第401話 アシラの希望

 それから全ての棒を振り終えると、マシラは神妙な顔をしながらすべての棒をじっと見つめる。


「どうじゃ、どれが一番しっくりときた?」

「…………」


 アルヴァスが問いかけるがマシラは反応せずにずっと棒を見つめ続ける。


「これらは材質が違うのか?」


 らちが明かなそうなため、横から割り込む。


「そうじゃ、靭性や硬度、延性、展性、魔力伝導率がそれぞれ違う」


 置かれている棒を次々に触ってみるが、正直なところ、そこに違いがあるようには思えなかった。


「マシラ、マシラ」

「…………ん?なんだいテンゴ、今考えている最中なんだが」

「いや、あまりにも反応がなかったから心配になってな」


 テンゴが何度も呼び続けた末に、ようやくマシラが反応する。


「それで御婦人、どれがよさそうだ?」

「…………ふぅ~~」


 アルヴァスの声で、マシラは息を吐きながら天井を見る。


「………………レオネ」

「な~に~」

「お前が決めてくれ」

「あいさ~~」


 マシラが手で両目を覆うとレオネを呼び、選ぶように頼み込む。


「ん~と…………これ」

「なら、この材質で頼む」

「お、おぅ、でもいいのか?そんな勘に任せて?」

「ああ、これでいい」

「なら、文句はないが、少し待っておれ」


 アルヴァスは持ってきた道具をすべて仕舞うと、再び、裏に入っていく。


「……レオネは目利きが出来るのか?」


 先ほどのことが気になりエナに問いかける。


「できない」

「?じゃあなぜマシラはお前じゃなく、レオネに訊ねた?」


 もし本当に迷い、結論が出ないとき、エナに問いかけるならまだわかる。なにせエナの【先嗅グ鼻】には利の匂いをかぎ分ける力があるからだ。


「……エナ、バアルは勘違いしている」

「勘違いだと?」


 こちらの会話にティタが加わる。


「バアル、オレの力がレオネに勝っていると考えているのか?」

「違うか?」

「なるほど、ふふっ、どうだろうな」


 こちらの言葉にエナは心底おかしいと薄く笑う。


「エナ、説明し――」

「待たせたのぅ!!」


 アルヴァスの声で全員がそちらに向く。


「ほれ、希望に合う棍じゃ」


 アルヴァスは4本の棍をカウンターに置く。


「なんで四本も?」

「何でも何も、在庫を見てから選んだ方が納得できるじゃろう?」


 つまり在庫をすべて見せてその中で自身で目利きをしてもらうと言う事。さすがに粗悪品はないだろうが、やはりすべてが同じ品質とは言えないため、自身で選んでもらう必要があるらしい。


「少し振ってみてもいいか」

「周囲を壊すなよ」


 マシラが一本を掴み。


 フォンフォンフォン


 一瞬で体の周囲を流れるように振る。


「なるほどな」


 フォンフォンフォン


 それから持ってきた四本をそれぞれ振る。空を切るだけならまだしも、一切よどみなく流れていく棍は扱った年月分だけ綺麗に見えた。


「ふむ、やはりおもしろいのぅ」

「何がだ?」

「御婦人の筋肉じゃよ、先ほどまで不定形だったものが今は完全に形を変えて、しっかりと長物に適用しておる…………さすが本戦出場者なだけはあるのぅ」

「知っていたのか?」

「このハルジャールに居て知らん奴はよほど疎い奴以外はいないじゃろう。ちなみにそっちの二人も武器を見繕いに来たのか?」


 アルヴァスはテンゴとアシラにも視線を向ける。


「いや、俺と倅は無手だ。武器は要らない」

「その様じゃのう、両方ともグラップラーの筋肉じゃわい」


 アルヴァスは、鍛冶屋要らずじゃな、と言いながら豪快に笑う。


 フォン、フォン

「……これにする」


 一通りすべてを振り終えると、マシラは一本の棍をカウンターに乗せる。


「了解じゃ、値段はネンラール大銀貨4枚じゃ」

「???安くないか」


 アルヴァスの提示した値段に疑問を唱える。


「…………いろいろとあるじゃよ、このネンラールだと」

「本当にその値段でいいのか」

「もちろん。ちなみに美女に特別の値下げなどやっとらんから安心せい」


 アルヴァスが溢すように漏らした言葉のあと、マシラの問いに答える。ちなみに最後の部分はマシラの背後で何かあるんじゃないかと疑っているテンゴに向けた言葉だ。


「しかし、それなら薄利多売でやらなければ利益は上がらないだろう?だが――」


 俺は店内を見渡す。先ほどからアルヴァスがこちらにかかりっきりになっているのがわかる通り、店内には俺たち以外に客は一人もいなかった。


「はは、まぁ、こちらもいろいろとあるからのぅ。もし憐れ・・に思うなら、武器を買い替えるか予備の武器を買ってくれ」


 アルヴァスはそういい、作り笑いをする。


「どうじゃ、そっちの獣人に良さそうな逸品でも見繕ってやろうか?」

「俺は間に合っている、アシラはどうだ?」

「……武器を使うこと強くなれると思うか、お袋?」

「ない。あたし見たいのは例外として、テンゴとアシラなら意味が薄い。それこそ大半の連中はそうだろうな」


 マシラは無情にもいらないと切り捨てる。実際、完全に四足歩行になる獣人には武器は扱いにくい、そのため、マシラの言葉はなにも間違っていなかった。


「だが、お袋、このままの状態で俺は勝てると思うか」


 アシラは真剣にマシラに視線を向ける。


「精進していけばい――」

「お袋、俺は負けた奴らにリベンジしたい。そのために今日を必死に鍛錬に費やして奴らに勝てるか?ほんの少しでも勝つために道具を用意しようと思うのは罪か?」

「…………はぁ~あたしは思いっきり武器を使っているから反論しずらいね」


 アシラのリベンジ精神に負けたのか、マシラがアルヴァスの前に立つ。


「うちの息子に武器を見繕ってほしい」

「俺からも頼む」


 マシラがそういうと、背後にいるテンゴも横に並び頼み込む。


「お袋!親父も!それは俺が言うべきことだろう」


 アシラは気恥ずかしそうに二人の名前を呼ぶ。


「……うむ!!期待に沿えるかわからんが、儂の全力をもってして、息子さんに合う武器を用意して見せよう!!!」

「よっしゃ!!よろしく頼んます!!!」


 アルヴァスの声でアシラはガッツポーズをし、その後、アルヴァスに頭を下げる。

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