第415話 惨い終わり
『な、なんでしょうか、アレは?卵?の様な、繭の様な……勝負がついた気配もないので、アレがオーギュスト選手だと思うのですが…………』
微動だにしない、黒い球体を見て、全員が困惑した表情となる。大きさは人一人を隠せるもので、表面は普通の卵とは違って幾重にも筋の様な物があり、脈動していた。
「っっなら」
ティラナはすぐさま赤い砲弾を赤い球体へと放つ。確認と牽制、そしてダメージを追わせられるならという三つの理由が重なった、攻撃なのだが――
ビギッ!!
ガッ!
「へ!?」
『う、受け止めた!?先ほどの様に打ち払うでもなく、鷲掴みにして受け止めた!!』
砲弾は黒い球体から破る様に出てきた腕に難なく受け止められる。砲弾は爆発もせずにそのまま掌に収まったのがよほど意外だったのか、ティラナは予想だにしなかいとばかりに声を上げる。
「っっ」
「ふぅ、確かに貴殿の言う通り遊び過ぎたのである」
ビシ、ビシシッ
オーギュストの声が聞こえると、黒い球体が割れていき、中からオーギュスト
「……それが本性か?」
『なんと、卵から出てきたのはオーギュスト選手なのか!?明らかに異形としか言えない姿かあっちをしているが、果たして』
卵から出てきたのは、5年前にバアルが出会った時と同じで、真っ黒な人型の姿に、蝙蝠の様な竜の様な翼、そしてマグマの様な赤い角を持っている。
そして5年前とは違い、先ほどの触手の様な尻尾を持っていた。
「ふむ、本性かはさておき」
「なっ!?」
バクッ、ゴクッ
ボォオ!
オーギュストは手に持っていた赤い砲弾を口に含み飲み込むと、腹部が爆発で膨張する。ただ、その膨張した部分もまるでゴムの様にシュルシュルと元の形に戻っていく。
「うむ、辛いのである」
「く、食い物なわえないだろう」
あまりにも常識外れの行動だったのか、ティラナが若干舌足らずの言葉で反応する。ただ、その反応もよくわからないコメントだったのだが、そこは混乱ゆえと思い誰もが見て見ぬふりをした。
「さて、ついでであるメインディッシュの前菜として、少々肩慣らしを――」
「っ!?させるかぁ!!」
ティラナは悪寒を感じたのか、オーギュストが動き出す前に制しようと動き出す。
ドドドドドド!!
先ほどと同じように弾幕を張る。
だが――
「もう飽きたのである」
バサッ
オーギュストは翼を羽ばたかせ、弾丸の上を飛び、ティラナに迫る。
「くっ!?」
「遅いのである」
すぐさま砲身をオーギュストに合わせようとするのだが、その間にすでにオーギュストはすぐ近くまで迫る。
ドゴン!!
「くっ~~!!」
オーギュストは迫る勢いをそのまま使い飛び蹴りを放つ。
それに対してティラナは何とか大盾で防ぐのだが、大盾を突き立てたまま、数メートル引きづり下がることになった。
「う~む、この体で動いたのは久しぶりであるからな…………肩慣らしに付き合ってもらうのである」
オーギュストは両手を動かすと、感覚の違いに戸惑っている。そしてその部分を直すために徒手格闘の構えを取り始めた。
ゴン
「っ~~!!」
「ふむ、案外脆そうなのである」
ティラナが何か言う前にオーギュストが動く。最初はただただ愚直に接近して、盾の上から拳を叩き込むのだが、それだけで鎧や大盾、果てはランスを持っているティラナの体がほんの少しだけ浮き上がる。
「まだ、まだ!!!」
ティラナはすぐさまランスを薙ぎ、オーギュストから距離を取る。
「はぁ!!」
ドドドド
そして仕切り直しとばかりに、何十もの砲弾をオーギュストに叩きこもうとするのだが。
「だから、それは飽きたのである」
オーギュストがため息交じりの言葉を吐くと、そのまま低い姿勢で、砲弾に向かって突っ込み始める。
それを見た観客はすぐさま爆発音が聞こえるだろうと身構えるが、爆発音は明らかに遅いタイミングで聞こえてきた。
なぜなら――
「遅い、遅いのである」
オーギュストはその身では考えられないほどの速度で移動し、回避し、ティラナに接近していた。
「えぇ!?」
ティラナはオーギュストが砲弾をよけるなどとは思わなかったのか、驚愕の声を上げる。
そして――
「敵を前に驚愕とは、いいスキである」
オーギュストの言う通り、驚愕のあまりに一瞬だけでも動きを止めることは致命的な行動だった。
「っっ」
「今回は殴らないのである」
ティラナは避けきれないと判断して、大盾で体を守ろうと、身を隠すが、それは意味が無かった。
ガシッ、バッ
「なぁ!?」
「これで無防備であるな」
オーギュストはティラナの大盾を殴るのではなく掴む。そして力いっぱいに大盾を引き抜いた。
『おぉと!!オーギュスト選手が大盾を引き抜いたーーー!あの姿では剛力を発揮できるというのか?!』
ティラナも大盾をただ添えているだけではない。きちんと装備しているため、掴まれることはあってもすぐに引き剥がされるということはまずない。
だが、今回はそれがなされてしまった。その理由はティラナがひ弱ではなく、オーギュストが剛腕すぎたのが原因だろう。
「まだ、やれ、っーー!?」
「いや、もう遅い」
ティラナはすぐさまランスを横なぎにしようとするが、オーギュストの方が早く動いていた。
オーギュストは尻尾の様な触手を使いティラナのを拘束する。
「っっっ~~」
「これまで、肩慣らしに加わって感謝するのである」
触手は分裂し、完全にティラナの自由を封じる。
「さて、終わりにしたいのであるが、素直に降参してもらうと助かるのであるが?」
オーギュストはティラナの口の部分だけの拘束を解き、降参を促す。
だが、その返答は――
「嫌に決まっている!!」
ガッ
ティラナは否定の言葉を口にすると、全力で首元にある触手に噛みつき始める。
「威勢がいいのである。では止めを刺すとしよう」
「みぐっ」
再び、ティラナの口をふさぐと、オーギュストは右手をティラナの前にかざし始める。
「『嚙み砕く右手』」
オーギュストの言葉で右手の形が変わり始める。変形という感じではなく、右腕が粘土の様に捏ね繰り回されて、最終的に何かしらの獣の
「では、噛みつかれる気分をじっくり味わってくれたまえ」
オーギュストの右手のアギトがゆっくりと動き、ティラナの頭を横から加え始める。
「むぐーーーーーー!!!!」
ギギギギィ、バギャ
兜により、やや耐えたものの最終的には顎がすべて閉じられてしまった。
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