第410話 本戦第三回戦緒戦と既視感
それから昼食を挟み、程よく腹が落ち着いてきたころ、第三試合が行われる時間となった。
『さて~皆さん、きちんと昼食は取りましたか~私はキンキンに冷やした果物を食べました~……という雑談を挟みまして~神前武闘大会第三回戦を始めます!!』
ワァアアアアアアアアアアア!!
昼食を挟んで午後となったのにも関わらず、コロッセオ内の熱気は弱まることは無かった。
『では入場してもらいます!!“過渦槍”ハゼマジ選手対“炎魔人”ヴァン選手!!』
リティシィの声で、三回戦目の二人が入場する。
一人は、浅黒い肌に、赤いバンダナを巻いている何とも人相の悪そうな男だった。装備は薄緑の鱗で作られた鱗鎧に、水に強そうなズボンを履いている。武器は銀と黒色が特徴的な三叉槍を持っていた。
そしてもう一人だが、銀というよりも白、それも加齢による白さを持つ髪を短くそろえている、冷やかな青い目をした少年だった。
(…………?どこかで見た、か?)
相貌はクールな少年と形容でき、何かしらつらい体験をしているのか陰のある雰囲気があり、それがまた大人びた印象を醸し出している。身長もアルベールよりも10センチほど高いほど。また装備なのだが、上半身は前開きになっている軽そうな胸当てが一つだけで、下半身は変哲のないズボンと鉄の脛当て、そして銀色の籠手をしている。また武器は腰につけているカトラスが一つだけった。
「熱いのかな~?」
「夏ならおかしくないだろう」
レオネはヴァンの上半身が胸当て一つだと分かると、よくわからない感想を述べる。
『なんと、ヴァン選手は今年で12、神前武闘大会本戦では三番目に若い選手です!!そして主だった、戦闘は炎、そして対戦相手ハゼマジ選手は水系を主軸とした戦闘をするとのこと、火と水、果たしてどちらが勝つのか~~!!』
ややネタばらしの様な実況がされると、二人はややリティシィを睨みながらステージに上がっていく。そして二人が上がると、光の幕が閉じられて、カウントダウンが始まる。
『それでは~~、神前武闘大会三回戦目“過渦槍”ハゼマジ対“炎魔人”ヴァンの試合~~はっじめ!』
カウントダウンが終わり、リティシィの気の抜けた声で、三回戦目は幕を開けた。
カウントダウンが終わると、二人ともすぐに動き始める。
「おら!」
「はぁあ!!」
お互いが接近して攻撃範囲になるとすぐさま応酬が始まる。
最初はハゼマジの三叉槍の攻撃範囲での戦いとなる。ハゼマジは何度も突き、そして払いを繰り返して、自身の攻撃が届き、ヴァンのカトラスの攻撃が届かない距離に押し留めようとする。
それに対してヴァンは、自身の攻撃が当たる距離まで進もうとするが、ハゼマジの熟練された槍裁きに寄り、なかなか前に進めずにいた。
『まずは双方とも試しとばかりに武術による応酬が続く~~ですが、どうやらハゼマジ選手の方が年季があるのか、徐々に押し込んでいるのか~~』
年季ともいえるのか、技量の差があるらしく、ヴァンは上手く押し込まれている。
「っがぁあ!!」
そしてそれを理解しているのか、ヴァンはやや無茶な行動に出る。ハゼマジの攻撃にわざと軽く当たりに行き、傷を作りながら前進し始めた。
「ほぉ、なるほど」
だが、ハゼマジもそれを見ると、三叉槍を振り払うように薙ぎ、そのまま後ろに飛び、距離を取る。
この行動に寄り、ヴァンは前進したが、再び、距離を取られてしまう。それも体にそれなりの切り傷を作ってだ。
『おぉぉと、緒戦はハゼマジ選手の有利で始ま――っと、そうでもないみたいです』
リティシィが現状を簡潔に実況しようとすると、すぐさま言葉を翻す。その理由はヴァンの傷にあった。
ヴァンは距離を取ったハゼマジを追撃しようとせずに、その場で構え続ける。だが同時に先ほどとは違う点があった。それは――
「ぐっっっ……ふぅ」
軽い呻き声と挙げると、ヴァンの傷は蒸気を出しながら急速に治癒していった。
『ここでヴァン選手は一つのカードを切る!だが、まだハゼマジ選手は一つも能力を見せていない。この先はどうなると言うのか』
さすがに代償もなしに回復魔法や能力を使うことはできない。そして手札を見せたことによる優劣により、まだまだ、ハゼマジの方が上だと思えてしまう。
「めんどくせぇ、なら回復しても意味ないようにしてやるよ」
ハゼマジは三叉槍の石突で三度、ステージを叩く。
「『海玉招来』」
すると石で出来ているはずのステージが水面の様に波打ち、そこから深青色の握りこぶしほどの球が現れ、ハゼマジの周囲に漂う。
「それじゃあ、本気で行くぜ!」
ハゼマジの言葉で深青色の球、海玉は水を纏い始める。それも直系一メートルほどの水が、重力がない様に海玉の周囲に張り付いていた。
『おっと、これは魔具の能力が発動された~、ここからがハゼマジ選手の真骨頂と言えるのだろ~』
リティシィの期待の声が会場内に響き渡ると、早速とばかりにハゼマジは動き始める。
「『渦矢』」
「っっ!?」
ハゼマジが三叉槍をヴァンに向けると、すべての海玉から矢ほどの大きさの穿つような渦が放たれる。
ヴァンはそれを察知したのか、すぐさま横に飛び退く。
「うぐっ」
「まだまだ行くぜ」
ハゼマジはヴァンに三叉槍の標準を合わせ続ける。すると『渦矢』がそのままヴァンに向けて放たれ続ける。
『おぉ~~すごいすごい!ハゼマジ選手、完全に有利となっている。このままヴァン選手は終わるのか~個人的にはもうひと踏ん張りして、凄まじい戦いを見せてほしい所です!!』
リティシィの実況が続く中でも、ハゼマジの攻撃は続く。それにたいしてヴァンはできるだけ距離を取りずっとステージの周りを走り、避け続ける。
「…………埒が明かねぇか。なら、『海玉融合』」
ハゼマジの言葉で二つの海玉が攻撃するのをやめて、それぞれが引き寄せ合う。そして海玉が触れ合うとそのまま二回りほど大きくなり、水の量も増えて、半径10メートルほどの大きな球となる。
「『大渦』!!」
ハゼマジの言葉で融合した海玉の水面が波打つと、太さ直系1メートルにもなりそうな渦を巻いた水の触手がヴァンへと迫る。
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