第419話 本戦六回戦決着
「攻撃……なの?」
セレナは、空中に飛ばされ好きなように扱われているリョウマを見て疑問の声を上げる。
「まぁ、攻撃だろう。直接的ではないが」
セレナの呟きにイグニアが答えてくれる。
(宙に浮いたまま、様々な方向から力を加えられる。その結果、遠心力が加えられて、四肢や脳、様々な箇所の身体に変則的だがダメージとして与えられるか)
直接的な衝撃ではないが、人の体を痛めつけるという点では何もおかしくない手法だった。
「なぜあんな簡単な攻撃を防がないの?」
「どこをどう見て簡単だと?」
ダラールの攻撃を観察していると、クラリスが隣でそういう。
「……そっか、久しぶりだから忘れていたわ」
「忘れていた?ああ、
クラリスはエルフ、そしてエルフは魔力を見る特殊な目を持っていた。
「何が見える?」
「教えてほしい?」
「……はぁ、何が欲しい?」
「むぅ、別に物を要求するつもりはないわよ」
こちらの言葉でクラリスの機嫌が悪くなる。
「じゃあ、何が言いたかったんだ?」
「……はぁ、もういいわ。糸よ、糸が見えるの」
クラリスはもういいとばかりにおざなりに説明する。
ダラールの剣は魔剣でどうやら切っ先からリョウマの腕の部分に見えない糸が伸びているとのこと。
「腕、腕か」
「ええ、
クラリスの説明でダラールの秘密が理解できた。
そして同時に思う。
(そのことにリョウマも気付いていれば、おそらくは――)
それから試合は次のステージに突入した。
「なるほどな」
右に左に動き、回転し、上下左右が次の瞬間に入れ替わる中、リョウマはなにかを呟く。
「ん?なんじゃ?」
最初に違和感に気付いたのは、リョウマに攻撃を仕掛けている張本人であるダラールだった。
「ん?んん~~?」
ダラールの動きが急に不調になる。
「こうだろう?」
クンッ!!
「ぐっ!?」
リョウマが宙で体を捻り、ある一定の方向を加えると、今度はダラールの剣が動き始めた。
トンッ
「なるほど、
リョウマは警戒に地面に足を付けると、感慨深くそういう。
「ひょひょ…………掴んだようじゃな」
「ああ」
「では……読み合いじゃ」
その言葉で双方が動き出す。リョウマは先ほどとは変わらずに猛接近、対してダラールは何度も剣を振り、リョウマを拘束しようとする。
「もう通じねぇぞ」
「そいつはどうかのぅ、ぬん!!」
ダラールが思いっきり、剣を振ると。
「ぬ!?」
「あめぇよ、どんな形かわかっていれば対策はとれる」
それぞれがただ踏ん張ると言う、当事者同士しかわからない状態となり、会場は困惑の雰囲気に包まれる。
「何が起こった?」
「簡単よ、ダラールは糸をうまく輪っかにしてからヒエンの首に通しただけ」
クラリスに聞くとあっさりと答えが返ってくる。
「なら、どうやって防いでいるかも見当がついているのか?」
「ええ」
「っ!?教えてくれ」
やや離れた場所にいるアシラがクラリスの言葉に反応してこちらに振り向く。
「……見えていないなんて、大変ね……簡単に言うとヒエンは
クラリスがなんてこともないように言うが、こちらとしては見えない分詳細な状況を教えてもらいたかった。
「私が言うよりも見たほうがいいわ。おそらくどうなるかが、わかるから」
その言葉で再び、全員がステージ上に注目し始める。
「おらぁ!!」
リョウマは何度も揺られながらも急速に距離を詰めて、ダラールまであと一歩という位置にまで到達した。
「そりゃ!!」
それに対してダラールも対抗する。剣を振り、リョウマの体を浮かせようとしたり、できるだけ距離を取らせるような動きをさせていた。
だが、どうやらダラールのできることはそれだけらしく結局は――
ギィン!
両者はぶつかり合い、つばぜり合いを始めてしまった。
「くっ、やはり若いって、いいの!!」
「なら、さっさと隠居しやがれ」
徐々にリョウマが押し込んでいく。
「仕方ないの!!」
ダラールは自ら後ろに飛び、距離を取ろうとするのだが――
ピタッ
ダラールの体は中途半端に浮き上がり、制止する。それはまるで
「終いだ『煉絶刀』」
「っ―――」
当然それをやったのがリョウマで、隙を逃がすわけもない。すぐさま追撃に入り、ダラールの言葉を上げさせる前に、右肩から左腰までを両断してしまった。
となれば当然―――
『終了!!終了しました!!第五回戦を勝利したのはヒエン・リョウマ選手!!』
ダラールが光の粒に変わっていくとリティシィの実況で勝敗が付いたことが知らされる。
『実に見ごたえある試合でした、私は―――』
リティシィの言葉が続く中、俺はクラリスに視線を向ける。
「もう少し詳しく話せ」
「簡単よ。あの鎧の肩甲骨あたりから透明な腕が生えたわ。鎧を見てみると、そのために、やや空間が作られているじゃない」
クラリスの言葉で、いまだステージ上にいるリョウマに視線を向ける。そしてクラリスの言葉通りの位置を見ると、確かにその部分だけ模様が入っていた。
(透明の見えない腕か…………これは相当厄介そうだな)
攻撃が見えないというだけで対処は格段に難しくなる。そして、もしあの腕を自由自在に操れるなら、どれだけ手ごわくなるかは想像に難くない。
「らしいぞ、アシラ」
「……ああ、そうだな」
リベンジ相手の手札を覗き見れたことで喜んでいると思ったが、アシラは真剣な表情を崩さずにじっと、リョウマを見続ける。
『それでは~休憩時間で~~す、皆さん。夏場なので水などをしっかりと飲んでくださいねぇ~それでは~~』
リティシィはそれだけを告げるとステージ裏へと戻っていった。
そして――
「次だろう?なら準備しておけ」
「ああ、もちろんそのつもりだ」
リョウマを見て、アシラも静かに闘志を灯していた。
その後、休憩中にアギラがアシラを案内し退室していく。また、それがやや心配なのか、それとも好奇心かはわからないが、テンゴとマシラが共に行ってしまった。
そして、本戦初日最終戦が始まる時刻へとなった。
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