第399話 予選終了
貴賓席に戻ると、予選三日目を楽しむのだが、どうやら、初日と二日目とは違い、それ相応の実力者しか残っていなかった。そのためかテンゴとアシラはひやりとした部分が何度も見受けられ、また、マシラに関してはそれなりに負けている部分が多く、ランキングでもかなりの変動があった。
「うへぇ~~あっっっっぶね~~~!!!」
日が落ちて、予選が終了するとホテルへと戻ってくるのだが、アシラは気疲れしたようにラウンジのソファに倒れ込む。
「まぁ、この結果だとな」
同じくラウンジの椅子に座りながら、騎士の一人が書き留めた資料を見る。その表紙には最終的なランキングが記載されていた。
「30位中28位とはな、近くの順位がもう一戦していれば外れていたかもな」
「うぐっ」
意外にもアシラはランキングギリギリまで落ちていた。そういった理由だが――
「ああ~楽しかったな、テンゴ」
「そうだな」
アシラの両親、テンゴとアシラはいい汗かいたとばかりに大きく伸びをして体をほぐしていた。
「にしても最終日は手ごたえある連中とやりあってばかりだったが、何かあったのか?」
「一言で言えば、身の程を理解する奴らが現れたということだ」
神前武闘大会の予選は気軽に参加できる。そのため、どこまで行けるのか実力を確かめたい奴らや、それなりでしかない実力者がよく集まりやすい。そしてそういうやつらは初日と二日目を掛けて自分の力量を理解していく。そして予選をいい経験と判断した奴ら以外は観戦に回っていくわけだ。
そして最終日はほんの少しのそれなりと勝率によってはランキングを狙える猛者たちが集中し始める。
「なるほどな。あとアシラこれぐらいで疲れたとは言わないな?」
「うっす!まだまだ元気です!!」
マシラの言葉が怖かったのかアシラが疲れた体を動かして背を伸ばす。
「いいじゃないか、マシラ。俺も少しは疲れたぞ」
「それは年だからだから仕方ないさ。ただマシラはまだ若い、これぐらいで疲れたなんて笑い話にもならない」
テンゴとマシラは二十歳ほどの
(仮に15で産んだとしても現在は30から40程度、もう少し後に産んだのなら――)
ゾゾッ
考えていると変な威圧を背筋に感じる。
「バアル、変な考えはしないほうがいいぞ」
威圧を感じてか、テンゴが事態に気付いたのかアドバイスらしき言葉を告げてくる。
「ああ、そうする」
返答するとその圧はようやくなくなった。
「それで、明日は休みだったか?」
「そうだ、一日挟んで本戦が始まる」
「ちなみに本戦はどう戦う?今回みたいに何度も戦うわけじゃないだろう?」
「ああ、明日に本戦出場者の宿に手紙が届くはずだ。そこでいろいろとわかると思うぞ」
テンゴの問いに答えると手元にある、簡易資料を確認する。
「へぇ~色々いるね~~」
肩に重みが掛かると同時にとても近い位置で声が聞こえる。
「確かにな、オンリーワンの様な手法を取る奴やその道を究めた者が多い感じだ」
資料を確認していくと、予選で使った武器や防具、攻撃方法や一見してわかる身体情報が書かれていた。
「ふぁ~~眠いから部屋戻るよ~~」
「……きちんと自分の部屋に戻るよ」
「ぶ~~」
レオネは大きくあくびをしながら離れていく。
「ノエル」
「問題ありません。きちんと自室へ向かっている様子です」
「ならいい」
レオネが大人しく従うのはノエルのリードがあるからこそなのだろう。
「で、明日はどうすんだ?」
レオネが通路の先に消えていくのを見送ると、ソファに背を預けているマシラが問いかけてくる。
「どうするも本戦に向けて精気を養えとしか言えないが」
「なら、この町一番の武器屋?に案内してくれないか?」
マシラの言葉に首を傾げる。
「なぜ?」
「いやな、今日はちょっと酷使し続けたからな」
マシラはすぐそばに置いてある自分の獲物、木製の棍をさする。そして見てみろと、こちらに投げ渡されるので、よく見てみると。
「……確かに、これはだめだな」
棍の表演をなぞると、見にくいが亀裂が出来ているのが見て取れた。おそらく、このまま使い続ければ、まず間違いなく遠くないうちに壊れる。それが模擬戦や大会と関係ない場所ならまだしも、大会途中に破損してしまえば、まず、間違いなく負ける確率が跳ね上がる。
「なら、明日は武器屋に向かうが、それでいいな?」
「ああ、できれば一番腕のいい所を頼むぞ」
明日の予定も決まると、ほどほどに疲れた獣人達はやや重い足取りでそれぞれの部屋へと帰っていった。
「さて、俺達も戻るぞ」
「バアル」
ソファを立ち上がり資料片手に部屋に戻ろうとするとクラリスに呼び止められる。
「わかっていると思うけど
ッ~~
「ああ、俺も今日は思いっきり寝たい気分だ」
背後にいる存在の反応を無視して、そのまま部屋に戻っていく。
さすがに、フシュンの件で気疲れしているため、楽な格好をして、さっさとベッドに入り意識を手放すことになった。
翌日、程よく朝が明けた後、意外にも疲れていたのか昼に近い時間まで寝ていた。そのため朝食ではなくブランチを済ませることとなった。
「バアル様、ユリア様からこれを」
ブランチを済ませて、ラウンジで獣人達が起きるのを待っていると、ユリア側の騎士が一つの手紙を持ってくる。
「昨夜頼んだばかりなのに早いな」
実は昨夜に伝言で武器屋の紹介を、ユリアに頼んでいた。
(イグニアに頼んでもよかったが、それだと乱雑に紹介されそうだからな)
俺が紹介してほしい武器屋は何もどこでもよかった訳ではない。下手に王子やネンラールの貴族が所有している場所ので買い物は途中で横やりが入る可能性があった。
(それが悪だとは言わないが、休息日の買い物に邪魔者の介入は不快だ)
ユリアもそれをわかっているはずだ。何より目的は獣人の武器の購入と伝えるため、変な介入は起きない、はずだった。
「そういえば、イグニア殿下やユリア嬢はどういう予定だ?」
「本日は朝から夜まで外遊となっております」
「それはご苦労なことだな」
遊ぶという文字が入ってはいるが、実際は貴族連中との仕事とも言い表せる。
「それと伝言です」
「なんだ?」
「『愛想よく』とのことです」
「……それは相手によるとしか言えないな」
「ふふ、そうですね。では失礼いたします」
手紙を渡し終えると、騎士は礼をしてから去っていく。
(……ユリアはあの事実を知っているのか?)
疑問に思いながら、テーブルに用意されているカップに手を伸ばしてのどを潤す。
その後、獣人が起きるまで昨日の資料を読むことにしたのだが、正午近くになるまで獣人達は惰眠を貪り続けていた。
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