第400話 武器の代替

 時間にして正午過ぎ、ブランチの後軽めのランチをしていると、獣人がようやく降りてきた。そのため出立は全員がランチを済ませた後となり、昼過ぎとなった。


「ここだが…………思っていた場所とは違うな」


 ユリアに紹介されてやってきたのはハルジャールの中で閑散とした通りにある武器屋だった。


「大きいが……大丈夫なのか?」


 マシラは不安そうな表情をする。なにせ店は、大通りであれば一流と言えるほどの大きさなのだが、周囲があまりにも閑散とし過ぎていた。


 一言で言い表すなら閑古鳥が鳴く、いや大合唱しているほど、周囲に人影はなかった。


 また、神前武闘大会中、それも戦士たちも羽を休める休息日であることが関係しているのか、表通りは平時の何倍も賑わっていたことも、この閑散さを際立たせているのかもしれない。


「最悪ダメなら、ユリアに文句を言えばいい」

「あたしの武器はどうするつもりだ?」

「最悪は表通りの店で妥協してもらいたい」


 そう思い扉に手を掛けて、店に入っていく。


(中は小奇麗にしているようだな)


 建物の中は、壁際やいくつもの棚や籠が存在しており、長物から小物までの幅広い武器が陳列されていた。


 また店の奥側には壁一面を使ったうカウンターが存在しており、カウンターの中には様々な鍛冶用の器具が置かれていた。


ドワーフ・・・・の店か」


 そしてそのカウンターで何かしらの図面を引いているのは、動きやすい格好をしたドイトリよりもまた太いドワーフだった。


「なんじゃ、ドワーフ嫌いか?ならとっとと出ていけ」


 ドワーフは一瞥してからこちらの声に返答すると、手で出て行けとジェスチャーする。


「この店は客を選んでいるのか?」

「……いや、ここは儂らドワーフが作った武器が置いてある。その店にドワーフ嫌いが来たらどちらも不幸になるじゃろう?」


 こちらがそうでないと気づいたのか、図面を引いた手を止めてこちらに振り向く。


「ふむ、まぁならよかろう。それで、店に来たということは武器を欲しているじゃろ?何が欲しい?」


 笑顔で接客するわけでもなく、顎髭をさすりながら問いかけてくる。


「その前に、俺達は紹介されてここに来ている」

「ん?どれどれ……おお、ユリア嬢ちゃんからの紹介か」


 手紙を受け取ると、ドワーフは納得の声を上げる。そして手紙を見開き内容を確認する。


「ユリア嬢は此処を使用して長いのか?」

「まぁの、紹介が遅れたわい、儂はアルヴァス。鍛冶士であり武器商人じゃ」

「俺はバアル・セラ・ゼブルス、ユリアに紹介されてここに来た」


 ドワーフのアルヴァスと握手を交わす。


「バアル?グロウス王国のか、というと空飛ぶ船を作り出したと?」

「ここまで噂が広まっているのか?」

「というと…………本当か?」


 アルヴァスは目を光らせながら問うてくる。


「肯定はする。だがそれ以上は言うつもりはない」

「むぅ、物造りとして後学にさせてもらいたかったのだが…………まぁいい。それでどんな武器を希望している」

「それは、アシラ」


 話が長くなったためか、陳列させている武器に興味を移した獣人勢を呼ぶ。


 ちなみに今回はクラリスとその周辺とロザミアは来ていない。着ているのは、俺とリン、ノエル、エナ、ティタ、アルベールとカルス、その他獣人達、+護衛騎士だった。


「ふむ、そちらの御婦人か…………何とも珍妙な」

「それはあたしのことを言っているのか?」


 アルヴァスの言葉でマシラに剣呑な雰囲気を出し、そしてその背後にいるテンゴもやや怒りが見て取れた。


「勘違いするな、批判的な意味合いじゃないわい」

「じゃあ、何を見て俺の妻にそんなことを言った」


 テンゴも生半可な意味合いでの答えなら許さないという形相を取る。その様子を見てか、マシラの尻尾がテンゴの太ももを何度か叩いていた。


「侮辱されたと思ったのなら謝ろう。だが珍妙と言ったのは別の部分が原因だ」

「どこがだ?」

「まず儂は80年近くこの店で多くの武人たちを見てきた。そのためか自然とどんな武器を主に使っているかがわかる様になった。だが儂が得意な武器を見分けられない、何とも…………うむ、言葉に困るな、なんにでも変化する……これも違うな……不可思議…………なんというか」


