第390話 ランクポイント制

 まず、ボックスとなっている貴賓席では、先ほどのようにホログラムを呼び寄せて見たい試合を観戦することが出来る。そして次だが、気に入った相手がいる場合は専用に把握をして、ステージに上ったタイミングでわかるようにもできるらしい。また、これらの操作はあらかじめ『戦神ノ遊技場』で登録した者しか扱えず、期間は『戦神ノ遊技場』の効果が切れるまでとなる。


 他にも登録情報を調べたり、気に入った試合があればチップを投げたり、画面を分割してほかの試合を見たりと言ったことも可能らしい。


(……動画配信サイトか?)


 機能を聞くとどうしてもそう思ってしまう。


 そしてどうやら建物に付与された力では大まかにこれぐらい以下出来ないらしい。ちなみに最後に侍女が漏らしたのだが『戦神ノ遊技場』本体であれば、もっと多くの機能が備わっているとのこと。


「テンゴの旦那、遊んでやがるな」

「……稽古つけている時の顔だ」


 背後にいるエナとティタの言葉で再び前を向き、ホログラムを見てみる。


 そこには何とか剣撃を当てようとしている剣士と、腕を組み、図体に似合わない軽快さで、紙一重に攻撃をかわし続けているテンゴの姿があった。


「本来は時間を掛けないほうがいいのですが……」


 テンゴのその様子を見て、ユリアが思わずそういう。


 なにせ予選は数千から下手したら数万にも上る数の参加者がいる。そして予選の会場には限りがあり、当然対戦回数はまず限られることになる。そのため、できるだけ迅速に決着をつけることが推奨されていた。


 そして剣士が何度も剣を振るい、それを紙一重によけ続けると、ようやくテンゴは攻勢に転じた。何度も空振りしたからか無造作に剣が振られると、その隙を逃すことなく懐に入り込む。また同時に腕組を解き、片手で相手の前髪を掴みながら思いっきり引っ張ると同時に膝蹴りを顔面にぶち込む。


「えぐいな」

「……あれは全力だった」


 剣士の顔が完全に凹み、衝撃で何度もステージを転がっていく。どうやら死んでも問題ないと分かっているためか、訓練とは違い全力で膝蹴りした模様。


 そして剣士の体が完全に動きを止めると、光の粒子となり、同じく光の膜に吸い込まれていく。


『がっ!?はっ!?!?!?…………ふぅ~~』


 剣士が光膜から吐き出されるように転がっていく。そして意識が戻ると、すぐさま顔面を何度も触り、きちんと戻っていることを確かめ、大きくため息を吐きだした。


(……本当に死なないのか)


 あの陥没具合だとまず脳がやられているため、確実に即死のはずだ。だが剣士はしっかりと元通りになっており、動き回っている。


(いろいろと疑問は尽きないな)


 どうして生きているのか、どのように生き返らせているのかなどなどが頭の中で疑問として流れてくるが、現在は解析不能なため、答えは出なかった。


 するとホログラムに文字が表示されていく。


「おぉ、まぁ相手は弱そうだったから仕方ねぇか」

「これで少しは順位が上がりましたね」


 イグニアは文字を見て、少し不満だが妥当だと判断し、ジェシカは少し嬉しそうにする。


(まさか、ゲームとかでよく見かけるランクポイント・・・・・・・制とはな)


 神前武闘大会の予選はポイント制で行われる。現在、画面に表示されているのはテンゴのポイントで何ポイント増えたかが書かれていた。そしてその反面、相手の剣士の方はポイントがほんの少しだけ減り、そして同時に骨で作られた×印が表示されていた。


(何も知らない状態ならば、思わず首を傾げそうになるな)


 また予選通過方法はいたって単純であり、上位30名が本戦へと進むことが出来るようになっている。そしてそのランキングも光球の前に表示されていた。


 そして対戦が終わると、テンゴもステージを下りて、アギラが手配した案内人や護衛騎士ともに控室に戻っていく。


「ん?ねぇ、バアル様、あれって」


 テンゴがしかいから消えるので周囲を見渡していると、セレナの声が上がる。そちらを向いてい見ると、見知った顔が参加していた。


オルド・・・か、こんなところにいたのか」


 セレナの視線の先にいたのはオルド・バーフールだった。彼はグロウス学園でよくアークと一緒に居たのでよく覚えている。ただ中等部に入ってからは一切その姿を見ていなかったのだが、まさかここで見ることになるとは思わなかった。


