第388話 神前武闘大会開会宣言

「バアル様」


 部屋に案内されてから数十分も経たない時間が過ぎると、背後にいるリンが耳打ちしてくる。


「来たか?」

「はい」

 コンコンコン


 リンの言葉を聞くと同時にノックされ、扉が開かれる。


「おう、待たせたか?」

「いや、俺達も少し前に来たばかりだ」


 扉から入ってきたのは、三日ぶりに会う、グロウス王国の王子の一人、イグニア・セラ・グロウスだった。


「お待たせしました。バアル様、アルベール君」


 イグニアの後ろに続いたのは、ジェシカ・セラ・アルテリシア。正直、何とも関係に困る女性だった。


「進みなさい」

「あ、はい、すみません」


 そんなジェシカ嬢の後ろから入ってきたのは、今回ネンラールに来ることになった張本人ユリア・セラ・グラキエスだった。


「ユリア、ジェシカをそう責めるな」

「責めているのではありません。後ろに私がいるのに止まるので、注意したまでです」


 ユリアがそう返すと、イグニアは用意された自分の席に着く。そしてそれを見てから両脇にジェシカ嬢とユリア嬢が座る。


「それで、参加する獣人は誰なんだ?」

「俺達だぜ」


 イグニアの言葉にアシラが答える。


「そうか…………お前たちの実力だと、本戦はまず間違いないな。せっかくの祭りだ楽しんでいってくれ」

「おう、そのつもりだぜ」


 イグニアは言葉を出すとともに、アシラを観察しながら断言する。


「とは言うが、おそらくバアルの手勢なら、生半可なことが起きなければ全員が本戦出場できるだろうがな」


 イグニアは全員を見渡すと羨ましそうな声を出す。


「そっちは今回は誰か出るのか?」

「いや、去年は俺の騎士の一人を出したが、今年はいろいろあって断念することになっている」


 イグニアは何とも残念そうにしながらそういう。


「本当は俺が・・出てみたいんだがな、俺の立場となるとな」

「だろうな」


 イグニアが試合に出るとなれば、さすがに様々な面でネンラールは気を使うことになるだろう。となればイグニアの出場ははっきり言って不本意な結果になりかねない。そしてそのことをイグニアも理解しているらしく、このことに関しては強くは出てこない。


 ドォン


 イグニアの言葉に同意すると銅鑼の音がコロッセオ内に響き渡る。


「時間か」

「うにゃ、ちょっとうるさい」

「同じく、頭に響いてくるな」


 大きな音が煩わしいのかレオネとアシラは耳を抑える。どうやら聴覚の強化が伴っている獣人には少々きついらしい。


 ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!


 その後、銅鑼の音にも負けないほどの歓声がコロッセオに響き渡る。反響し響き渡る歓声にいくらか眉を顰めている獣人を横目に歓声が上がる原因となった人物を見る。


(あれが現ネンラール王か)


 コロッセオの中でひときわ目立つ一画は王族専用に用意されており、その一画の中心に置かれている玉座の前には現在ネンラールを治めているマルクス=ルガ・ネンラールが立っていた。


 若干白髪交じりの茶髪は整えられており、服装は獣人のように何かしらの毛皮をベースに様々な装飾品が取り付けられた豪華な物だった。また年齢で言えばもうすぐ50半ばに差し掛かろうというのに、身長は190はあろうかという高身長に加えて、体躯は明らかに戦う者のそれとなっている。そしてもし素性が隠されながら紹介されれば、ほとんどの者が30台半ばの男性と言い表すほど、未だに若々しかった。


(あれがジェシカの祖母の兄か……面倒ごとにならなければいいが)


 既にハルアギア公爵が知りえているのなら、あちらがジェシカの存在を知っていてもおかしくはない。そんなネンラール王がどこまでを知り、何を画策しているかは知らないが、グロウス王国の中で何かを引っ掻き回すような行為は勘弁してほしいと心の中で願う。


 そしてネンラール王の周囲には王妃らしき存在が7人ほど立ち並び、そしてその背後にはさらに王の子らが並んでいた。


(ほかの王女よりも美しいとは、また難儀なものだな)


 もちろんカーシィムもその中にいるのだが、周囲にいるであろう王女と比べても全く見劣りしないどころか、むしろ周囲が引き立て役にしか見えなかった。


「今年もこの時がやってきた!!武人共よ!!その身に宿る力を戦神に見せつけ、この時代の栄光を掴むのだ!!!」


 ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!