 アルヴァスが言葉に詰まり、言葉を探し始める。


 その様子を見てアシラもテンゴも矛を収めた。


「まぁ、悪く思っていないならいいさ」

「……マシラがそういうなら俺も何も言うつもりはない」

「すまんのぅ」

「いや、そっちが謝ることは無い」


 両者間で誤解が解けて、雰囲気が緩和する。


「未熟を晒すようだが、婦人はどんな獲物を使う?」

「あたしの獲物は棍だ、丁度このくらいで太さは親指と、人差し指、小指で輪っかを作ったぐらいだな」


 アシラは自身の首より少し低い程度の高さを示し、手で太さを表す。


「となると棍棒や杖よりもどちらかというと槍に近い形か」

「そうそう」

「よし、ちょっと待っていろ」


 アルヴァスはカウンターを離れて、そのまま倉庫らしき裏へと向かっていった。


「……盗まれるとは考えないのか?」


 背後にいるティタが思わずと言った風に漏らす。


「大丈夫だろう、どれもこれも損の匂いしかしてやがらない」

 ガシャガシャ


 エナがティタの答えに応えると、奥からいくつかの箱と長物の束がやってくる。


「匂いというのはわからんが、まぁ盗まれても問題ない。それどころか、盗んで、それを使おうとすれば間違いなく怪我、下手すれば死ぬぞ」

「……よくわからん」

「じゃろうな。ご夫妻、あっちの説明をしてよいか?」


 アルヴァスの言葉に二人は問題ないと答える。


「それで白銀の、盗まれることを疑問に思っているようじゃが……よっと」


 アルヴァスは剣立てから一本のショートソードを取り出すと


「ほれ」


 ボギャ


 アルヴァスが長いスナック菓子を折る様に力を加えると、剣はあっさり折れ曲がる。


「なまくらどころか、子供のチャンバラにしか使えん。確認してみぃ」


 折れ曲がった剣を渡されると、ティタは同じように剣に力を入れて、元の状態に戻そうとする。するとやや鈍い音を立てて剣は折れた後を残しながら元に戻っていく。


「……納得だ」


 アルヴァスはティタから剣を返されると、もう並べられないと、カウンターの裏へ持っていく。


「さて、じゃあ、そちらの御婦人の獲物に関してじゃなが、太さはこのくらいか?」


 アルヴァスは10センチほどの様々な太さの棒をカウンターに置く。


「短いな」

「阿呆、これは合わせのための物じゃ、これを参考にして、物を選んでいくことになる」


 テンゴが、親指と人差し指で先から先まで摘まみながらそういう。


「これかな」


 テンゴとアルヴァスの話の間にマシラは並べられた棒で太さを確かめる。


「ふむ、では次に長さじゃな」


 アルヴァスは束の中から様々な長さの奴を取り出す。


「大体首から胸元となると、ここらへんじゃろうな」


 アルヴァスは十数本の長さの棒を選び、カウンターに置く。


「これだな」


 それに対してマシラは悩むことなく一本を選ぶ。


「なるほどなるほど」


 アルヴァスはそういうと紙にメモする。


「それで次だが」

「まだあるのか……」


 テンゴが長いと思ったのか、口からそんな言葉が漏れる。


「むしろここからが本番じゃぞ」


 アルヴァスは再び束の中から7本の1メートルはありそうな棒を取り出した。


「あたしの希望した、長さも太さも違うぞ?」

「とりあえず軽めに振ってみろ」

「???」


 マシラは疑問に思いながら棒の端を掴み軽く振る。


「っ!?」

「ほれ次じゃ」


 マシラが違和感を感じたらしく驚くが、アルヴァスは気にせず次の棒を渡し始める。

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