第411話 本戦三回戦佳境
「がっ!?くそっ!!」
水の触手がヴァンの進行方向へと先回りすると、そのまま、うねりくねりヴァンへと迫っていく。
そしてヴァンは大きく飛び跳ねて、水の触手の向こう側へ行こうとするのだが。
ザパッ、ザシュ
「目を離したな?」
「あ゛っ!!」
突如現れたハゼマジの三叉槍が、ヴァンの左わき腹を切り裂く。
痛みに悶えながらもヴァンは傷つけられたまますぐさま距離を取る。
「あんた!そんなことまでできるのかよ!!」
「まぁな、これでもいろいろとできる方だぜ」
ヴァンが驚いたのは、ハゼマジの移動方法だった。
「俺の二つ名はここからきているからな、ここからは本気で行くぜ!!」
ザパッ
ハゼマジは先ほどの水の触手の中に入っていくと、まるで流れる管を通るように巨大な海玉の元へと戻っていく。
先ほどの攻撃もヴァンが避けて無防備な間に触手の中の流れに乗って高速移動した故のものだった。
『これがハゼマジ選手の本領か~予選では大きさの問題でつかえなそうですが、ここでは関係ないですからね~~』
巨大な水球を作り出して、自分の得意なステージに変化させてからの高速戦闘それがハゼマジの真骨頂だった。
それからはハゼマジの独壇場となる。
ハゼマジは巨大な水球の中でじっとしているのだが、それだけで脅威だった。なにせ水球は『渦矢』や『大渦』の様な攻撃方法を持っているだけではなく、外部からの生半可な攻撃をほとんど無効化してくれる。それだけでも攻防一体の形なのだが、ハゼマジは作り出された『大渦』の中を自由に行き来することが出来るため、高速での移動もできた。そして『大渦』は一本しか出せないなんてことは無く、途中で渦の中から飛び出して、ほかの渦の中に移動するという荒業も可能だった。
またハゼマジの鱗鎧も魔具らしく、いつの間にかハイネックの様な部分が出来ており、そこには魚のエラのような物が出来上がっていた。それにより水中でも呼吸が可能になっている模様。
これらの効果により、ハゼマジは攻・防・移を行うことが可能になっていた。
それに対してヴァンは防御と逃げるのが精一杯だった。『渦矢』はもちろんのこと、自由に動く『大渦』も触れるだけで体が抉られる代物、そして何本もの『大渦』から突如として表れる三叉槍に何とか対処しようとするが、それでもヴァンの傷は増えていくばかりだった。ユニークスキルなのか、魔具の力なのかはわからないが、ヴァンは異常な再生能力で、すぐさま傷を癒していく。だが、それでも治癒する速度より怪我をする速度の方が速く、何度も傷ついていく。
「がぁ!!くそが!!!」
『おぉぉっと、ヴァン選手も魔具を使用し始めた~~』
リティシィの声と同時にヴァンも魔具を使用し始める。
ヴァンが使用したのはおそらくは籠手の魔具だった。籠手が炎を吹き出すと、炎はカトラスの周囲に纏い始めて、何倍もの長さの刃となった。
「おらっ!!!」
ヴァンは向かってくる『大渦』に炎の刃を向けて、迎撃し始める。
『ヴァン選手が出した炎の剣が『大渦』を迎え撃つ~本来は相性最悪なのでしょうが、ヴァン選手が凄まじいのか炎はかき消されない~~~』
生み出された炎の刃は物理的な干渉が出来るのか、伸びた渦を途中から切り落とす。切り落とされた『大渦』は形を維持することが出来ないのか、形を崩し、床に散らばっていった。それにより攻撃にも移動用にも使えなくなっている。
また飛んでくる『渦矢』も炎の刃を向けているだけで、蒸発していき、防ぐことが出来ている。
「へぇ、だが、少し遅かったな」
水中のせいか、ややくぐもって聞こえるハゼマジの声なのだが、十分聞こえていた。
「あ゛?」
何を言っているんだというヴァンの声が漏れ出る。それに対してハゼマジは『大渦』や『渦矢』に対処できるヴァンの魔具を見ても態度を崩すことは無い。
「気付いたか?戦い始めて、それなりに時間が経ったな?」
「それがどうした!!」
「見てみろ、縮まっているぞ」
ハゼマジは挑発する様にヴァンから視線を外し、ステージの端を見始める。
ステージは時間が経っているせいか縮まっており、直系50メートルほどしか存在していなかった。
「なぁ、ヴァン二つでここまでの大きさにまで膨らむ水球だ…………もし、三つとも膨らむとどうなるだろうなぁ?」
ハゼマジはゆっくりと水球の中を移動してステージに足を突かせる。そして三叉槍の石突をステージに付ける。
「っっ、がぁ!くそっ!!!」
言葉の意味を理解したのか、ヴァンは前進してなんとか、ハゼマジを妨害しようとし始める。もちろんハゼマジもその状態でも『大渦』や『渦矢』を使用することが出来るため、ヴァンを近づけないように何度も進路上に妨害攻撃をする。
ヴァンもただやられているわけではなく、炎の刃を何度も振り、『大渦』を切り落とし、『渦矢』を蒸発させながら前進していく。
だが――
「『海玉融合』」
そして水球まであと少しというところで、再びハゼマジの魔具が発動されて、三つ目の海玉が融合を始めた。
「くそ!!」
「終わりだ」
三つ目の融合が終わると、海玉は直系1メートルほどにまで膨れ上がると、それに比例するように水球が膨張していき、
『こ、これは!!ハゼマジ選手の水の球が現在のステージすべてを飲み込んだ!!ヴァン選手は無事なのか~~』
最後の融合を果たすと、水球はちょうど直系50メートルほどまで広がっていく。
それもステージの光の膜は水球を阻害しないのか、また時間が経つごとに徐々に縮まっているためか、最初は水球ギリギリだった光の膜が、徐々に水球の中に入り込んで閉じていく。
『なるほど~~ハゼマジ選手の狙いはこれですか~』
三つを融合させたときの大きさは直径50メートルほど、つまりその範囲にまでステージが縮まれば、あとはすべてを水球内に入れることが可能になる。
がばっ、ゴボ
急に迫ってきた水の壁に呑まれたヴァンは当然藻掻くことになる。当然水の中にいるためか、息が出来なく苦しい顔をする。
「どうだ、水の中の気分は?」
そんなヴァンを見ながらハゼマジは水中で胡坐をかきながらニタニタと笑っている。
っ!!
ヴァンもそれに気づいたのか、ハゼマジを睨む。
そして――
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