第417話 本戦五回戦決着

『大鎌!ラジャーネ選手、武器を大鎌に変化させた。これは刈り取ってやるという意志なのか~~』


 リティシイの言葉が当たりなのかはわからないが、ラジャーネは武器を構えながらそのまま木の根に向かっていく。


 そして――


 ザン!!


 迫ってくる木の根を一振りで払うと、ラジャーネは跳躍して、そのまま木の根の上を走り始めた。


「なら」


 だがゼディは慌てずに次の手を打つ。木の根の方向を変えて、ラジャーネに向かわせただけではなくラジャーネが今は知っている木の根からも新たな根を出してラジャーネの妨害を始める。


 それを見て、ラジャーネは再び武器を変える。その姿は――


『今度は二振りの鉈へと変化した!大振りで一掃するよりも、細かく動かせる方を優先したのかーー!!』


 周囲から、そして足元から突き刺すようにやってくる木の根を鉈で切り払い、ひたすら前進する。


「……すごい切れ味だ。だけど……」


 ゼディは近づいてくるラジャーネを注視はするが、それだけだった。ゼディは冷静に様々な方向から同時に木の根を差し向ける。


「はぁ!」


 それに対してラジャーネは一度だけ軽く飛ぶと空中で身を捻り、すべての方向からくる木の根をすべて迎撃する。


『身軽!ラジャーネ選手、木の根の上でも舞う様に飛び跳ねる!!さすがの技術と言えるでしょう。さて、ゼディ選手はラジャーネ選手にどう対応するのか!!』


 少しづつ、しっかりと近づいていっているラジャーネをゼディは観察し続ける。


「これはどうだ」


 ゼディは確かめるように呟くと木の枝が直線的から湾曲に動き始める。


「この動き、っ!!」

「遅いよ」


 ラジャーネがその動きの目的を理解するが、それは一瞬遅かった。


 木の根はラジャーネと一定の距離を取ると、渦巻き状に巻き付き、ラジャーネを根の渦の中に閉じ込める。


『おおっと、ラジャーネ選手が閉じ込められてしまった!!中でどうなっているというのか!!だが、それでもただの拘束であるとは思えません』


 木の根は一切の隙間がない様にラジャーネを閉じ込めている。そのため中の様子が確認できないが、いいことが起きていないのは確かだった。


「これも微妙か」


 ゼディの呟きが聞こえると、根の繭に変化が起きる。


『え?…………ええぇーーー!!』


 根の繭から煙が昇り始めると、次の瞬間、巨大な火柱が立ち上り木の根すべてを焼き払ってしまう。


「っっ」


 ゼディは一瞬驚いた顔をすると、すぐさま目の前に根の盾を作り出して飛んでくる火矢を防ぐ。


「気付かなければこれで終わりだったのですが」

「こっちもわざわざ送り出してもらったからね、成果を上げなければ帰れないよ」


 火柱の中から現れたのは、赤い弓を持っているラジェーネだった。


「それさっきまで火の属性を持っていませんでしたよね?」

「対戦相手である君に言うと思うかい?」


 ゼディが確かめるように問いかけると、誰が聞いてもその通りと思う返答が返ってきた。


「まぁ、思ったよりも効果があったようでよかったです」


 ゼディがそういう。実際、ラジェーネも無傷ではなく、体のあちこちに浅い傷ややや深い傷を負っていた。


『これはわからなくなってきたーー!!ラジェーネ選手は傷を負ったが火の攻撃を仕掛ける。そしてゼディ選手は無傷だが、決定打がなく、少しづつ近づかれている!!』


 リティシイの実況通り、お互いにまだまだ余力をの状況が続いていた。
















「面白い奴らばっかだな」


 テンゴがゼディを見て興味深そうに告げる。


「獣人ではああいった奴らはいないのか?」

「ほぼいないな、似ている奴らはいるが、あそこまでの規模は出したやつはいない」


 獣人の『獣化』に、もしかしたら似ている能力があるかもと思って問いかけるが帰ってくる答えは否だった。


「なら、テンゴ、お前なら勝てるか?」

「戦わなければわからん」


 強者を前にテンゴは不確かなことは言わなかった。


「さて、ほかにはどんな戦い方があるのか」


 テンゴの言葉で再び、ホログラムへと視線を向け始める。


(英雄を生み出すか……あながち間違った方向性じゃないのはこの大会を見ていれば理解できるな)


