第450話 有能な新人

『決着!!決着です!!!この試合、この大接戦を制したのは……アシラ・・・選手!!!!』


 ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 リティシィや観客の大歓声が、ステージ上のアシラを包む。


『いや~すごいですね~、まさに死中に活を求めるって奴でしたね。それに今回でアシラ選手はリベンジを果たせましたし、できれば次回にも同じような戦いを――』


 リティシィの感想が語られる最中、アシラの体は光に包まれて、全快する。そして体だけではなくステージ上にある壊れた刀含めて光の粒子になったリョウマは、体も装備も完全に元の状態でステージの外に投げ出された。


「どうやら、勝てたようだな」


 その様子を見て、カーシィムは何てことの内容に口を開く。


「リョウマが即座に決めなかった油断があったこそだろう」


 リョウマが最初から全力で戦っていたのであれば、おそらくその段階でアシラは負けていただろう。序盤はそれだけ実力差があった。


「さて、終わったので戻るとするが、何か言いたいことはあるか?」

「いや、言いたいことはすでに言った。もしほかに何かを言う必要があるとすれば、今後ともよろしく頼む、ぐらいだろうな」

「そうか、では邪魔をしたな」


 淡白なやり取りを終えると、俺はそのまま立ち会がり、部屋を出ようとする。


(向こうはむしろ仲良くなったらしいな)


 立ち上がり、移動しながらステージに視線を向けると、ステージを降りたアシラがリョウマと談笑しながらグラウンドを出ていく姿が見えていた。


















「「はははは!」」


 本戦が終わり、元の貴賓席に戻るのだが、なぜだか部屋の中にはアシラと対戦相手のリョウマがその場にいた。


「アルベール、なんであいつがいる?それとあの三人・・・・はどこだ?」


 俺は貴賓席にいるはずのイグニア、ユリア、ジェシカがいないことをアルベールに訊ねる。


「少しばかり所用があるらしく、先に退室していきました。アシラさんは見ての通りです」

「用事の内容は?」

「はい、どうやらネンラール第一王子と何やら話すことがあると」

「……この時間なら、色々と用事もできるだろうな」


 貴賓席から空を見上げると、そこは赤になりかけだがまだまだ青い空が見えていた。


「しかし、まだ時間がありそうなのに、ここでやめるんだな」

「マシラ様、それはですね――」


 マシラがこちらの言葉に同意なのか疑問を呈すると、たまたま室内にいたアギラが答える。


 やや、要約して答えると、本戦は予選とは比べ物にならないほど、疲労が溜まりやすいという。そのため本戦、それも勝ち上がってきた実力者と戦闘した後、観戦して分析するという流れだと、序盤に戦闘した者が疲れたまま観戦し、終盤の選手は前回のまま観察することが出来るという差異が生まれてしまう。その差をなくすために初日と二日目以降は大きく時間にゆとりを取り、できるだけ差異を無くそうとしているという。


「死んだ者は体が元に戻ると言うのにか?」

「はい。何も蘇った際は完全に元通りになっているわけではありません。もちろんそうすることもできるらしいのですが、その場合は試合が始まった後の記憶も消えてしまうのです」


 アギラの言葉に納得する。完全に元通りにしてしまった場合、疲労は消えるだろうが、その分記憶なども消えてしまうという。


(つまりは回帰ではないと言う事か。となると考えられるのは、回復の類か、それとも体を複製してから記憶だけ上書きさせたのか、それとも―――)


