第404話 本戦前のちょっとした余興

 歓声が収まり、ネンラール王の祝辞の言葉が終わると、進行役の貴族が陛下と入れ違いで前へ出る。


「それでは、今後の予定を発表する。まず―――」


 進行役によって行われたのは、本戦終了までの予定と試合に関しての説明だった。


 まず本戦はトーナメント形式で行われ、問題が無ければ六日で終わる予定となっていた。


 また、試合の運びだが


 一日目7戦(1~7)

 二日目7戦(8~14)

 三日目4戦(15~18)

 四日目4戦(19~22)

 五日目4戦(23~26)

 六日目4戦(27、28、三位決定戦、優勝決定戦)

〔※近況ノートにてトーナメントの表を張り付けてあります。この話を読み終えてからご確認ください〕


 となっているとのこと。


 また、トーナメントの振り分けなのだが、進行役が丁度トーナメントについて説明すると同時に入場口から数人の案内人が出てきて、それぞれの参加者に一つのボールを渡していく。


「さて、ではトーナメントの振り分けだが、ほんの少し催しを絡ませたいと思っている。あちらを見よ」


 進行役が指をさすのはグラウンドの上の球体だった。選手も観戦客も全員がそちらに視線を向けると、球体から新たに球体が作り出されて、球体のやや下がった場所で留まる。


「簡単に言うと、今手元にある球をあの的へと投げよ。的が中った順序でトーナメントの場所が決まる。またトーナメントにはシード枠が二つあり、一つ目と二つ目は確実にそこに振り分けられる。それとボールが地面に着いた場合は的からの距離で決められていく。さて、質問は受け付けない……はじめ」


 進行役の言葉で、数人の選手がハッとしてすぐさまボールを投げ始めた。


 それぞれ、それもここまで勝ち抜いた者たちだ、ただただボールを投げただけでも剛速球と言える速度で的へと飛んでいく。


「おら!!」


 当然アシラも例に倣って、ボールを投げ始めるのだが、その中で異様な動きをしている者がいた。


「テンゴ」

「おう」


 二人は阿吽の呼吸で動き始める。


 マシラがテンゴへと思いっきり走っていくと、テンゴはボールを軽く投げてマシラに渡す。そして何も掴んでない状態になったテンゴは腕だけを『獣化』させて、マシラの方へ掌を向ける。そしてマシラはその掌に足を掛けると、そのタイミングを待っていたのか、テンゴはマシラ事思いっきり球へと投げつけ始めた。


 うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」


 二人のパフォーマンスともいえる動きに観客は歓声を上げる。そして選手たちは二人の動きに驚愕する。


 そしてその後、人一人を投げたとは思えない速度で飛んでいくマシラはなぜかほかの選手の球へと追いつき、始める。


 そして


 カカカカカ!!


 おぉぉおおおお!!


 軽快な弾く音が聞こえると同時に歓声が聞こえてくる。


 マシラの棍によりすべて球が弾かれて、球体のすぐ近くをマシラが通過するときに手に持っていた二つの球を光球に向けて軽く放る。


 その後は、地面に着くと体操選手のように何度も飛び跳ねて、衝撃を緩和して、何事もない様に地面に降り立った。


(派手にやったな)


