第385話 戦争への興味

(……やはり威力が上がっているな)


 豪華なソファに座りながら『天雷』を放った手を何度も握り、開きを繰り返し調子を確かめる。


「バアル様、何かございましたか?」


 その様子を見て、背後にいるリンが心配そうに声を掛けてくる。


「いや、問題ない。久しぶりに使ったからか、感覚に戸惑っただけだ……それよりも」


 俺は対面に視線を向ける。そこには同じようなソファに座り、お茶を飲んでいるカーシィムの姿があった。


「どうした?この部屋が気に入らないか?」

「……いや、ここほど穏やかに会話できる場所はないだろう」


 案内された部屋は二階に位置しており、窓からは緑豊かな庭園が見渡せる。そして部屋の中は木肌の様な茶色と薄い緑色、白色の三色だけの彩色を取られており、一言で言えば安らぎの隠れ家の様な風体をしていた。また、部屋には光源がなく窓際から入り込む、陽の光だけで部屋の中が照らされる。そして窓際の席の上には水面から反射された光が入り込んでおり、それがまた明媚な雰囲気を醸し出していた。


 また部屋の中には俺と連れてきた護衛、そしてあちら側はこちらの護衛と同数になるだけの人数が集められていた。


「さて、話に入る前に謝罪をしたい。すまなかった」


 カーシィムは軽く頭を下げて、謝罪をするが


「謝罪は必要はない」

「……そうか」


 こちらの言葉の意図を理解すると、カーシィムは頭を上げる。


 コンコンコン


 カーシィムが頭を上げ終えると、扉がノックされる。


「クヴィエラ」

「はい」


 カーシィムの言葉でクヴィエラが扉を軽く開けて、扉の外から用件だけを聞く。そして、扉が閉じられると、カーシィムの元に戻り、耳打ちをする。


「そうか……アラージャの死亡が確認された」

「そうですか」


 カーシィムの言葉に軽く返すとカーシィムの護衛から圧が飛んでくる。


「なぁ、こっちの人間を殺しておいて、それだ――」

「ユライア、黙れ」


 今日の宴会にもいたユライアが、眉を顰めながら物申そうとすると、カーシィムが止める。


「だが、よう」

「ユライア、カーシィム様の言う通りです。過程がどうであれ、こちらが制御できずにアラージャの口から暴言を出させてしまった。となれば、このような結果は当然であり、受け入れるべきです」

「……仲間が殺されてもか?」

「逆に聞きますが、どこ誰ともわからない馬の骨がカーシィム様の眼前で侮辱を行って、無事で済むと思いますか」

「むっ」


 クヴィエラの言葉を聞くとユライアをはじめとする護衛達が納得しかける。


「……確かにアラージャの素行は悪かったが、殺されるほどではないじゃねぇか」

「あの場で、生かすようにバアル様を制止しろと?ですが、それは殿下の立場から容認しえません」

「なんでだよ!?」


 ユライアが納得いかないと声を荒げるが、クヴィエラはため息を吐きながらやれやれと頭を振る。


「では制止して、どうしろと?アラージが何のお咎めなしではバアル様は納得しえないでしょう。かといってアラージャを中途半端な罰で許してしまえば、せっかくの縁が完全に途切れます」

「そこは……ほら、重い罰則を与えるぐらいで止めるとかさぁ」

「こちらも容認し、あちらもこの結果で満足しています。それにユライア、彼の処罰は妥当です。彼方も一応は習ったでしょう?」

「けっそうかよ」


 クヴィエラに言いくるめられると、ユライアはカーシィムの背後から移動して、壁に背を預けて座り込む。


「申し訳ありません。ユライアは仲間思いなため、アラージャの結果を受け止め切れていないのです」

「別に気にして・・・・はいない」


 こちらの物言いに、クヴィエラが頬を引く着かせながら頭を下げる。なにせ、言い換えればそちらのことなどどうでもいいと言えてしまうからだ。


「さて、とりあえず話題を次に向けるとしよう」


 空気を換えるようにカーシィムは言うと、お茶をテーブルに置く。


「そうですね、では話とやらを伺いましょう」


 やや場が険悪な雰囲気を出しているが、こちらとしては長引かせるつもりはないので、早めに話を終えたかった。


 その様子を察してか、カーシィムは真剣な眼差しで口を開き始める。


「バアル、君はアジニア皇国に勝ってほしい?それとも負けてほしいか?」

「……どちらでしょうね」


 カーシィムの口から出てきた問いに、しばらく考えた末に口を開く。


「いや、そちらの事情を知る気はない。おそらく、バアルからしたら、我が国が勝つならそれなりに損害を出してほしい、そして負けるなら、それもそれでいいと言ったところだろう」


 カーシィムと視線がぶつかり合う中、安らぐはずのこの空間が軋みを上げているような錯覚を起こす。


「まず一つ訂正を、俺は今回の戦争の結果に多少の興味はあっても過程には興味がない」

「それならば、それでいい。そのうえで私の言葉を述べるが――――今回の戦において私はネンラールには上手く負けて・・・・・・ほしいと思っている」


 その言葉を聞き終えると、思わず怪訝な表情をしてしまう。


「負けることを望んでいると?」

「より正確に言えば、兄達を失脚させるための足掛かりにしたいということだ」


 そこからカーシィムはこの戦争について説明してくれる。


「まず、この戦争を率先したのは一番目と三番目の兄達だ。理由は銃という技術強奪と侵略の結果による大量の奴隷の仕入れ、この二点が理由となる」


 カーシィムの言葉に納得する部分もあれば納得できない部分もあった。


「だが二人の思い描いていた筋書きにはすんなりとはいかなかった」

「その結果、戦争は一年と半年ほどの戦争か。要因はわかっているのか?」


 カーシィムは簡単だと頷く。


「アジニア皇国という小国を侮りすぎていたことと、銃と我が国の相性が最悪だったことだ」

「油断の部分は理解できるが……相性、か」

「そうだ……どう説明したらよいのか」

「カーシィム様そこから先はお任せを」


 良い例えが浮かばないカーシィムに救いの手を差し伸べたのはクヴィエラだった。


「こうお考え下さい。グロウス王国とネンラール、それとクメニギスがそれぞれ1000の教育力を持つとします。そしてその国に100人の子供、様々な武術、魔法、技術の資質を持つ者たちに分け与えるとお考え下さい。もちろん個人での資質、才能は此処に違いそれぞれの長所短所が存在すると」


(……ゲームでよくある自分で振り分けられるパラメーターということか)


 ゲームの知識があるからこそ、クヴィエラの説明がすんなりと頭に入ってきた。


「そして国が教育力を個人に振り分けることで、それぞれの資質が数値的に伸ばされるとします。例えるならある人物の才が1の時、教育力を1与えることで2にすることが出来るという風にです」

「何となくわかった、その先を言え」

「わかりました。まずそれぞれの国で教育力の割り振りが違います。例えるならクメニギスは魔法を発展させるために、100人の魔法に関して1000の教育力を使います。これがグロウス王国なら、100人のそれぞれの長所に合わせて、振り分けるでしょう」

「ネンラールは違うと?」

「はい」


 なんてこともないようにクヴィエラが頷くと、その続きが語られる。

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