第416話 本戦五回戦目緒戦
「うぇ~」
『うぇ~……失礼しました。何とも……本当に何ともな結果となってしまいました。』
セレナが嗚咽の声が聞こえると同時に、テンションが低いリティシィの声が聞こえてくる。
(まぁ、あの光景だしな)
現在、ステージの上には、首から上が完全になくなったティラナの姿と、再び、繭となり元の姿?に戻ったオーギュストの姿があった。
『すみません。本当はもう少し元気で声を出したいのですが、最後のティラナ選手の気持ちを考えると…………』
リティシィの言葉を聞くと観客の大部分が大きく頷ているのが見て取れる。
「……生きながらに頭を砕かれる。考えるだけでぞっとするね」
ロザミアが全員の心境を代弁すると、貴賓席にいるほとんどが首を縦に振る。
そして、しばらくすると、ティラナの体が粒子となり、光に膜に吸い込まれていく。
そして吐き出されるのだが――
「!?はっはっはっはっ…………よ、よかった、付いてる」
ティラナはすぐさま顔を触り、頭が無事なのかを確認してから安堵の息を吐く。
「ふむ、どうやら、トラウマは無いようであるな」
「!?」
ぎ、ぎ、ぎ
ティラナは錆びた人形のように声を掛けてきた人物に視線を向ける。
「立てるであるか?」
「ひ!?」
オーギュストが紳士らしく、手を貸そうとするのだが
ショロロ~~
バタ
ティラナは失禁しながら気絶して、グラウンドに倒れていく。
「顔を見るなり気絶するとは失礼であるな」
『いや~~あんな事があった後なので仕方ないかと……』
リティシィの思わずの言葉に賛同しなかった観客はいなかった。
(それにしても姿は変わっていないが、攻撃手段は変わっているな)
俺は以前見たことがない攻撃に警戒を強めつつ、ステージを見詰める。
その後、ティラナが回収され、盛り上がらない勝利宣言がなされて四回戦目は終了した。
『ではでは~気を取り直しまして~~第五回戦目“心身一体”ラジェーネ対“深緑使い”ゼディ!!』
時間になると、先ほどの雰囲気を切り替えて、元気そうにリティシィが言葉を出す。
そして宣言を聞くと二人の人物がグラウンドに入ってくる。
一人はやや赤が混じった黒髪に、動きやすい甲冑と動きやすい中華服を混ぜたような恰好をしている強気な女性だった。装備は服のすぐ上にある中華寄り甲冑と手に持っている片刃の赤い剣だけだった。
それに対してもう一人は、褐色の肌を持ち、緑色の髪を頭の後ろで結わいている青年だった。服装は黄色と緑と基調としていて、前世のダシキに似ている。また武装は一切なく、本当に普段着のまま、ここに来たようにも感じる。
『さて~、長々とするつもりはないので、パッパッと始めちゃいましょ~~』
リティシィの言葉で二人ともステージに乗り、カウントダウンが始まった。
そしてカウントダウンが始まっていくと二人とも準備を始める。
ラジェーネは剣を両手で持ち、中段で構える。それに対してゼディは、なんと胡坐をかき、右手だけで合掌印を構え、左では胡坐の間に手を入れて地面に手を着いていた。
『ゼディ選手、アレで戦えるのか~~?私にはあの格好でなぜ戦えるのかが、全く理解できない~~』
その言葉を聞いても二人は一切動こうとしない。
そしてカウントダウンが終わるのだが――
『え、え~~っと、二人とも動きません。時が止まったかのように向かい合うだけです』
既に攻撃してもいいはずなのだが、二人とも動く気配がない。
『………………』
さすがのリティシィも何も動いていない中で実況はできないらしく、言葉を紡げない。
『あ、あの~~まぁ、ルールには違反していないですから、何も言えないのですが…………』
リティシィは動いてくれないかな~という思いでそう言葉を出す。
『………………うぅ~~』
だがそれでも動き出す気配がない二人にリティシィはほんの少しの呻きを上げる。
そして最終的には選手や実況、環境を含めて、静かになり、会場全体で二人が動き出すのを見守る。
だが、その瞬間は唐突に訪れる。
最初に動き出したのはラジェーネだった。
『ようやく、ようやく動き出しました!!ラジェーネ選手両手持ちからか片手持ちに切り替える!!』
ラジェーネは剣を片手で持つと剣は淡く光、形状を変えていく。
そして変わった形は――
『ゆ、弓です!ラジェーネ選手の剣が弓へと変化しました!!ですが、肝心の矢はどこに?』
リティシィの言う通り、現在ラジェーネは矢を持っていない。それでどうやって攻撃するのか疑問に思っていると。
『え?えぇ?矢が出来上がりましたね』
ラジェーネが弓を引く動作をすると、赤く光る球が現れ、退く動作に合わせて細長くなっていった。
そしてラジェーネが矢を放つ動作をすると、赤い残光を残しながら光の矢が放たれる。
『ラジェーネ選手が矢を放ったーー!ゼディ選手はどう対応するのか~』
ラジェーネの矢が高速で飛んでいき、ゼディまであと少しとなると。
ボコッ、ジュ
ゼディのすぐ前から石畳が盛り上がると、そこから何かが現れて、矢を打ち払った。
『ゼディ選手も動いたぁ!!矢を防いだのは木の根?でしょうか~』
ゼディの前方から現れたのは太い木の根だった。それが触手の様にゼディの周りに留まり、ラジャーネを警戒している。
「今度はこっちの番」
そういうとゼディは合掌印をしていた右手を左手に添え始める。
そして起こるのが――
『ゼディ選手、攻勢に入ったーー!!周辺から多くの木の根が現れ、ラジャーネ選手に迫っていく~』
ゼディの周辺から現れた木の根は、数本を残して、ラジャーネに殺到する。
「はぁ!!」
それに対して、ラジャーネは再び武器の形を薙刀に変え、迫りくる木の根を掃いながら、高速で移動する。
そして迫りくるまでの時間が稼げればすぐさま弓へと変形させて、牽制する様に何度も矢を放つ。
『木の根が押す押す!ラジャーネ選手、ほとんど逃げることしかできない!!逆転する術はあるのだろうか~~』
リティシイの言葉で観客はラジェーネの応援を始める。観客としてはもう少し面白い部分を見せてほしいという意志なのだろう。
「ええ、わかりましたよ!!」
リティシイや観客の声を聞くと、ラジャーネは逃げる方向を変える。先ほどまでゼディと木の根から離れるような動きだったが、今度は木の根から逃げながらゼディに向かう方向へと逃げていた。
「なにをしたい?」
その行動に困惑しながらもゼディは新たな木の根を生み出し、ラジャーネに向けて放つ。
それを見て、ラジャーネは再び、武器の形を変える。それは――
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