第412話 本戦三回戦決着
『おっと、どうしたのか、ヴァン選手が口に手を当てるとなぜかそこから空気が溢れている』
リティシィの実況の通り、ヴァンはカトラスを持っていないほうの手で口元を覆う。するとそこから明らかに吐き出すとき以上の気泡が浮かび上がっていた。
「ちっ、窒息死してくれれば楽だったんだが……しゃあねぇ」
ハゼマジは見物を止めて、傍にある三叉槍を掴んで動き始める。
「っ!?」
「おせぇよ」
ハゼマジは『大渦』の時と同じ速さで水球内を移動していた。
ハゼマジは水中を高速で動き、ヴァンの周りを回ると、三叉槍を振るう。それに対してヴァンも何とか防ごうとするが、水の抵抗を受けて、まともに剣を振ることが出来ない。
ザン!!
ゴボッ
そのため、まるで全く時間を動いているようになり、ハゼマジはヴァンのカトラスを鼻息交じりで避け、軽く振るった三叉槍でヴァンの太ももを切り裂く。
ヴァンはたまらず、肺の中を吐き出し、苦しそうな表情を浮かべる。
「ちっ、ここでも回復すんのかよ」
だが、ヴァンの受けた傷はすぐに回復していき、再び、問題ない状態にまで戻っていく。
「はぁ、もう飽きた、ぜ!!」
さすがに回復していくヴァンに嫌気がさしたのか、ハゼマジは周囲を見渡しながら不機嫌な声を上げる。その理由はヴァンのタフさもあるだろうが、それ以上に時間を掛け過ぎると、動き回れる部分が減るからだろう。
『おぉ~ハゼマジが水球内を高速で動き回る~』
ハゼマジは一切、減速をせずに、水球内で勢いをつけ始める。
『これは!ハゼマジ選手の勢いが止まらない!ここで勝負をつける気なのか~~』
リティシィの実況は真を捉えており、ハゼマジはこれで決める気だった。
ハゼマジは最高速度にまで到達すると、槍に渦を巻かせてヴァンへと向かっていく。またヴァンもハゼマジがこれで終わりにしに来ていると感じているのか、緊張していた。
そしてまるで魚雷の様にヴァンへと突っ込んでいったハゼマジとヴァンは交差する瞬間にお互いを見あう。
ハゼマジは一撃で終わらせるようにヴァンの急所を狙う。それに対してヴァンは回復能力があるのがわかっているのか、一撃での死亡は何とか避けるために急所を防御する用意をしていた。
ここでヴァンを一撃で終わらせるとなれば、それなりの位置を狙わなければならない。一撃で体全てをバラバラにできるなら話は早いだろうが、威力が減衰する水中ではおそらくは困難だった。それにもしできたとしてもヴァンが読み切り、その攻撃に対して全力で防御すれば耐えられる可能性がある。そのために、確実に読み切り、ヴァンの息の根を止める必要があった。
ではここでどこを狙うかだ。普通に考えれば頭だろう、完全に破壊してしまえばおそらくはスキル自体を発動することは困難になり、死ぬ。次点で心臓、ただこちらはただ心臓に剣を突き立てるだけでは物足りない。なにせヴァンの再生能力があれば心臓を貫いたほどではすぐさま再生してしまう可能性があるからだ。そのため心臓を狙うのならば心臓を完全に潰すための策がいる。もし槍に纏っている渦が『大渦』の様に削る能力があるのなら、心臓とその周辺を完全に削り取れれば、再生する過程でまず死亡判定となるだろう。
無論それ以外の場所も狙えるのだが、おそらく確実に即死させるには物足りない場所だけだろう。
そのためか、ハゼマジが狙うのは、そしてヴァンが狙われるのは頭か心臓の二択となる。
また、ここでヴァンの装備を思い出してほしいのだが、主だった装備は前開きの薄そうな胸当てと籠手、そして靴は微妙として、あとは脛当てだけとなる。それらを加味して二人の読み合いとなった。
そしてお互いがお互いを観察して、ついに衝突すると―――
「ふ、ふ、ふ、防いだーーー!ヴァン選手が腕を犠牲にして、心臓への一撃を防いだ!!」
攻防の勝利はヴァンだった。だがその過程もまた巧と言えた。
まず最初、ハゼマジはヴァンの頭部へと穂先を向けていた。それをヴァンが感じ取ると、すぐさま剣を頭部の前に持ってきて、槍をはじくか、できなくても威力を減衰するように構えていた。だがハゼマジもそれを見抜いていたのか、途中から軌道を変えて、心臓への軌道へと帰る。それもヴァンが剣を動かそうとしても、すでに遅いタイミングでだ。そして槍は徐々に吸い込まれるようにして胸当て、それも心臓に届く威力で突き刺さろうとした。だがそれを防ぐ腕があった。ヴァンは空気を供給する用の腕を口から外し、胸元まで持ってきていた。
その結果、槍は籠手を破壊して、ヴァンの腕、それも白い骨が見えるほど腕をえぐり取り、そのまま腕と胸当てを貫通して、心臓に届きそうになった。
だが、そこまでだった。槍はおそらくは心臓に届く前で止まり、もしくはほんの少し刺さっているのかで、重症になりながらも防がれてしまった。
「往生際、が!?」
ハゼマジはすぐさま三叉槍を向こうとするが、その前にヴァンが動いた。
すぐさまカトラスを離し、そのまま三叉槍を掴んでいるハゼマジの腕を掴み、ハゼマジの腰に動かせる足を回し、拘束する。
「てめぇ」
ニッ
焦るハゼマジに対してヴァンは周囲を血で赤く染めながら笑う。
『おぉっ!今度は、とばかりに今度はヴァン選手が動く~だかあの重症さで、何ができ、!?』
リティシィの実況が途中で止まる。その理由はヴァンの周囲にできている不自然な気泡にあった。
「この!話せ!!」
パクパクパク
苛立つハゼマジが怒鳴るが、それに対してヴァンが口を動かして、おそらくは否定、それか挑発的な言葉を発する。
「この、どこからこんな力が」
ハゼマジは何とか拘束を解こうと暴れるが、ヴァンは全力で拘束しているのか、解ける気配がない。
「っっ熱!?」
ニッ
ヴァンの周囲に大量の気泡が現れ始める。そしてハゼマジの口から出た言葉であそこで何が行われているかは予想がつく。
「なら」
ドッドッ
ハゼマジは拘束が解けないと判断して、されながらも何度かヴァンに攻撃を始める。
ドッ
ゴボッ
ドッ
ゴボッ
ハゼマジは現在ヴァンが息ができないことを利用してか、執拗に肺から空気が漏れるように殴り始める。
だが
ゴボッゴボボッゴボボボボボ
ヴァンの周囲の気泡が徐々に増えていき、最後には周囲が茹った鍋の様な様相へとなっていく。
「あづ!この!!」
「*****!!」
お互いが何かを叫び終わると突如、水が崩壊し始める。
そして、崩れていく水に流されながら、ステージの上に残ったのは
「がはっ、げほっげほっ、はぁ~~勝ったぞこの野郎」
水嵩が低くなってきて、現れたのは白い髪を持つ少年だった。すなわち―――
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