーシィムの背後でユライアは何ら不思議ではないとばかりに口を出す。
「ふぅん、ユライアは勝てるか?」
「ああ、確かにあの姿は脅威だが、今回の大会においては私が圧倒的な優位を得るな」
そして二人の会話は続いていく。カーシィムの興味はアシラやリョウマと戦ってもユライアが勝てるかどうかに向いていた。そして――
「バアル、少し相談なのだが」
「勧誘に手を貸せと言う話なら断る」
ユライアとの会話が終わり、本格的にアシラに魅力を感じてきたのか、カーシィムは笑顔で問いかけてきた。
「だが、君の部下ではないのだろう?なら橋渡しぐらいはお願いしたいが?」
「断る。そもそも、アシラはああ見えて、アルバングルにおけるそれなりの立場だ。やすやすと売り渡すような真似はできない」
アシラやテンゴ、マシラを見ていると、とてもそうは思えないのだが、彼らはラジャの里、テスの里と立ち並ぶほどの大きな氏族の長なのだ。そんな彼ら、正確にはアシラという跡継ぎをカーシィムの毒牙に掛けさせるような真似はまずできない。
(テンゴも、マシラも同じ理由で、できない。というよりもそれ以前の問題だが)
「ああ、安心してくれ、さすがに結婚している人たちに手を出すことはない」
こちらの視線で思っていることが分かったのか、カーシィムは苦笑しながら答える。
「だが、そうか……なら、バアルを通さないで誘うのは?」
「……護衛は付けるが、それでもいいなら考えよう」
俺はアシラをカーシィムに紹介する気はない。だが肝心のアシラが、俺を通さないで来た誘いに乗ったときに、俺はそれを止める手段を持たない。
(……いっそのこと、別の奴でも宛がうか?俺達とは無関係でいなくなっても惜しくない奴を)
変にカーシィムのちょっかいが掛からないように案山子を用意するのも有効な気がしてならなかった。
『おおぉぉ!!!ヒエン選手の攻撃がアシラ選手に直撃する!!!』
「なら、決まりだ。クヴィエラ、彼を誘う準備をしておいてくれ」
「かしこまりました」
カーシィムの
「おらぁ!」
「『緋炎流・木暮雀』」
アシラは正面から正確なパンチを繰り出すが、リョウマは足元から飛び出るように刀を振るい、アシラのパンチは若干上にズレる。
ギャギャギャ
「ちっ、『緋炎流・赤鷹爪』」
そしてリョウマは逸れたパンチを掻い潜り、アシラの死角を通ってアシラの真横まで来ると、アシラの頭目掛けて刀を振るう。
「ふっ」
だが、アシラは慌てずに対処する。すぐさまリョウマから距離を取るように動くと、パンチを繰り出した腕を即座に引き戻し、腕を犠牲にして頭を守る体勢へと入る。
ギャギャギャリ!!
刀は歪な音を立てて、うまくアシラの腕の表面を撫でるように通り過ぎていく。
そして――
『息を付けないほどの攻防!!だが、一度息を整えたいのか、ヒエン選手が大きく後退する!!さて、今後はどうなる事やら!!』
リティシィの実況で観客が沸く中、ステージ上の二人は静かに言葉を交わす。
「はぁ、その毛皮はなんなんだよ。まさかもう一本刀がだめになるとはな」
リョウマはそういうと、両手に持っていた刀を軽く眺める。
そしてその時の刀の状態はホログラムではっきりと見ることが出来た。刀には多くの刃こぼれがあり、鍔はほとんど削れており、機能しなくなっている。また刀の表面には多くの紐のような鑢で削られた跡が残っており、場所によっては明らかに折れるような削られ方をしている箇所が存在していた。
「これは俺の知り合いが作ってくれた特注品の名刀なんだが、まさかこんな壊され方をするなんてな」
リョウマはこれ以上は使い物にならないとばかりに、砂場に突き立て、そのまま放置する。
「いいのか?まだ、使いようはありそうだぜ」
「わかっていながら聞くな。壊された瞬間が隙になるなら、無い方がいいに決まっているだろう」
「だな」
アシラはわかっていながら問いかけたのか、笑顔になりながら同意した。
「それにしても、お前は剣士の天敵だな。正直に言うなら、その毛皮で鎧を作りたいぐらいだぜ」
「ん?それなら俺達の故郷に来るといい。数はすくねぇが、俺の元となった奴がいるはずだぜ」
「マジで!?」
二人は今が大会本戦中だということを忘れているのか、気軽に雑談をしている。
『あ、あの~ご歓談中悪いのですが、ここは戦う場所なので~~』
