第403話 神前武闘大会本戦の開幕
〔~アルヴァス視点~〕
「ふぅ~~気のいい奴らじゃったのぅ」
日が落ち、夕暮れから夜に変わった時刻、儂は店を閉めるための準備に入る。
足を動かし、軋む床の音を聞きながら店の外に出る。そして看板に掛けている開店の札を取り閉店の札を掛ける。
ドスドス
「ん?」
足音が聞こえるので、振り返ってみると、長年の友人がそこにいた。
「久しいなアルヴァス」
「おお、お主か、どうしたこんな時間に?武器の手入れ、にしては少し遅すぎる気がするが」
儂の軽口を聞くと、奴は薄く笑う。
「必要ならもっと早く来るわい…………少し酒に付き合わんか?」
奴は背嚢から子樽を取り出して、そういう。
「なら、儂もとっておきのベーコンを出してやろう。ほれ、儂は店を閉めておくから、先に入れ」
「お邪魔するわい」
勝手知ったる所なので友人は我が家の様に店に入っていく。もちろん儂もそれを歓迎しておるが、なにより奴がかしこまって入るのはどうにも違和感があった。
そして店の外の掃除、片付けが終わり、店に入りながら施錠し終えると、ようやく店の中で友人と対面する。
「ほれ、儂特製の湖牛のベーコンじゃ」
「……普通、ベーコンは豚じゃなかったか?」
「細かいことは気にするな、ほれ」
儂は綺麗にしたカウンターに木製のジョッキとベーコン、そしてベーコンを切り取る用のナイフを置く。
「ちなみに火酒か?」
「ああ、それも50年物だぞ」
思わず舌を出しそうになるが、我慢して、ジョッキに少しづつ注ぐ。そして十分にジョッキに溜まると、今度は口に付け、一気に飲み干す。
「カァーーーー!!!うまい!!!」
儂はジョッキを置くと、ベーコンを薄く切り取り、口に含む。
「しかし、今日はどうした?友人と縁を深めに来ただけではあるまい」
迎え酒を終えると、儂は話を始める。
「気付いていたか」
「あほう、お主が気落ちしているのは一目でわかるわい。それで、どんな悩みだ」
「…………悩みではない、少し、ほんの少しだけの間、肩の荷を下ろしたくてな」
友人のその言葉で、儂はナイフを止める。
「……こう言っても、無駄だろうが…………気負うな。お主が優勝しても、儂らの願いはかなえてもらえないかもしれない。ならば最終的には同じことになるだろうな」
「だが、優勝でき、願いが叶う可能性もある」
そしてその重責があまりにも重いゆえにここに来たのだが儂は気付く。
「のぅ、お主は儂らの願いじゃ。もしそれがだめなら、ほかの者ではもとよりダメだったという事。ならば、それから起こることは儂らの意思しかない」
「だが……」
「結論から言わしてもらえば、お主がだめならもとより、芽はない。ならば仕方がないと誰もが思い、お主を責めることは無いだろう」
「……」
「それでも優勝できればと気負うなら、一言だけ言っておこう。お主が選んだのではない、儂らがお主に押し付けたのだ。何があろうとも儂らはお主に味方するし、援護する。そのことについて恥じるつもりなら、それは儂らが儂らを恥じる」
そして再びジョッキを呷り、開いた手で
ドバン!
思いっきり、こやつの背を叩いてやる。
「お主は存分にやり、存分に出し切れ。出して負ければ、なにも悔いはない。もし儂らの中でそんなことを言うやつがいれば儂がはっ倒してやるわい、ガハハハ」
そういい、笑うとこやつの顔の険が少しだけ取れる。
「それに儂らはできるだけ背を支えるだけしかできん。これ以上俯くなら、むしろ、こちらが謝りたくなるぞ」
「そうか、そうだな、オシッ」
こやつもジョッキに並々と注ぎ、浴びるように飲み始める。
「よし!その域だ!!もっと飲め!!お、そうだ、習わしの秘蔵も出してやろう」
倉庫に寝かしてある火酒があるのを思い出し取ってこようとするが、こやつは顔を横に振る。
「いや、それは優勝時に取っておく。それより、相変わらずの閑古鳥が鳴いていたのか」
「ガハハ、今日は違うぞい。実は一組、買い物に来てないくつか売れたわい、まぁ紹介状持ちじゃが」
「ハハハ、結局は鳴いているな」
「なんじゃと!!」
その後は、お互いに浴び捲るまで酒を飲みまくり、何やら記憶の端では殴り合っていたような気もするが、楽しい夜を過ごすことが出来た
また翌朝から出かける奴の顔は気負いという言葉からは遠かったとだけ告げておく。
〔~バアル視点~〕
休息を挟んだ、翌日、俺達は朝からハルジャールの騒音を聞きながらコロッセオに訪れた。
(これはまた、熱気に包まれているな)
貴賓席からコロッセオを見渡すのだが、予選の時よりも場内には幾重にも歓声が響き渡っていた。
「紹介状は役に立ちましたか」
その様子を見慣れているのか、貴賓席内でユリアに声を掛けられる。
「ああ、十分満足していた」
「それはよかったです」
「あの、ユリアさんはあそことは長くお付き合いがあるのですか?」
こちらが終わったタイミングでアルベールがユリアに問いかける。
「ええ、あそこはドワーフたちの界隈だとそれなりに有名な店ですから、かなり前から交友させていただいていますよ」
「なるほど、ちなみに兄さんのへの報酬もその筋で?」
「……ええ、その通りです」
アルベールの問いにユリアはほんの少しだけ詰まらせる。
(ただの子供だと思って油断していたな)
心の中で苦笑する。子供らしい質問の裏でしっかりと情報を集めて、的確に次の情報のとっかかりを掴んでいた。
「お、どうやら始まるな」
ユリアとアルベールの攻防を聞くが、関与しないイグニアがネンラール王族の一画を見ながらそういう。
ワァアアアアアアアアアアアアアア!!!
