第418話 本戦六回戦緒戦
地面から出てきた何本もの根により、体のど真ん中に大穴を開けられたラジャーネは光の粒子になっていく。
『決着!!またもや逆転劇を見せてもらいました!勝者は“深緑使い”ゼディ選手!!!!』
その光景を見て、リティシイは勝利宣言を行った。
「えっと、何が起きたの?」
セレナが、最後の部分に疑問を感じている。
「見えてなかったのか?」
「はい、最後は一瞬過ぎて……」
近接戦に携わるものでなければ、最後の部分は見えていないらしい。
「わかりやすく言うとだな――」
まず、ラジャーネは四つん這いになっているゼディへとサーベルを振り下ろすのだが、その際の攻撃がいけなかった。
ゼディはカポエラの様な動き、もっと言えばブレイクダンスの様な動きで、急速に足を回して、ラジャーネの振るう手に蹴りを見舞う。
それによりサーベルの軌道がずれてしまい、そのままステージに突き刺さる。そしてその隙を逃さずに、再び体を回して、今度はラジャーネの首に足を回して拘束し、そのまま押し倒したのだった。
「その後は、見ての通り、下から突き出した木の根がラジャーネにとどめを刺したというわけだ」
「へぇ~~」
こちらの説明を聞いてもセレナは何とも要領が掴めていませんという反応をする。
「でも、それで対抗できていたということはゼディの技量はラジャーネよりも上ということでしょうか?」
「いや、予想外の動きだったため、即座に反応が遅れたのだろう」
ほんの一幕を見ただけなので、どちらの技量が云々はまずわからない。
(だが、ゼディには余力がありそうだな)
見ていて思うのだが、ゼディの根の使い方は基本中の基本を駆使しているようにしか感じなかった。
実際、自由自在に操れるのならば、もっとほかにも使い道があるだろうという場面があった。
『それでは皆さん、激闘を示してくれたお二方に激励を~~』
その言葉で拍手の音がそこかしこから聞こえながら、二人は退場していく。
(まぁ、何か隠してもこの先で見せる機会もあるだろう)
「兄さん、次って」
「ああ、相手はどこまで見せてくれるかだな」
まだまだ本戦は始まったばかりのため、今後を楽しみにしながら時間が過ぎていく。
『本日も残りあと二戦となりました!!楽しい時間は流れるのが早いですね~~~と雑談はここまでとして、第六回戦目!“釣剣”ダラール対“赤鬼”ヒエン・リョウマ!!』
試合が始まる時間になると、太陽が大きく傾きかけていた。そんな中、ステージにやってくる人物の姿が見えた。
一人は麻の服になにやらボロボロのサファリハットを被っている、身長が低い老人。装備はやたらと細く反りの入った長い剣を肩に担いでおり、軽そうな革鎧を着ていた。
そしてもう一人は、アシラのリベンジ相手であるヒエンだった。ただ、予選の時とは違い、しっかりとした甲冑に身を包んでおりそして予選の時は一本だった刀が今回は両腰に一本づつ佩いていた。
「変わったな」
グラウンドに現れたヒエンを見ながらアシラはそうつぶやく。アシラも装備を新調したなどと変わった点はあるが、それはヒエンにも同じことが言えた。
「ヒエン……緋炎家ですか」
今度は背後にいるリンから言葉が漏れ出る。
「知っているのか?」
「はい、ヒノクニでは有名な家ですので」
ヒエンとは姓を指してリョウマが名なのは、リンと同じらしい。
「実力は聞いているか?」
「いえ、ヒエン家にリョウマという人物がいること自体が初耳です」
その言葉に眉を顰める。
リンの言葉ではヒエン家は相当有名な家系だと分かる。だが、そこに生まれて、さらにはこの本戦に参加できるほどの実力者が無名なことに違和感を覚えた。
(リンの言葉がすべて本当なら、それなりの事情を持っているだろうな)
『それでは第六回戦始め!!』