「お、何か気になる奴でもいたか?」

「気になる、というよりも知り合いがいたな」

「ほぅ、どれだ」


 イグニアが興味を示したことで侍女が気を利かせ、オルドとその相手のステージが表示された。


「どっかで見たな」

「イグニア様、アークのお友達です」

「ああ!そういやいたな!!」


 オルドを見て、少し思案気になるが、ユリアの答えですっきりした表情を浮かべる。


 そしてオルドと両手剣の剣士との試合が始まるのだが


「面白みに欠けるな」

「そうですね。しかしオルドの実力なら苦戦することもないはずなのですが」


 思わず出した声にリンが言葉を付け加える。


 オルドの籠手は以前アルムから下賜された物を使っていて、それで剣をを弾き、少しずつ前へ進み、相手の懐に入ろうとしていた。だがその過程があまりにも面白みに欠けていた。両手剣が何かしらのアーツを使うと、オルドはしっかりと見極め、躱すか相殺するアーツを使用する。そして最後には懐に入り、顎にアッパーを食らわせて、最後に回し蹴りで首をへし折り、試合は終了する。


 そして相手が蘇生するのはテンゴと同じで、最後に数値の変動が起こるのだが、どうやらオルドは何度も予選に参加しているらしく、テンゴよりも数値が上だった。


「なぁ、アレもバアルの手の者か」


 イグニアはオルドを指差し問いかけてくる。


「残念ながら違う」

「なら、俺が声を掛けても構わないな」

「殿下のお好きなように」


 どうやらイグニアはオルドをスカウトしようと思っているらしい。


(オルドを手駒にか、今までのことを考えれば全く惜しくはないな)


 それなりに実力はあるだろうが、それ以外に特質している部分が無ければ、普通の騎士か騎士団にて少し高めの地位を得て終わるだけだろう。なにより礼儀作法がいまだに成っていないなら、護衛としては失格だった。


「ねぇねぇ、そういえば、これ予選って言ってたけど?本戦はいつ?」

「…………聞いていなかったのか」


 レオネの言葉の内容に、昨日話したばかりだと思ったが、説明中にうるさくなかったことを考えれば、おそらくは寝ていたと簡単に予想がついた。


「予選だが―――」


 仕方ないとばかりにもう一度レオネに説明する。







 神前武闘大会だが、まず予選と本戦に分かれている。当然マシラやテンゴ達が参加するのは予選からであり、そこで勝ち進めば本戦へと進める。また期間についてだが、まず予選は三日、そして一日休息のちの6日間かけて本戦が行われる運びになっていた。


 そしてここからは案内室で判明したのだが、予選では10回敗北するとその日一日は予選参加できなくなるルールが導入されていた。さすがに数千人が一気に行うとパンクするため、負けた者からペナルティを食らっていくルールとなっているらしい。また試合のマッチングだが、これは人の手を介さずすべて『戦神ノ遊技場』にて、行われるらしい。またポイントの変動だが、これはより多きものに勝てばその分ポイントが手に入り、より少ない者に負ければその分減る。


 そして順調に予選の最終日が終了すると、最もポイントを多く得ている上位30名が本戦へと進むことになっている。








「へぇ~昨日もこれを話したの?」

「いや、日程と三人は予選から始める事、あと俺が昨日まで知りえていた魔具の効果だな」


 ランクポイント制などは今日知ったので、それなりに驚いた。


「そうなんだ、おっ、アシラとマシラおばさんだ!」

(……数時間後には説明した内容を忘れてそうだ)


 レオネはこちらの話よりも今目の前で行われる試合に興味を持っていた。


 そして二人がそれぞれの試合を行うのだが、相手が格下だったため瞬殺だった。


「お、ねぇねぇ、あれドイトル?だっけ」


 レオネが指さした先には以前揉めたドワーフの兄であるドイトリの姿があった。


「まぁ、参加するようなことは言っていたからな」


 別段、彼が参加することに違和感はない。


 興味本位で見てみると、相手とはまぁまぁいい試合をしていた。ドイトリは以前見せたトマホークと盾を身に着けて戦闘を行う。


 しばらく観戦し、ドイトリが相手の頭をトマホークで潰すと試合が終了する。


「地味だけど強そうね」


 クラリスはドイトリの戦闘をそう評価する。だがおそらくはこの場にいる全員がそう思っている。


 ドイトリは盾にドワーフ特有の小さな身を隠し、相手の攻撃を何度もはじく。そしてドワーフの膂力を持ってしてトマホークを振り、相手の防御の上から力で押し切る戦い方をしていた。


「何となくアシラに戦い方が似ているか」

「そうですね、防御よりである部分がまさにそれですね」


 こちらの呟きに背後のリンが答える。


「楽しめているか、アルベール」

「はい!!」

「なら、いい」


 退屈して否かを問うとアルベールは笑顔で頷く。


 そしてその後は今日の予選が終わるまで様々な試合を楽しんだ。

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