第402話 武器というよりも武装
その後、一度表の扉を閉め、全員で建物の裏に用意されている庭に出るのだが。
「………………………どうすりゃいいんじゃ?」
「ええ!?」
(まぁ、そうなるよな)
庭に出て、一通りマシラの戦い方を確認するのだが。
「いや、だってのぅ…………まず手に持つ武器じゃが、何かしらを握る武器は持つ意味が薄い。もちろん四足歩行の速度を一切使わないなら話は別じゃが、不利な状態を変えるためには必要じゃろう。ほかにも手の甲に着ける武器などはまずもって必要はない。なにせその鎧の様な剛毛と十分切れ味のある鉤爪があるのじゃから……それに脚なんてもってのほかじゃ、その巨体を動かすための最重要の部分、当然、動きを阻害しかねない武器を装着するのは己を不利にするのも同じ…………魔具の類なら使える部分もあるだろうが、店には魔具の在庫はないことは無いのだが、すべて予約されていて売れない…………となるとどないせいちゅうんじゃ」
アルヴァスが困惑するのも無理はないだろう。
握るタイプの武器を持たせれば、クマの時の最大速度、つまりは四足歩行での移動がしにくくなる。それにいちいち出したりしまったりしている時間があるならば、相手は当然のそのタイミングを狙ってくるだろう。そのため剣や槍、果ては棍棒などの武器は使えない。また背中に背負うなどならわかるのだが、残念ながら『獣化』する際に体格がガラッと変わるため、背負うためのベルトが邪魔になる。そして手首や手に付けるタイプの武器だが、これは言ってしまえばあまり意味が無い。なにせ『獣化』した影響で爪のすぐ近くまで剛毛が生えそろい、爪自体も太い鉤爪になるためあまり意味はない。ほかにも足には武装できない。なにせ四足歩行や二足歩行の両方を許容した武装は残念ながら店内にはないからだ。
「伸びるベルトとかはないのか」
「バアルよ、戦闘、つまりは激しく動いている最中、装備がずれるような伸びるベルトを使うと思うか」
アルヴァスの言葉に肩を竦めて答える。
「なら頭はどうじゃ?こう、甲を作って、角を付けてユニコーンみたくして」
「防御ならありだが、頭突きするぐらいなら、噛みついたほうが楽だと思うぞ」
「……それもそうじゃな」
頭部の防御ということならば兜は効果を発揮するだろう、だが全身が鎧のようになる獣人にはそういった面は必要はない。
「ねぇねぇ、ここって何が置いてあるの~~~」
遠くからレオネの声が聞こえてくる。
声のする方へ振り向いてみると庭に出てきた場所とは違う部分のドアにレオネは関心を持っていた。
「おい、レオネ勝手に開けるなよ」
「ええ~~気になるんだけど」
「わははは、そこは馬用の鞍や鎧が置いてある場所じゃ、どれ」
アルヴァスはレオネの様子を見て苦笑して、その扉を開けてやる。
「ありがと~」
「あんまり荒らすなよ」
「は~~い」
レオネは好奇心に駆られるまま中に入っていった。
「すまんな、不快なら呼び戻してくるが?」
「いやいい、あそこは騎獣用の鞍や装備があるだけだからな。刃物は置いてないから、安心せい」
「それでも物を壊しそうなものだが?」
「ははは、嬢ちゃんの玩具となれば装備も喜んでいるだろうよ」
アルヴァスはそういい、笑う。
「寛容なのもいいが、ほどほどにしておけ。損害を出されても知らんぞ」
「はっはっはっ、問題ないわい…………そうか、
アルヴァスはそういうと同時に、何かをひらめいた顔になる。
「少し待っておれ」
アルヴァスは短い脚を必死に動かして、レオネにいる扉へと向かっていった。
(なるほど……騎
アルヴァスの意味が分かると、こちらも気になり扉の中を覗く。
ゴソゴソ、ガシャガシャン
中から何か探り、ひっくり返す音が聞こえる。
「何かあったの~~?」
入り口近くにある馬用の鞍にまたがっているレオネが様々な箱をひっくり返しているアルヴァスを怪訝な目で見る。
「ヒントを貰って、答えにたどり着いただけだ」
「ふ~~ん、そっか」
それから、アシラは当たり前として、ほかの連中も何やっているかを気になってこちらに集まり始まる。
「あったぞ!!これじゃ!!」
アルヴァスは山積みになった荷物の中から、一つの物を取り出すのだった。
「おぉ~~~」
「どうじゃ、既存の武器とは違うが、防御と武器を併せ持っている故、使いにくいと言う事もあるまい」
全力で『獣化』したマシラには少し前とは違う部分が存在した、それが―――
(…………これでモヒカンなら世紀末と言いそうだな)
アシラが装着しているのは、前では、胸元まで、そして背後からは肩甲骨あたりまでカバーしており、また肩先から鎖骨の部分には鋭利な棘が付いている、いわゆる棘肩パッドというやつだった。
「これなら、獣の姿でも問題ないじゃろう!」
そしてこの装備は被る様に装着し、最後にゆったりと首元を止めるだけで済むため、体格の部分で劇的に大きさが変わっても何も問題がなかった。わかりやすく言うならば服というよりも貫頭衣に近いだろう。実際装備を止めているのは首元、『獣化』した際に一番変化が少ない部分のため、すこし余りを作る様に留めれば人型でも獣型でも使える。
「アレ使えそうか?」
「まぁ、一応はな。アシラは背中と胸元はあまり機能していない部分が大きい。ならああやって何かで当ててやるのも手だろうよ」
はしゃぐ息子を横目にマシラとテンゴが純粋に戦えるかどうかを精査している。
「しかし、なんで胸と背には棘が付いていないんだ?あればいいと思うんだが」
「あほう、胸に棘が会ったら腕を組めないぞ。それに背中の棘のせいで、どこかの壁に貼り付けにされたいんか?」
肩から鎖骨あたりにしか棘がないことをアシラが不思議がるとアルヴァスが答える。前者は言葉の通り、そして後者は、何かの際に吹き飛ばされた時に、背中が壁に激突すれば、棘が刺さり移動の阻害、最悪は宙吊りになる可能性もなくはない。
「どうする、アシラそれでいいか?」
「ああ!!俺はお袋みたく器用に武器を扱うことはできないからな。こうしてぶつかることを前提にしたものの方が性に合っている」
その言葉に肩を竦める。
実際、アシラの言葉は何も間違っていない。今までで培ってきた技術を捨てて、いきなり新し手法を取るのはリスクが大きい。その点この武器、というよりも防具は、アシラの戦い方に非常にマッチしており、本来の戦闘に新たな選択肢を与えられる。
(武装の方向性は、おおむね間違っていないか……それで勝てればいいが)
その後、アシラも味を占めたのか、ほかにもないのかと問い詰め、様々な騎獣用の武器、というよりも武装を確認して、今日という日を終えた。
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