「おう、わりぃなリティシィちゃん!」
「すまんな、すぐにこの熊の首を取るから待っててくれ」
ブ~~~~
思わずと言ったリティシィの言葉に二人とも笑顔で反応する。そして笑顔の理由が下心だと思われたのか、二人にブーイングが飛ぶことになった。
「さて、だが、本当にそろそろ決めないとまずそうだな」
現在、ステージの膜は残り直系10メートルほどしかなく、二人がいかに長く戦っていたかを物語っていた。
「で、どうすんだ?このままだとお前は武器を失って、逃げ場もなくなる。そうなれば俺の勝ちだぜ」
「安心しろ、その可能性は低いからよ」
そう言うとリョウマは生み出した手に持っている刀を両手で持つと、思いっきり大きく振りかぶる。
「……ん?それだけか?」
「ああ、来いよ。ビビっているのか?」
リョウマは刀を大きく振りかぶり、その状態で静止したままとなる。
『リョウマ選手、完全に待ちの構えになってしまった。だがこのままでは投擲とかされて……あ!!』
「確かに、初日の様な石畳なら砕いて投げるという方法もあったが、今日のステージは
ステージの上は完全に砂漠の様になっており、岩はもちろんある程度大きな石すら見当たらなかった。
「できて砂掛けだろう?なら、変に引き延ばすより、手っ取り早く終わらせようぜ」
「いいぜ、乗ってやるよ」
その言葉にアシラは少しづつ近づき始める。そしてリョウマの射程ギリギリまで近づくと、そこで一度動きを止めて、慎重になる。
そして
「ガァア!!」
「『緋炎流・日輪鳳』」
アシラは、最速で動き、リョウマ顔面に向けて、渾身の右ストレートを放つ。それに対してリョウマはアーツを発動させ、刀が赤色から白色へと変化すると、この試合最速で振り下ろした。
ギィザン
「っっ、ちっ」
バギャン
その結果だが――
『競り勝ったのは!!ヒエン選手だ!!!刀はアシラ選手の肩に深い傷を負わせる!!』
正確には少し違う。振るわれたリョウマの刀は、アシラの拳、親指の部分を斬り飛ばすと、威力が減衰したのか、右肩、丁度鎖骨と上腕骨の間に部分に刃が入り、ほぼ半ばまでを綺麗に切断した。
『っ!?だが、マシラ選手も負けてない!!剣が自身の体を通過し終わるタイミングを計り、真横から蹴りを加えて緋炎選手の剣を半ばから叩き折った!!』
そしてアシラもやられているだけではなかった。自身の肩に深い傷が入った次の瞬間、リョウマに向けて左足で蹴りを行った。また、リョウマもそれをわかっているのか、すぐさま後ろに飛ぶ。だが振り抜いたばかりの刀がまだ残っており、それが避ける前のリョウマの場所にあったため、綺麗に折られてしまった。
今の二人を一言でいうならば、痛み分けだろう。アシラは右腕が動かせなくなり、リョウマは無事な刀が一本になってしまった。
「……なぁ」
「なんだ?」
「楽しいな」
「……だな」
二人はそれだけ会話をすると、再び、先ほどの距離感で同じ構えを取る。
『っっ~~~、これは最後、絶対に最後になると予見できます!!』
リティシイはそれだけを告げると、口を閉ざして、二人を凝視する。そして場の雰囲気がそうさせたのか、コロッセオ内は無音になり、二人が動く瞬間をこれでもかと待ちわびていた。
それはほんの数秒だったのに対して、感覚では数分、数十分にも感じられただろう。
そして、二人は動き出す。
「『剛爪手』」
まず決定的な動きを見せたのはアシラだった。この試合始めて
「『緋炎流・日輪鳳』」
それに対して、リョウマも動く。最後の刀を振り下ろす。
ザシュ!!
『き、決まった……リョウマ選手の斬撃がアシラ選手に当たる!!』
そして結果なのだが、リョウマの刀はアシラの手首を切り落とし、そのまま左肩から心臓に目掛けて刀がアシラの体に埋まっていた。
これで誰もが勝者は決定したと思った、次の瞬間―――
「っ!?」
「ま゛、だ!!」
アシラは動き出す。刀をその身に埋めたまま、前に進むと――
「ガァ!!」
ブシュ!!
アシラはリョウマの首筋に噛みつき、そのまま地面に押し倒す。
「がはっ、死にぞ、こ、ない!」
「グゥルル!!」
リョウマは刀を押し込み、アシラは首筋により強く噛みつく。
そんな状態が数秒続き、光の粒子になったのは――――
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