 ウォォオオオオオオオオオオオオオオ!!


 ネンラール王の言葉に再び、熱狂を持つ歓声が弾ける。


 歓声の中、ネンラール王は一角から移動して、コロッセオの最前部まで降り、用意されたステージまで進み出る。


 ステージの中央まで進みでると、ネンラール王は背後に控えていた一人から何かを受け取る。


 それを形容すると、SFの世界に出てきそうな鉄のブロックで造られた杖だった。太さは一般男性の太ももぐらいあり、長さも現在のネンラール王の胸元ぐらいまである。そして杖と一応は形容したが、実際は細長い長方形の形をしており、どちらかと言えば長方形の細長いブロックとも言えた。


「『戦神ノ遊技場』!!」


 ネンラール王は杖をステージの中央に突き刺す。


 そこからは劇的な変化が起こった。まずネンラール王が持つ杖が変形し始めた。杖は様々なブロックに変形し、増殖して近未来的な台座へと変化していく。杖が完全な台座に変化し終えると、ネンラール王は台座の上に手を当て、タッチパネルの用に手を動かし始める。


 そしてなにかしらの操作が終わると、台座が光り輝き、台座の下から床を這うようにコロッセオの中央、戦士たちが戦うグラウンドへと向かっていく。その後、途中で光は分裂し、地面に均等な距離で多くの円を描いていく。また驚くことにその光が収まるとその円と同じ大きさの石畳のステージが出来上がっていた。


「アレが死なない・・・・訓練場か」

「ええ、ネンラール王家が持つ秘宝の一つですね」


 ネンラールには有名な魔具がある。その中で最もな一つがあの『戦神ノ遊技場』だった。


「では試運転を始める!!」


 グラウンド一杯に、100を超えるステージが出来上がると、ネンラール王が声を上げる。その声に釣られるように一組の人たちがグラウンド入る。


 二人はネンラール王が最も見えやすいに一番近いステージに乗ると、ステージから光の膜が現れる。


 光の幕が半球状にステージを包むのを確認すると、ステージの上に数字が表れてカウントダウンが始まる。10から始まる数字が徐々に減っていき、1の数字が消えるとどこからか音が鳴り、二人が動き出す。


 ザッ

 ザンッ


 試運転のため二人は戦うことは無く、片方が膝をつき、もう片方が剣で首を刎ねる。


「ひゃ!?」

「うへぇ~」

「普通にやるかね、普通」


 セレナはその光景を見て悲鳴を上げて、レオネは気持ち悪い物を見たような表情になり、ロザミアは眉を顰める。


 だが次の瞬間、三人の表情は面白いように変わっていく。


 なにせ、首を刎ねられた者の体が輝き。その後、光の粒へと変わると、ステージを包んでいる膜へ吸い込まれていった。


 ドサッドサッ


 全ての粒が吸い込まれると、光の幕から死んだはずの者が飛び出てくる。


「他国や遠方かやってきた者らよ!!!我が国の持つ秘宝はこのように死なぬ!!!安心し、存分に楽しんでいってくれ!!!」


 その言葉と共に台座に手を置くと、再び台座が光始める。だが前回とは違い、台座の上に淡い光球が現れる。それはグラウンド真ん中の上空まで移動すると、大きく膨張する。


「ではこれより、神前武闘大会の予選を開催する!!」


 その言葉と共に光の球から花火のような物が打ち上げられる。


 ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!


 こうして、派手に神前武闘大会が開会された。

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