 二人の様子に未だに歓声が止まらなくなっていた。


 そして、シード枠がマシラとテンゴに決定すると、ほかの全員はどうでもいいとばかりにおざなりに的へと投げ始める。そして決まったトーナメント表が


 1、テンゴ〔シード枠〕

 2、グーユ

 3、イーゼ

 4、レシェス

 5、グレイネ

 6、ハゼマジ

 7、ヴァン

 8、ティラナ

 9、オーギュスト

 10、ラジェーネ

 11、ゼディ

 12、ダラール

 13、ヒエン・リョウマ

 14、アシラ

 15、アマガナ

 16、ピュセラ

 17、ザックス

 18、ドイトリ

 19、リシス

 20、カイル

 21、リフィネ

 22、オルド・バーフール

 23、イシュ・バータード

 24、ユライア

 25、レイフィル

 26、ゼイン

 27、オリアナ

 28、カシャ・リャック

 29、ホッセテ

 30、マシラ〔シード枠〕


{※近況ノートにトーナメント表を投稿してます}


 となった。


「それでは、諸々のことが決まった。初戦の開催は鐘が二回鳴る時となる。では皆の者、それぞれの全力での健勝を望む!!」


 それぞれの戦意が高まるのを感じる中、時刻になるまでそれぞれが解散となった。












 トーナメントが決まると、テンゴ、アシラ、マシラの三人は貴賓席に戻ってくるのだが


「はぁ~」

「……」


 そのうちの二人は何ともつまらなそうな表情をしていた。その理由はトーナメントにある。


「……自らシードを取りに行っただろ」


 二人がつまらなそうにしている理由、それは本戦三日目まで出番がないからだ。


「そうなんだが…………」

「けっ」


 テンゴもマシラも、自身の責任だと理解しているから仕方ないと受け止めている。その際に出てくる悪態は仕方ない部分があるのだろう。


「自業自得としか言えんな…………それで、アシラは最後か」

「……おぅ」


 アシラは席に座りながら目を瞑っている。精神統一しているのかわからないが、何かに集中して、返答が少し遅れている。


「バアル、今から言って、変えてもらえることはできないか?」

「無理だ」

「むぅ……」


 テンゴがわずかな可能性を掛けて、問いかけてくるが、残念ながらすでに決まってトーナメントも動いている。そんな中、順番を変えることはまず不可能だった。









 それからやや不機嫌な二人を宥めつつ、時間が経過していく。


 そしてハルジャールに備え付けられている鐘の音がコロッセオ内に二回響くと神前武闘大会の本番が始まることになる。


(さて、実力は如何ほどか)


 鐘が鳴り終えると試合が開始する時刻となる。


 知り合いの試合のため、やや寄り目で観戦させてもらうつもりでいると、王族の区画から一人の少女が降りてくる。


『そっれじゃ~~神前武闘大会本戦の初戦を開催しま~~す!!』


 少女が『戦神ノ遊技場』に手を当てると、光球からいくつもの花火が上がり、開幕の合図を上げる。


『解説は、私、リティシィ=サル・ネンラールが行いま~す』


 ウォォオオオオオオオオオオ!!!


 少女の声で野太い歓声が巻き起こる。


「…………誰だ?」


 名前から王族なのは把握できるが、残念ながら彼女の名前は聞いたことがなかった。


「彼女は第19・・王女、リティシィ=サル・ネンラールですね」

「それはまた」


 第19王女となると、最低でも上に18人の王女がいることになる。


(また、多いな)


 ネンラール王のこの多さに面白さを感じながら、少女を観察する。


 健康的な小麦色の肌、髪は長く、煌めくと表現できる薄い茶色で、頭の高い位置でポニーテルのように結わいている。容姿はまた美女的なカーシィムとは違い、どちらかというと可愛さと愛嬌が目立っている。そして特徴的なのは王族なのにもかかわらず露出が多い服装だ。上半身は丈の短いスポーツウェアの様になっており、へそが丸出し、下半身はパレオを着ており、スリットから健康的な足が見え隠れしている。カーシィムは別として、確実に美姫と言える。またそれなりに鍛えているのか、露出している部分に健康的な美を感じさせていた。


「どう?綺麗?」

「肯定はするぞ」


 隣にいるクラリスが何となく怒りに似た何かを隠した笑みを向けて問いかけてくる。


「なんだ、クラリスの方が綺麗だと言ってほしいのか?」

「…………」


 こちらの言葉に白けた視線を送ってくるが、それを無視して、言葉を続ける。


「安心しろ、魅力だけで言えばクラリスの方が上だろう」


 クラリスとリティシィを比べると、俺はクラリスに傾く。その理由だが、騒がしく楽しそうな女性よりも、傍でゆったりとできる女性という好みの問題だった。


「なら、いいわ」


 クラリスは本心からの笑顔に戻ると、観戦を続け始める。

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