 アギラの言葉でステージの効果を予想し始めてしまう。


「―――おい、お~い、バアル」

「ん?なんだ?」


 アギラの話を聞き、グラウンドにできているステージを見て言うと、横からアシラに声を掛けられる。


「あとでヒエンと飲みに行きたいんだが、いいか?」

「……俺も少し聞きたいことがある、同席していいか?」


 俺はアシラに直接返答せずにリョウマに問いかける。


「おお、なら手間が省けました。こっちも聞きたいことがあるので」

「ヒエン、お前なんで敬語なんだ?」


 リョウマが丁寧な言葉で俺に応対するとアシラが疑問の声を上げる。


「アシラ、普通はこうだ。と言っても、そちらもそれなりの立場らしいがな」

「いえいえ、私は逃げ出して・・・・・きた身、すでに身分など無いに等しいのですよ」

「……もう一つ聞きたいことが増えたな」


 その後、お互いで段取りを取る。結果、一度全員がホテルや宿に戻り、一息ついてからリョウマがホテルイムリースに訪れる手はずとなった。

















 その後、俺や獣人を乗せた馬車が何台もコロッセオを出立し、近場にあるイムリースへとたどり着く。そして獣人達や騎士達、そしてヴァンに休息の指令を出すと、そのまま自室に戻るのだが。


「ど、どうもで~す」

「やっぱり、ルナか」

「予想が当たりましたね」


 俺の自室ではルナが椅子に座り、行儀良くしていた。


「なんか、がっかりしていません?」

「していませんよ」

「若干な」


 リンはルナに気を使ったのか、否定するが、俺ははっきりと言う。


「うぐっ、そう、直接言われると、こうグサリときますね……」


 ルナはそういうとしょんぼりとする。


「安心しろ、それはお前に言ったわけではない」

「え?」

「俺はお前たちの人員を良く知らない。だからこの機に新しい顔を見ておきたいと思っただけだ…………言いたくないが、実力は疑っていない」


 ルナはこちらの言葉を聞くとしょんぼりした顔から嬉しそうな笑顔に早変わりする。


「そういう事でしたら、ご安心ください。クメニギスの一件があってから私は昇進しました。なので、今では数人の部下を率いている長ですよ」


 ルナはそういうと、上を向く。


「降りてきて」

(世辞でここまで浮かれられるのはある意味才能だな。あと、隠密組織が軽々しく顔を晒すなよ)


 だが、その部下から言葉での・・・・返答はなかった。


 ヒュン!!

「え…………え?」


 どこからか投げられたナイフは、ルナの横髪をスレスレを飛んでいく。


「ちょ、何なの!?確かに私よりは微妙な顔つきだったけど、!?」

 ヒュン

 ヒュン

 ヒュン

 ヒュン


 ルナの余計な一言で、さらに数多くのナイフがルナ目掛けて放たれる。


「ふふふ、まだまだ、狙いが甘、『ガゴン』ぐぇ」


 ルナが、何度も放たれているナイフを飛び回り避けていると、頭上から何個も重ねられている金属製のトレイが落ちてきて、ルナに直撃する。


「くっ~~~」

「馬鹿タイチョ、私達、気安く、顔見せない」

「だからって、これ、っ~本当に痛いんだけど、アリアちゃん」


 しゃがみ込み、頭を押さえているルナの傍に一人の少女が降り立つ。


 少女はアリアと呼ばれている。残念ながら黒を基調とした顔を隠す服装をしており顔はわからない。体格はごまかしているだろうが、それでも相当に小柄な女性と言ったところだ。そして女性だと判断したのは声色だけだった。


「おい、ホテル内で敵もいないのに刃物を扱うな」


 さすがに高級ホテルとは言えども、部屋を傷つければ請求されるだろう。


(まぁ、グラキエス家が払うため、俺には関係ないが)