リョウマを観察していると、リティシイの声でカウントダウンが始まった。
『始まりました!!双方ともすぐさま接近する!!』
カウントダウンが終了すると、双方とも即座に行動に移る。
そして最初に動いたのはリョウマだった。
「『緋炎流・陽炎』」
リョウマが何かしらの
「しゃら!」
それに対してダラールは長い剣を振り、リョウマを牽制する。
だが――
ヒュン
「ほぇ?」
誰もが剣がリョウマへと当たると思ったのだが、剣はリョウマの体をすり抜けて空振りしてしまう。
『え?えぇ!?剣がリョウマ選手の体をすり抜けた!?』
実際はリョウマの体が剣をすり抜けたと表現できる光景なのにリティシイは逆の実況をする。それほどまでに起きた光景を見て、混乱していた。
「『煉絶刀』」
いつの間にか、ダラールの背後に回っているリョウマが刀を抜いていた。そして
ギィン
「っっかぁ~~~~!!魔具でもないのにこの威力かい!!」
急いで剣を引き戻したダラールは
「しかも、まだ一本しか使っていないとか、かぁ~~若いっていいね~~」
ダラールはそういうと、片足を休ませる楽な体勢を取り、剣を肩に担ぐ。
「あ?諦めたのか?」
「まさか、これからは儂の独壇場になるからな、もう気張る必要はないのじゃ」
ダラールがそういうと、リョウマは面白くない表情をする。
「そうかよ、ならその余裕面を引き剥がしてやる」
「おぉ~こわ」
リョウマはダラールの返答を待たずに、低い姿勢で接近していく。
「若いからか、まっすぐだね~~よっと」
まだ間合いに入っていないにも関わらず、ダラールはリョウマに対して何てこともない様に剣を振るう。
すると――
グン!!
「っ!?」
リョウマは急に横に引っ張られるように転がっていく。
「そんなところで転がっていてもいいのかな~~」
「クッ」
ギィン!!
リョウマが倒れるという絶好の機会を逃すことなく、ダラールは長い剣を振り、大きく反りを作りながら強撃をリョウマへと叩き込んだ。
『な、何が起きたのか、まるで、ダラールがそうしろとばかりに剣を振るとヒエン選手の態勢が崩れ、転ぶ!!そしてその瞬間を逃さずに強い一撃を放つ!!だがーーー』
リティシイの言葉と同時にリョウマは片腕を、最も堅い防具をしている場所で剣を防ぐ。
だが、それでも威力が強いためか、地面に体を擦らせながら数メートルは吹き飛ばされた。
「おぉ~~見た通り堅いのぅ……魔具じゃな?」
「言うと思うか?と言いたいが、魔具なのは認めよう」
リョウマは地面から飛び起きる。
「次はこっちの番だな」
「ふむ、盤上の遊戯であればそうじゃろうが……残念ながら、ここから先はこちらの独壇場じゃ」
「いいや、やり返させろよ!!」
そういうと同時にリョウマは同じように低姿勢で突っ込み始める。
「無駄じゃ」
ダラールは再び、剣を振るが――
「こっちだろう!!」
リョウマは自ら進行方向から外れて、姿勢を保つ。
『リョウマ選手、ダラール選手のよくわからない攻撃を躱す!!そして次は自分とばかりに猛接近する!!』
「それだけじゃな~」
リティシィの言葉の後にダラールが言葉を発すると剣を下から上へと振り上げる。
すると――
ビュン!!
「っが」
リョウマは剣が指し示した通り、真上に打ち上げられてしまう。
「さらにいくぞい!!」
リョウマが宙に打ち上げられると、ダラールはすぐさま剣を縦横無尽に振り続ける。
『ま、回る回る!!!リョウマ選手がもみくちゃにされて回るーー!!』
リョウマは宙に浮いたまま、回転させられたり、上下左右反転したりしていた。
それもダラールの技量なのかリョウマは宙に浮いたまま、完全に遊ばれていた。
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