 もし、今まで参加した選手が100、いや1000人部隊で数人でもいれば十分な決定打を持つ集団へと早変わりすることになるだろう。それこそ一人で凡人100人を相手にすることが容易そうな選手もいた。そんな奴らを集めれば当然軍事力は上がっていく。


(警戒することに越したことは無いな)


 そんなことを思いながら、再びホログラムへと視線を向ける。












 最初に動いたのは火柱から姿を現したラジャーネだった。


「はぁ」


 ラジャーネは姿勢を低くして、疾走する。その間に武器の姿を変えて、サーベルへと変化させる。


 ギャッギャギャ


 サーベルを床に擦り付けるように進み続けると、サーベルが擦れた部分に赤い線が残っていた。


「ふむ、なるほど」


 ゼディはその一言だけを呟くと、周囲の根が先ほどとは違う挙動をし始める。複数の根が編み込まれる。何本も何本も重なり合うと最終的にはとがった穂先の様になる。


 お互いが準備を終えると、お互いの攻撃のタイミングを見定め始める。


 そしてラジャーネが疾走していくと――


「『大貫樹槍』」


 まず初めに動いたのはゼディの技だった。重なりあい、ドリルのようになった木の根は、ラジャーネを貫こうとステージギリギリを通り抜けようとしていく。


 それに対してラジャーネは――


『迫る迫る!ゼディ選手の大技にラジャーネ選手自ら突っ込んでいく!!』


 ラジャーネはまだまだ距離を詰め始める。


 そして樹槍にギリギリに近づくとようやくラジャーネは動き出した。


「『裂閃刃』!!」


 ラジャーネはステージにこすりつけたサーベルを全力で斬り上げると、剣先から地を這うように赤い斬撃が走っていく。それも先ほど床に残した線が端から急速に消えていくことと引き換えに赤い斬撃は巨大化していった。


 そして赤い斬撃と樹槍がぶつかると、負けたのは樹槍の方だった。


「ちっ」


 斬撃は樹槍をなんてこともない様に切り裂いていく。その線上にはゼディの座っている場所があり、ゼディは回避のため横に飛び退くしかなかった。


 タッタッタッ


 ゼディが回避している間に軽快な足音が聞こえる。その音の正体は――


『ラジャーネ選手!急接近!!なんと斬撃の真後ろを通ることに寄り、障害物を気にすることなく走り抜けた!!ゼディ選手、絶体絶命!!』


 斬撃が樹槍を切り裂いていく最中もラジャーネは足を止めずに進み続けていた。


 そして斬撃が樹槍を切り抜き、ゼディが回避する時には二人の距離は一メートルにも満たなかった。


 また回避したことに寄り、ゼディは四つん這いに似たような格好になっており、即座に回避ができるような体勢ではなかった。


「終わりよ」


 その隙を見逃さずラジェーネがサーベルを振り下ろす。


 だが


「詰めが甘い」

「なっ!?」


 ラジェーネのサーベルは宙を切り、ステージに当たる。


 そして次の瞬間には


 ドサッ


「これが本当の終わりだ」

 ジュルジュル

「ぐっ」


 いつ間にかラジェーネがゼディに拘束をされて地面に倒されていた。次の瞬間には地面からいくつもの木の根が現れてラジェーネを完全に拘束する。


「っ、まだまだ」

 ドッ


 拘束を解こうとするラジェーネだが、次の瞬間、腹部の下から鋭く太い根が生え、完全にラジャーネの内臓を貫いた。


 そして―――

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