「ん、いくら?」

「さぁな、だがこの部屋だ金貨数枚は普通にかかるだろう」


 いくらナイフに寄る、うすい傷跡だとしても、部屋自体が高級なため、確実にそれなりの料金になる。


「りょ、待ってて」

「ちょっと、アリアちゃん!?」


 アリアは一瞬だけルナに近づくと、素早くルナの懐から何かしらの袋を取り出す。


 ジャラジャラ

「はい」

「アリアちゃん!?」


 アリアと呼ばれた少女は袋をそのまま差し出してくる。


「……冗談だが、仕方ない」

「バアル様!?」


 俺は袋を受け取ると、袋の中から10枚ほど金貨を取り出してアリアに渡す。


「ほら、これで存分に働いてくれ」

「ん!任せて」


 アリアは掌に置いてある金貨を眺めてフンと鼻息を荒げる。


「ほら、返す」

「いや、あの、そっちも」

「侮辱した部分と相殺、あとは今後の働きに期待するということで良いだろう」

 コクコク

「そんな」


 俺は残った袋をルナに放り放り渡す。


「さて、茶番も終わりだ。グラスからどう聞いている?」


 俺はアホみたいな茶番を終わらせると、ソファに座る。


「……襲撃の件もあり、色々と危険が増えそうだから、バアル様が自ら動かせる人員を要求したと」


 ルナも真剣な話になることを理解してか、痛がりながら椅子に座り、話に応じる。


「概ね、間違いない。ちなみに先日の襲撃はどこまで掴んでいる?」

「一応は、私たちも陰ながら皆様と共にいましたので一通りは」


 さすがに殿下がネンラールに赴くとなれば、影の騎士団も動き出しているらしい。


「なら、暗殺者についてだけに限ると?」

「バアル様がヴァン様を保護したこととその因縁の可能性、先日の襲撃が本戦全員に向けられたこと、ぐらいです。それ以外のことに関しては現在鋭意調査中というところでしょう」


 ルナの言葉を聞くと思わずため息を吐きそうになる。


「それだけしかわかっていないのか?」

「グロウス王国国内ではないですからね、武闘大会に向けて人員が派遣されているとはいえ、やはりネンラール王家の目を掻い潜っての行動は少々厳しいですね。現在が大会中というのもあり、色々と厳しくなっていますからね。それにバアル様の様に公に身分があり、色々と動き回るということは私たちはまずできません」


 ルナたちは秘密裏に行動している、それを考えれば他国、それも大会に寄りネンラール王家の監視の目が強い中での行動は激しく制限されるらしい。


「それでバアル様、私たちは言ってしまえばご自由に使えという風に送り出された部隊です。バアル様は何をさせたいですか?」

「……まずはこちらの情報のすり合わせだ」


 ルナの問いかけに応えると俺はカーシィムからもらった情報(襲撃の件のみ)と、オーギュストからもらった情報を渡す。


「『黒き陽』……アリアちゃん、聞いたことある?」

「はぁ、常識。東で、ほぼ伝説」

「え?」


 こちらが情報を出すと、ルナがやや無知なのが分かった。


「…………」

「こ、こんかい、私がネンラールにいるのは例外中の例外ですから!!私は普段はグロウス王国内で活動していますので!」


 ルナがこちらの視線に耐えられなかったのか、言い訳染みた言葉を並べる。


「バアル様、疑問、ある」

「それは後にしろ、その前に聞きたいのが、お前たちは本戦参加者の情報は調べているか」

「いえ、調べろと言われたら、調べますが」

「はい」

「ぇえ!?」


 ルナが遠回しにまだだと言っていると、横でアリアが一つの紙を見せてくる。


「い、いつの間に」

「タイチョ、無能」

「ぐふっ」


 年下のアリアの言葉がダイレクトに聞いたのか、ルナはあまりの言葉の威力にテーブルに突っ伏してしまう。


(…………なるほどな、となると――)


 俺はもらった書類に欲しい情報が書かれていることを確認すると、それを一通り頭に入れ、選手たちの情報を確認し終えると、紙を返して立ち上がる。


「もういい?」

「ああ、役に立った、これは礼だ」


 俺は懐から、1枚の金貨をアリアに渡す。


「ありがと」

「えぇ~なんでアリアにだけ」

「頼む前に仕事が終わって入れば、その分チップは弾んでやるぞ。まぁできればな」

「うぅ~マリアちゃん」

「うざい」

「あぅ」


 ルナは俺から言い換えれば仕事が遅いと言われるとアリアに抱き着こうが、拒否される。


「あ、そうだ。それでバアル様、私たちにどう動いてほしいのですか?」

「それは今晩に指令を出す。それまではひとまず主要な連中の護衛に当たってくれ」

「「了解」です」


 二人に指令を出すと、俺は再び立ち上がり、部屋を出ていく。


(俺で、候補はかなり絞れた。あとは――)

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