歓声が巻き起こった原因はその一画に現ネンラール王、マルクス=ルガ・ネンラールが現れた故だった。
「さて、これより、神前武闘大会の本戦を始める!!」
ワァアアアアアアアアアアアアアア!!!
再び起こる歓声の中、ネンラール王は『戦神ノ遊技場』を設置した場所へと移動すると、再び『戦神ノ遊技場』を発動させる。
予選の始まり同様、杖から地を這うように光が伸びる。光はグラウンド全体の一回り小さい円を描くと、その後、前回同様、グラウンドの上空に留まり始める。
そして光が描いた円の部分には予選同様のステージが出来上がっていくのだが。
(……でかいな)
ステージはグラウンド大半を埋めており、前回の予選とは大違いの規模となっていた。
そしてステージを作り終えると、ネンラール王は再び、拡声の魔具で話しかける。
「では、幾千の戦士の中から選ばれし英傑よ、前へ」
その声でグラウンドの入り口から30名とその案内役の人が出てくる。ちなみに大半は予選の時と同じ格好だったが、ごく一部は衣装が変わっていた。
(それにしても意外に女性が多いな…………イーゼも今回は勝ち抜いたのか)
最初に目に着いたのが、女性の割合だ。数えてみると、30人中13人が女性である。その中にはイーゼの姿もあった。
(まぁ、魔力なんてものがある世界だ。腕力だけで実力が決まらないと考えれば妥当だな)
女性でも鍛えれば男よりも強くなることは十分できる。現に俺の周辺には男よりも屈強と言える女性たちの影があるのだから。
そして二つ目に目についたのが、選手たちの横柄さだ。もちろん舐めた口を聞くなどのことではない。その態度のことだ。ある者はあくびをして、ある者は腕を組み目を瞑り、またある者は立っているのが気怠いのか、座り込み、ある者は足を組み、頭の後ろで腕を組んでいた。
(……そこまで気にすることでもないのか)
周囲を観察すると、その事態に眉を顰めている者はおらず、むしろそうでなくてはという期待の視線も感じ取れた。
全員が形を崩しながらも、ネンラール王が見下ろせる位置から動くことは無い。そしてそれを確認してから、ネンラール王は口を開き始める。
「さて、数多の戦いを潜り抜けてこの場に立つことが出来た諸君、おめでとう。君たちは紛れもない英傑だと、私が断言しよう…………だが、まだだ、まだ、物足りん」
ネンラール王のことばを聞くと、全員が視線をネンラール王に向ける。そしてそれに応えるようにネンラール王もそれぞれを見詰める。
「英傑になったのなら、さらにその先の英雄を目指せ。そして目指した先でネンラールの祖の様な伝説を創れ。お前たちの、後世に残る語り話の一端を、自らの人生を誰からも称賛される物に染め上げるのだ。この神前武闘大会は多くの英雄を生み出し、多くの伝説を作り上げた。お前たちもその一つになることを余は期待している」
ネンラール王がそう言い切ると、一拍置いてから怒号の様な歓声がコロッセオ内に響き渡る。
「では、始めるのだ!!この神前武闘大会は戦神にお前たちの勇姿を見せる場、各々が英傑であると認識し勝利を目指せ!!!」
ネンラール王の言葉に追従する様に、グラウンドの光球から花火が上がると、鼓膜が破れるかと思うくらいの、もはや咆哮がハルジャールに響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます